第三十九話 つながり
怯えているような阿久良忍を連れて、春近は生徒も少なくなった廊下を歩いている。
少し話をしたいと誘って、付いてきてもらったのだ。
阿久良忍は、身長が凄く高く180センチ以上はあるだろう。青みがかった髪をショートにして前髪が目にかかっていて表情がよく見えない。
全体的にムッチリと肉付きが良いが、引き締まっていて太ってはいない。
春近が感じた印象は好意的なものだった。
前回会った時も感じていた。悪い人には見えないし気が弱くて大人しそうなイメージだ。
特級指定されている鬼の転生者という話だが、良い人に見えることはあれど危険な人には全く見えない。
「あの、初めまして、土御門春近です」
「――――阿久良忍です……」
少し警戒されていると感じた春近が考える。
何だか警戒されているみたいだな……。
もしかして、あの噂が原因で怖がってるのかな?
「あの、もしかしてオレの噂を聞いてます?」
「あっ、その……ハーレム王……」
やっぱりそうだったかぁ!
「それ、デマですよ。女の子を無理やりとか絶対無いですから」
「はい……その……分かります。女の子に酷い事をする人には見えないから……」
「良かった……」
――良かった、噂は信じていないようだ。
でも、何か警戒されてるというか、怖がっているように見える。
「でも……」
遠慮気味に忍が話し始めた。
「はい?」
「あの、ハーレム……」
「えっ?」
――あ、ハーレム状態なのは事実だから、それを言いたいのかな?
「その……ルリ……酒吞さん達から好かれているのは本当なんだけど」
少し弁明する春近だ。いきなりハーレム王では印象が悪すぎる。
「そうですか……」
「はい……」
――やっぱり警戒されているのかな?
お互いにコミュ力が低そうなので、会話が続かないし……
もう、本題に行くしかないか……
「鬼の転生者の事でルリと関わって、それから皆と仲良くなったんだけど」
「そ、それで私に……」
「阿久良さんも一緒にどうかと思って」
「――――えっと……」
「羅刹さんとか大嶽さんとか、他にも仲間が居るからどうかな?」
阿久良忍は、少し考えた後で答える。
「いえ、私なんかが仲間になんて……皆さん迷惑だろうし……」
忍は卑屈になってしまっているようだ。
何かの原因で自信を失っているのだろう。
春近は、彼女がいつも一人でいるのを思い出す。
クラスで孤立しているのかと。
「あの、“私なんか”なんて言っちゃダメですよ。もっと自信を持って……」
「……」
「えっと、その……」
どうしよう……困ったな……
「一度遊びに来るとか?」
「――――あの……あんなキラキラした女子の集まりは苦手なので……」
「阿久良さん……」
そうか、元々陰キャだったオレなら分かる。
孤立して自信を失っている人からしたら、皆でワイワイ騒いでいる集団に入って行くのは勇気のいる事だ。
それに、陰キャとか決めつけられるけど、最初はほんの些細な事が原因で、誰でもそうなってしまう事もある。
最初のデビューに失敗したり、第一印象だったり、上手く輪に入っていけなかったり、ほんの些細な違いで弾かれてしまう。
集団が固定化されてしまったら、コミュ力の低い人がその中に入って行くのはとても難しい事だ。
だから、休み時間にゲームをしたり寝たふりをしたり……
そして、笑われたりハブられたりしているのじゃないかと思い込み、ますます負のスパイラルに入っていってしまうんだ。
前まではオレもそうだった……クラスで騒いでいるやつらとは関わろうなんて思わなかったし……
中には一人が好きっていう人も居るかもしれないけど……
でも、誰だって一人ぼっちにはなりたくないはずなんだ。
阿久良さんも、集団から弾かれて……自信を失って……だとしたら……
「……」
「あの、また阿久良さんと話しても良いかな?」
「えっ……」
「皆で遊ぶとかは関係無く、また阿久良さんと話したいから」
「は、はい……」
忍と別れて廊下を歩きながら春近は考える――――
やっぱり、阿久良さんは悪い人じゃなかった。
優しかったり周りに気を遣う人だから、人間関係で悩んでしまうんだと思う。
どうにかならないかな……
春近は、鬼の力を持つ少女の攻略ではなく、少しでも彼女の力になりたいと思った。




