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「レイさん。おかしな顔をしていますね?まるで戦闘らしい戦闘をしないせいかビックリしてるんでしょう?でもご安心を一隻つぶしたのでこれから本気で敵との交戦がはじま、りましたね。これは想像以上の結果でしょうかね?向こうにも優秀な砲撃要員でも積んでいるのでしょうか?
居るわけないでしょうね。向こうのやり口は最初の方で学びました。レイさん。私たちの任務はあなた方の惑星降下と惑星脱出後の目的地移動までは誰も死ぬわけにはいかないんです。ですから、どうか無事の帰還をお待ち申し上げております」
これから降りる特殊部隊の彼らに対して艦長からの一言が結構長かったが、また生きて迎えに来てもらうことを固い握手と共に応じる。
「ありがとう、艦長。これより惑星降下シークエンスを行い敵拠点制圧を実施して良い結果を持ち帰ってきますよ」
降下したことを確認した艦長たちに急報が知らされた。
「艦長!敵艦が、敵艦が動き出しました!あの艦は先程我々が撃破しました。ですが今あの艦の熱源は急上昇してます」
通常艦の熱源が上昇するのはよくある事だが我々が撃ち込んだビーム攻撃はエンジンを撃ち抜いて動力部を壊したと思っていた。思っていたんだ。
「至急全艦退避せよ!艦長方、すぐに逃げろ。私のこの艦は大気圏航行も可能なスペックを持っている。だからこそ最悪の場合特殊部隊の回収は任せてほしい」
『なら艦長。我々は貴殿に全て任せるしかないな。だが艦長我々にも信念があるから覚えておいてほしい。この作戦は秘匿性が求められるから名前は言い合えないが、貴殿の事は覚えておく。ありがとう。そして私達も準備は整えておくよ。特殊部隊回収班を手配しておく。必要がなければいいんだがな』
本当にベテランの艦長達はこういうニュアンスだけでも伝わって即座に動いてくれるからありがたい。
【艦長!】
その時、今までレイたちを乗せていた艦の艦橋勤めのレーダー索敵班から報告があった。その報告を他の艦で聞いていた彼らは目の当たりにする。遠くの方で一瞬光ったと思えば船が爆散し巻き込まれた船が少々。こちらの損害は、先ほど一番最初に降下部隊を回収すると宣言してくれていた艦が火の玉になって惑星に降下し始めていた。
そして思い出す。私達にはこの場から動くことはできても逃げることだけは許されない。敵はいつでもこちらを仕留めるために刃を磨き我々の日和った考えが表に出た瞬間に噛み付く。
その瞬間を見せずに敵を撤退させることが最優先目標だと言われてはいたが、コレほど難しいとは夢にも思わなかった。コレでは彼らを送り出しても彼らの帰るべき場所がなくなる。
「戦え」
最初の一言目は誰が言ったんだろう。自分か?否。そんなことはどうでもいい。今出来ることを我々がやればいいのだから。
「戦え。戦え、今この時この場所を死守することが最大の目標だ。敵が撤退するまで逃げもせずに戦うぞ」
やる気十分でも精神論は感心しないと言わんばかりに私の隣にいた船は実力行使で教えてくれる。どの場所に行けば敵との交戦で損害が少ないのかと。敵との優位性を確立するための行動は皆艦長が行うもの。そうでなければお飾り艦長は今この場所に立てるわけがない。
私はプロフェッショナル。この場所から生き残るためにも戦う事を誓う女。
「私は艦長だ!」
今私が発した言葉に対して艦橋にいるメンバー達は一瞬肩をビクッとさせてしまい申し訳ない。だがわかって欲しい。誰がこんな所で死にたいものか。ならば気合を入れるための喝を入れただけなんだ。そんな目をしないでほしい。
「艦長うるさい」
「そうですね、今はそれどころでないのは自覚してます。ですから出来ないことはできるものがやります。艦長は艦長の出来ることをして下さい」
皆ひどい。そんなに言わなくてもいいじゃない。それに目が。目が!目が怖い!!
「艦長!生き残ってる他の艦から連絡が来てます。援護します。あの船は任せろとの事です!」
今、目の前で対応に困ってる艦を他の艦に任せて先行していいと言われたなら行っていいのかもしれないが、私達にも出来る限りの対処だけはするべきだろう。
「了解、後は任せる。と、一当てしてから離脱すると連絡してください。
では、戦闘準備!右舷を叩き左舷側を食い破ってこの戦闘空域からの離脱を実行する」
そして私たちの艦は命令通りに船を航行不能に追いやってから左舷側の空間を横切って戦線離脱を図る様に見せかけて反対側から揚陸強襲艇兼大気圏離脱ブースターも同時に下せる位置取りに移動を開始した。
【後は任せます。一当てしてから離脱します】
「わかりました。そちらにすべてお任せします。こちらは気にせず」
通信内容的に傍受されているとして必要最低限の通信のみで後の行動は察しろとのことだが、ベテラン艦長として長年この席に座れる実力を持つ者ならわかる。彼女たちの艦はこれから敵を引き離し、まるで戦線離脱を実際に行ったように敵を振り払ったタイミングで転進して降下部隊に合流する部隊を下すのだろう。私たちの艦にも乗っている特殊部隊の方たちには大気圏突破用のブースターも持って行ってもらわなければいけないが、もしこのブースターが敵の手に渡ったと考えるなら二番三番くらいの先読みくらいしなければいけないが、向こうもそれくらい考えているだろうし、どうしたものか?




