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第六十七話 キャンプ編Ⅱ 乙女心

 川遊びを終えロッジで少しだけイチャイチャした春近は、夕食の準備をするべく受付で鍋や食材を受け取り運んでいた。

 分担を決めて皆で夕食のカレーやバーベキューの準備だ。


 春近は彼女たちを眺めながら班決めをしようとする。ここで間違えてはいけない。御飯が炭になったら大惨事だ。


「班分けは、火起こし班とカレー作る班とバーベキュー準備班かな」


「私、食べる班で!」

「そんな班はねぇ!」


 食いしん坊なルリにツッコむ春近だ。


「春近、あんたがあたしに振舞いなさいよ!」

「ぐぬぬ、渚様も手伝ってね……」


 気品漂う感じに足を組み座っている渚にもツッコんだ。

 若干、問題児がいるようだが、たぶん冗談だと信じたい。



「炭火の準備はコツがいるからな……」

 とりあえず春近は炭火の準備をする。


「土御門君、火起こしは私にお任せ下さい!」

 自信満々の杏子が胸を叩く。


「鈴鹿さん経験者なの?」

「経験は皆無ですが、『ハードキャンプ夏の行軍』というアニメで、火起こしは一通り学んでいるであります!」


 何だか不安になることを言う杏子だが、やる気満々なので任せることにした。



 続いてカレーの調理だ。


「カレーの準備は食材を切ったりするから料理の得意な忍さんと、後はオレがやるよ」


「うちも手伝うよぉ」

 あいが手を挙げる。


「えっ、あいちゃんが……?」

「あー! 今、失礼なこと思ったでしょー!」

「えっと……すこし」

「もぉ、うちに任せて」


 あいちゃん料理得意なのかな……?

