56
序章というか、回想からスタートの第六章です。
≪???≫
フフフ、やはり私には行きつきませんでしたか。
そうでしょう、そうでしょう。
あの時私を除籍処分にした方たちからしたら私など取るに足らない人物になったのでしょう。だからこそ私の経歴も私の写っていた写真も動画も一切合切消去したのですから。
元々私は孤児でありながら幼少期の学力テストで宇宙物理学の論文の理解を示したことから大学に推薦され、わずか2年で卒業と同時に准教授に上がり、宇宙理論の七大課題のうちの一つを説いたことにより私は教授にまでなりました。
きっと彼らにはそれが気に食わなかったのでしょうね。
確かに私が教授になったのは10歳の誕生日を迎えたときでしたが、別に彼らをないがしろにした覚えはなかったのですが、彼らにとって若輩でありながら七大未解決問題の一つを解き明かした私は邪魔者だったのでしょう。
但し、一人だけ私の味方だった男がいましたね。
彼はあの時からきっと決意していたんでしょう。
今でも覚えています。
あのよく晴れた青空の午後、私が大学を去るため準備をしていたところに彼が現れて
「坊主、良かったら俺の養子にならないか?」
「なんだよ、突然」
「お前、両親も親戚もいないって言ってたろ。学会は追放されたから学校にはいられないけど、良かったら一緒に住まないか?」
「いいよ別に。それに給料がよかったし、研究も実地でなんか行かなかったから研究費も選別で今までの分もらえたから船でも買って自分で研究するよ。もっと確実な証拠を掴んでいつかあいつらに一泡吹かせてやる」
「そうか、まぁがんばれや。俺は今回のお前の除籍処分を聞いてつくづく老害たちをこの手で」
「やめとけよ。いらないことすんなよ。俺は、俺であいつらに復讐する。余計なことはすんじゃねぇぞ」
「おー。怖い怖い。分かった。俺は手出ししない。だから俺はお前の味方に付いていたから、俺には復讐するんじゃねぇぞ」
「わかってるよ。あんたのおかげで俺は生きられたんだからな。」
「そうだぞ、もっと感謝しろよ、お前、色々な常識が抜けてる・・・いや、学校に通う前に大学に来たんだったな。」
「それが何?」
「選別だ。睡眠学習のプロトタイプだが一般常識くらいは身に着けていてもいいだろ。ココを出ていく前に一時間だけ睡眠取って覚えておけ、それが世間でいう常識と非常識を詳しく教えてくれるからさ」
「わかった。ありがと」
「くくく、お前が礼を言うとはな。明日は雨が降るかもな。」
「ぬかせ!」
「フッ。じゃぁな、坊主」
「またな、プロフェッサー・リック」
「よせよ、いつも通りルークでいいよ、」
「なら、これからはライバルだな」
「そうか、ライバル、宿敵か。殺伐としていそうだな。」
「またいつかどこかで論理バトルしようよ」
「そうだな、またいつか。な」
そういって、去っていく宿敵の背中から悲しみが見え隠れしていたのを俺はその時見逃してしまった。
俺が大学を去るとき、慕ってくれていた学生たちや、俺のことを知っていた人たちは見送りに来てくれていたが、そこにはライバルの姿はどこにもなかった。きっといつものように論文作りで時間を忘れているのだろうとこの時は思っていた。だからかな、あの時無理やりでもあいつの顔を見に行っていれば・・・
それから、20日後、俺は宇宙船の中で学会新聞を読んでいた時、小さな記事を見つけた。
【ルーク・リック教授、今回の教授への除籍処分について不可解な点が多数見受けられたため学会に対し不信任決議を公表、3日後何者かの手により殺害され、さらには研究所もろとも爆破されたことにより不信任決議はルーク・リック教授死亡のため取り下げられました。
ですが、その8日後捜査関係者が調べたところ、学会のお歴々の方たちから依頼を受けた殺し屋が差し向けられ、除籍処分を受けた元教授とルーク・リック教授のお二人の殺害を依頼していたことが発覚。
元教授の方に関してはすべての個人データ並びに彼の経歴が全て消去され、存在すら抹消されさらに殺せと依頼していたことで事の重大さが明るみになり、学会のおよそ半数が教授殺害、元教授に対しての不正行為での除籍行為と殺害未遂を依頼していたことで今回の事件にかかわった全員が逮捕されました。
