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陰陽学園の鬼神嫁 ~十二天将の力を全て手に入れたら、愛が激しい美少女たちと永遠になる物語~  作者: みなもと十華@姉喰い勇者2発売中
第一章 鬼の少女達

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第五十二話 因果逆転

 暗い――

 暗い闇の中に沈んでゆく――

 ここは、何処だ――

 オレの体はどうなった――

 オレは、死んだのか――――




 ズドドドドドドドド!

「うあぁぁぁぁぁぁ! ハルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 前方から最強の鬼、酒吞瑠璃が突っ込んでくる。

 百鬼アリスは、それを呆然と眺めていた。


 いや、今はそんな事どうでもいい。

 ほんの一呼吸の間、その瞬間にアリスは考えた。


 あの男、春近がわたしの呪力に巻き込まれて危険な状態だ。

 助けたい……

 わたしなら助けられる。


 根拠は無いが、何故かアリスは確信していた。

 自分は妖魔の王なのだからと。

 呪力を抑えるのではない。

 むしろ呪力を全開放して、自分の呪力を支配できれば――――


 アリスは、ほんの一瞬、ほんの僅かな間だけ呪力を開放した。


『因果逆転!』


 仕組みも原理も分からないが、自分ならできる!

 運命を操るわたしの呪力なら、原因と結果を入れ替え彼を救うことができるです。

 わたしが望む結果に――――


 次の瞬間

 突進してきたルリの呪力が、アリスの呪力と接触した。

 空間が捻じ曲げられてゆく。


 ギュィィィィーン! ビッビビッ、ビビビビビビッ!

 バリィィィィィィィィィィン!!


 何かが割れるような音がして、アリスの周囲に展開していた磁場のようなものが弾け飛んだ。

 その勢いのまま、小柄な彼女の体も後方に飛んで行った




 暗い――

 暗い闇の底から――

 そうだ、思い出した――

 彼女は――

 あの時、オレを助けようと――




「ハルぅぅぅー! ハルぅぅぅー!」

 耳元で凄い鳴き声がする。


「うわああああっ! ハルがぁああっ!」

 

 誰かがオレの為に泣いているのようだ。

 そうだ、オレはアリスを助けようとして……


 春近がゆっくりと目を開くと、自分の胸に咲が抱きついて泣いているのが見えた。

 周りに皆が集まって心配そうな顔をしているのも見える。



「咲……」

 静かに春近が声をかけた。


「あっ! ハル、大丈夫なのか?」

「咲……うん……ちょっと気絶してただけだよ」

「ハルぅぅぅ! 死んじゃうかと思っただろぉ! 無茶するなって言ったのに!」

「ご、ごめん……」


 首を反対側に向けると、ルリが覗き込んでいた。


「んっ、ルリもありがとう。助けに来てくれて」

「う、うん……」

「ルリのおかげで助かったよ」

「うん……」


 ホッとした顔をするルリだが、その表情が優れない。

 春近は、そのルリの様子が気になった。


 なんだかルリの元気が無い……。

 どうしたんだろ?



 そして、その場にアリスがいないことに気付く。

「そうだ、百鬼さんは?」


 百鬼アリスは飛ばされた時に頭を打ち、病院に運ばれたという話を聞く。

 怪我は大したことがないそうで、春近は安心した。



「うんしょ」

 春近が立ち上がろうとすると、咲が抱きついてくる。


「おい、無理するなよ。まだ横になってろって」

「もう大丈夫だよ」

「アタシが肩を貸すから」

「あ、ありがとう……」


 咲の柔らかく温かい体を感じ、春近の顔が赤くなってしまう。


「おい、熱あるのか? 顔が赤いって」

「いや、これは……違うから」

「保健室行くぞハルっ」




 そんな中、ルリは悩んでいた。


 あの時、春近が危ないと思ったルリは我を忘れてしまう。状況も分からないままアリスに突っ込んでしまったのだ。


 わ、私は……ハルを助けようとして……彼女を止めようとした……。でも、彼女は私ではなくハルを見ていた……。

 そうだ、呪力と呪力がぶつかった時に感じたんだ。彼女はハルを助けようとしていたんだ。

 私は我を忘れていただけだった。


 ハルのことになると我を忘れてしまう自分が怖い。怖くてたまらない。

 いつか、私の呪力でハルを傷つけてしまうかもしれない。

 私は、どうしたらいいの――――


 ――――――――




 アリスは病院のベッドで目を覚ました。


 目を覚ますと白い天井が見えた。病院のベッドに寝かされているようだ。


「生きてる……」

 そう呟く。


 そっと自分の体を触り確認すると、頭に包帯が巻いてある。


「飛ばされた時に頭を打ったのですか? そう、確か飛ばされて」

 自問自答するアリス。


 あの男は無事だろうか……

 無事だろう……確信がある。

 あの時、自分は一瞬だけ完全に呪力を支配していた。

 今までずっと呪力を開放するのを怖がっていたのに、何故かあの時は呪力を支配できると思ったのだ。


「まったく、ハレンチ君には困ったものです」

 自分でハレンチ君と言って笑ってしまう。

「ふふっ、しょうがない人です」



 ふと気づいた。

 いつもと違う感覚。


 アリスは、自分の周りに常に展開されていた磁場のような呪力が消えている事に気付く。


「これは……一体……」


 わたしが一瞬だけ完全に呪力を支配したから……それとも、あの最強の鬼がわたしの呪力を破壊したから……?

 どっちにしろ、今までずっと周囲の人に悪影響を与えてしまっていた呪力が消え、ある程度呪力の制御が出来るようになったようです。


「ううっ……ぐすっ……あれ? なんで」


 何故なのか分からないけど涙が出てくる。

 後から後から次々と頬を伝い。


 ずっと自分を苦しめていたものから開放されたのだ。

 他人に悪影響を与えてしまう呪力。

 自分を孤立させていた忌まわしい力。



「あはっ、あははっ、あははははっ」


 まるで憑き物が落ちたようなスッキリした顔のアリス。彼女は笑いながら泣き続けた。まるでごく普通の少女のように。


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