 こちらもやる気満々なので任せることにした。



 担当を割り振り――

 火起こし班、杏子、栞子。

 カレー班、忍、あい、春近。

 バーベキュ―準備班、ルリ、咲、渚、アリスとなる。



 カレー班の春近たちは、炊事場に移動して食材を切り始める。

 料理が得意な忍は、テキパキとこなしていて安心感があるようだ。その横で春近も一緒にジャガイモの皮をむき始めた。


「ふんふんふふん~」


 鼻歌交じりにタマネギを処理し始めるのは羅刹あい。手慣れた感じにサクサクとやっていて、横で見ている春近が目を丸くして驚く。


「えっ、えええっ!」

「はるっちぃ、驚きすぎぃ」

「え、えと、あいちゃん、実は料理得意だったのか……」

「だから任せてっていったのにぃ」


 綺麗に塗られたネイルを見て、勝手に料理出来ないんだと思っていた。

 ごめん、あいちゃん――



 一方、火起こし班では。

 杏子がアニメのオープニング曲を歌いながら炭火の準備をしている。


「夏の行軍、敵は幾星霜~♪ 進め、進め、進め~♪ ハードなキャンプでアッー♪」


 変なテンションに栞子が戸惑っていた。



 そして、バーベキュー班の方は――――

 ルリがアリスを持ち上げて遊んでいた。


「やめろ、降ろすのです!」

「たかーい、たかーい! そーれ」


 出会ったばかりの頃は少しギクシャクしていた二人だが、今は仲良くなったようだ。たぶん。


 春近がバーベキュー用の肉と野菜を持って行くと、咲と渚が何やら話しているようだ。


「おい、渚も手伝えよな」

「いやよ、手が汚れるし」

「はああ?」


 そんな二人だが、春近は咲にバーベキュー用の串を手渡して説明する。


「咲、こうやって食材を刺して――」

「ハル上手いな。こうか?」

「そうそう、手を刺さないように気を付けて」

「うん、ありがとハル」


 二人が楽しそうに食材を刺しているのを見た渚が、嫉妬まじりの複雑な顔をしている。


「あっ、渚様もやってみます?」

「えっ、べ、別にあたしは……」


 渚としては、目の前で二人が仲良くしているのは複雑なのだろう。


「ほ、ほら、オレ、渚様の作った串を食べてみたいです」

 串を渚に手渡しながら春近が言う。


「し、仕方がないわね! あたしが刺してあげるのだから感謝しないさいよ!」


「あれ、意外とチョロ……げふんげふん」


「春近用に、肉無しで全部野菜を刺してあげるわね!」

 満面の笑みの渚がビーマンだけ刺し始めた。


「うっ、前言撤回だぜ」




 そんなこんなで料理は完成し、皆で炭火を囲んで食べ始めた。


「「「いただきます」」」


 予想より数段美味しくできたカレーとバーベキューを食べる。

 キャンプで食べる料理は、更に美味しく感じるものだ。


「はい、春近」

 渚が笑顔でピーマンとタマネギだけ刺さっている串を春近に渡す。


「本当に作っていたのか……」

 せっかく渚が作ったので、春近は有難くいただくことにした。



「ちょっと酒吞瑠璃! あんた、肉食べ過ぎよ!」

「えーっ、私より忍ちゃんの方が食べてるよ」

「ごほっごほっ……」


 渚が自分の前にある肉を取って行くルリにツッコミを入れたが、突然ルリに話を振られた忍が咽ている。


「よし、オレがアリスに肉を取ってあげよう。ほらアリス、お肉をお食べー」

「子供扱いするなです。自分で食べられるです」


 アリスが可愛いので、つい子ども扱いしてしまうのは仕方がない。


「ハードキャンプ第六話で、熱い友情を確かめ合ったユウジとタクヤが尊くてですね……」

「は、はい……」


 杏子にアニメの話を振られて、栞子は戸惑っているようだ。



「ハル、今日は来れて良かった。また一緒に遊びに行こうな」

 咲が良い笑顔で言う。

「はるっち、みんな仲良くなれたのは、はるっちのおかげだよ。ありがとね」

 あいも笑顔だ。



 夜の闇の中に燃える炎を見ていると、神秘的で幻想的な気持ちになってくる。

 皆、笑顔で楽しそうだ。

 何気ない日常、ささやかな幸せ、皆と一緒の楽しい時間。


 このまま幸せな時間が、ずっと続けば良いのにと春近は思った――――


 ――――――――




 春近がシャワーを浴びロッジに向け歩いていると、急に誰かに腕を引っ張られて建物の裏に連れ込まれる。


「春近」

「な、渚様!」

「しっ! 静かにしなさい」


 春近を連れ込んだのは渚だった。


「渚様……こんな場所でエッチなことするのは」

「しないわよ! 虫が多いし」

「ですよね」

「まったく……そ、その、ちょっと話があって……」


 普段は自信満々に見える渚が、珍しく不安そうな顔をしている。


「春近、あんた酒吞瑠璃に告白したんでしょ」

「う、うん……」

「それで、あたしに何か言うことはないの?」

「えっ……」


 意味深な渚の言葉に、春近も緊張する。

 もしかして……でも、まさか――


 風呂上がりの渚は、いつものように巻き髪にはしておらず、濡れた髪を軽く乾かしただけで金髪が緩く流れている。

 ヘアセットやメイクをしなくても彼女の美しさは何一つ損なわれず、むしろ風呂上りで上気した肌や湿った髪が妖しい程の色気を出していた。


 今は普段のような威圧感は少しだけ鳴りを潜め、妖気のような美しさの中に少しの不安を抱え、熱い瞳で春近を見つめて次の言葉を待っているようだ。


 ここまできたら、さすがに鈍感な春近でも気付いた。


 これは……やっぱり、ルリに告白したのに、渚様にはちゃんと好きだと言ってないからだよな……。

 もう、ここまで来たらハッキリさせるしかない。


「あ、あの……渚様は、威圧感が凄いし、傍若無人で唯我独尊で、初対面で足を舐めさせられて……」

「春近! ケンカ売ってる?」


 渚が睨んでくる。


「いえ、最後まで聞いて下さい」

「そりゃ、あたしだって初対面でいきなり足を舐めさせたのは悪かったと思ってるし……」


 足を舐めさせたのは、少しだけ反省していたようだった。


「えーとですね、それで……最初は怖い人だと思っていたのですが、何度も会っている内に意外と優しいところや女の子らしいところがあって、そのギャップが良いなって思えてきて……」


「うん……」


「あの激しい愛情表現も、何度もされている内に徐々に愛おしいと思えるようになってしまって……。つ、つまり、オレは渚様が好きです!」


 言った! 言ってしまった! もう、後には戻れない!


「は、は、は、春近!」

「えっ?」


 ガバアアアアアアッ!

 渚が凄まじい勢いで抱きついてきた。


「ん、んっ、んんんっ……あ、あたしも、春近が好きよ……はぁ、はぁ、はぁ……」


 渚は、身体が震える程の興奮状態で、息も絶え絶えに告白してきた。至近距離から見つめてくる彼女の目には、ギラギラと狂気とも思える程の光が渦巻いており、今にも爆発しそうな危険性を感じる。


 これには春近も恐怖で背筋が震えた。


 も、もしかして……オレは、とんでもない事をしてしまったのでは……。決して開けてはいけない、決して触れてはいけない、狂気の絶対女王の封印の扉を開けてしまったのでは――――


「んっんんっ、ちゅ、ちゅぱっ、むちゅぅぅっ、ちゅっ……」


 強烈な貪るようなキスだ。

 彼女の舌が春近に侵入し、口の中を舐め回し、貪り尽くし、吸いまくり、犯し続けるように。


 まるで脳内に直接痺れ薬を注入されているような感覚がして、体が激しい快感と痺れで立っていられなくなる。

 ふらつき壁際まで押し込まれ、全てを食らい尽くされるようなキスをされ続けた。

 薄く目を開けると、彼女はキスをしたまま大きく目を見開き、鋭い眼光で見つめ続けている。


 怖い、怖すぎる――

 春近は凄まじい快感と共に、このまま殺されてしまうのではないかという恐怖を感じていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」

 渚は長いキスを終え、両手で春近の顔を掴み自分の顔をほぼゼロ距離にまで近づける。


「春近! 好きよ! 地下室に監禁して、永遠にあたしの愛奴隷として可愛がってやりたいくらいに!」


「やっぱり怖すぎるぅぅぅ!!!!!!」


 まるで彼女のキスで甘い毒が全身に回り、何をされても逆らえない奴隷にされたようだ。もう絶対に後戻りはできない愛の監獄に囚われたかのように。


 これで……良かったのか?

 いや、良いも悪いも彼女の毒に犯されたオレには、すでにこうなる運命だったのかもしれない。


「春近! 今夜は楽しみね!」

 渚は満面の笑みで意味深な言葉を残し、ロッジに戻って行った。


「あああ……オレは一体何をされるんだぁぁぁぁ!」


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