元教授の行方に関してはルーク教授の的確な判断により、彼の経歴削除に気づいた段階で彼の養子手続きを行い、相続人としてもしていたことで彼の経歴削除を行われはしたものの、何とか彼の存在だけはつなげていたようです。
そしてもし、この記事を読んでいるであろう、ディルラタル元教授あなたの身柄拘束、並びに逮捕などの法的刑罰は一切ありませんのでどうか、ご一報を。ルーク教授の残された遺産受け取り期限は500年にしているそうです。いつでも、いいので同盟銀行、遺産相続課までお伺いください。そして、身分証明書については自動更新設定がなされているそうなので手続き不要です。
もし、もしいつか取材に応じてくださるのでしたら、学会新聞ジェルナ・ローズ・ナルベーリックまでご連絡をおねがいいたします。】
この記事を読んだとき、俺は胸が引き裂かれる思いをした。そして、彼のことを思って彼との思い出に浸りたかったが、彼との思い出は、趣味に近い宇宙理論ばかりを話していて彼個人のプライベートについては何も知らなかったことがわかった。
彼の最後の土産。睡眠学習・一般常識プロトタイプPart49
起動してみた。
最初は一般常識、非常識、マナー講座から行けなかった、学校で習うはずの勉強すべてを濃縮して教えられた。苦手意識のあった数学なんかはここで教えられたし、女性の扱い方、お金の使い方、人生のすばらしさ。すべてが詰め込まれた教材だった。
一般常識だけじゃなくて、俺だけの俺専用の睡眠学習プログラムだったようだ。それでも1時間はあっという間に過ぎて、のこり10分前になったときだった。俺は半覚醒になりつつある意識の中で彼が表れた。
「よう!久しぶり、これを見て、どう思った?ディル一般常識以外にも詰め込んだから、起きたらしばらく大変だろうけど、それが世の中では10年以上かけて子供が学ぶ常識だ。役に立つ、立たないはこれからの人生次第だからな。それと、このプログラムはプロトタイプだからこれが起動した瞬間から消滅プログラムが走っている。起きたら、中のデータは一切合切消去してるって寸法だ。それと、ディルには黙っていたが、勝手に養子縁組、組んでるから嫌だったら研究室に来いよ。OKだったならこれだけは起きてすぐ何かにメモれ!これは、養子縁組組んだ後の俺の財産相続の”QYTLO~H453’とHI7O0UASNだ。おれがこの後、ディルに合わずに死んじまっていたら、学会新聞にいる友達に俺のことを伝えてもらうように手配してある。何かあれば、そいつに頼れ、きっといい答えを用意してくれるさ。
そろそろ、一時間が経つから終わらせてもらうよ。
恥ずかしいから、あったときは何も言うなよ
ディル!お前の旅に祝福を、お前の人生の幕開けの一歩を踏み出すディルに幸多からんことを願って。
またな!!」
・・・涙がこぼれた。
「おれは、お前の分までしっかりと生きるからな。復讐なんかより、お前と一緒にやった研究を昇華させる。それで、それでまたいつか、お前にあったならその時は理論バトルをしような!
ルーク!」
それから俺は、次元断層について研究しまくった。もちろんルークの遺産はこっそりと受け取っておいた。新聞に載っていた方法は正規の手順で、ルークの教えてくれた方法は身分を公にしたくない人が使う方法だったようだった。
ありがたかったから、そのまま使わせてもらった。
経歴に関しては完全に消滅してしまっているらしいが別にどうでもいい。俺が経歴削除してたのに学会の老害どももしてくれていたから、早く消し去れたようだった。
次元断層については、あれから進展があって、今の拠り所に居させてもらっている。
あの時、俺の理解者が死んだことが分かったときから、きっと俺はあの世界から切り離されたんだろうな。
でもそれでよかったのかもしれない。あの世界では俺は、マッドサイエンティストなのかもしれないがここではただの研究者であり、学者でもある。あの世界で手に入れたかったものすべてが手に入ったのかもしれない。
だからこそ、いつか彼に会った時、私が考え出した答えを教えるためにもっともっと、研究しなければならない。つまり、捕まらないように行動しなくてはな。そのために、思い入れのある名前までも捨てたんだから。
だからこそ、捕まるわけにはいかないんだよ‼
≪??? 終≫
誤字脱字、もし見つかれば報告、よろしくお願いします。