第三十五話 GW編Ⅴ 三人のファーストキス
何とか騒動も収まり、各部屋に戻り寝る事になった。
うっきうきに喜んでいるルリと咲に比べ、栞子達のテンションがダダ下がりになっている。
「わたくしと旦那様の初夜が……」
「栞子さん、まだ学生だからダメですよ」
「ぐふぁっ! 良いでありますな。私も土御門君とイチャコラしたいですよ」
「鈴鹿さん、イチャコラって……」
「はるっち、後でドア壊して会いにいくね~」
「あいちゃん、壊すのはダメだよ」
「ぐぬぬぬぬぬ……」
「渚様、睨まないで下さい……」
一部問題発言したり怖かったりするが、そのまま別れて部屋に行くことになる。
そして、部屋に入った春近はというと――――
マズい、凄く緊張してきた……
朝まで同じ部屋で寝るなんて、この緊張感に耐えられるのだろうか……
「ハル、出来たよー」
ルリが布団を用意している。
「なんだとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
デデーン!
そこには、布団一枚に枕が三個で一組になっていた。
「あの……ルリさん……これは?」
「もちろん、一緒に寝るの!」
ルリは当然だと言わんばかりに、どや顔でとんでもない事を言った。
「おっ、おい、マジかよ……アタシも……」
咲も一緒に驚いている。
「さぁ、寝よっ!」
ルリは春近を引っ張って行き布団に押し込む。
ずりずりずり――――
「えっ、あの、ちょっと!」
ルリと並んで横になった。
「……」
「咲ちゃんも早く!」
布団から顔を出したルリが言う。
咲は、目の前の布団に三つの枕、そこの横になる春近とルリを見て、頭の中がぐるぐると回っていた。
うううっ……マジか……
これって三人でって事だよな……
いや、いくらなんでもマズいだろ……
でも…………こんなチャンス滅多に……
二人共好きだし……もうやるしかねえのか……
「よし! 決めた! 行くぞ!」
頬を染めて固まっていた咲だが、覚悟を決めたような顔をして布団に入って来た。
当然、春近は緊張して寝られない。両側に女子が寝ているのだから。
――――ダメだ、緊張しすぎて眠れそうにない……
「ハル、緊張してる? なでなでしてあげるね」
「アタシもしてやんよ」
ルリに頭をなでなれされ、咲にお腹をぽんぽんされた。
最初は恥ずかしそうにしていた咲だが、今は少し大胆になっているようだ。
なでなでぽんぽんで春近の緊張は解けたが、今度は興奮してしまって眠れそうにない。
そんな中――――
「ハル……ありがとね……」
ルリが突然お礼を言う。
「んっ? 何の事?」
「色々と」
そう言ってニコっと可愛らしく笑った。
「あの時も、助けに来てくれたし……」
「うん……」
四天王の時のことだろう。
「そういや、ハル、あの時アタシだけ寮に置いてけぼりにしたよな!」
咲が少しだけ拗ねた顔をする。
「あっ、あれは……咲を危険な目に遭わせたくなかったから……」
「アタシだってルリが心配だし! それに……ハルも危険な目に遭わせたくない……」
「うん、ありがとう」
お互いを心配し合っていて、大事に思っているのだった。
三人でくっついて横になったまま、どれくらいの時間が経ったのだろう?
数分だったかもしれないし数時間なのかもしれない、そんな不思議な時が流れた――――
「ねっ、キスしない?」
唐突にルリがつぶやいた。
「えっ、き、キス?」
今までルリは首筋や色々な所を舐めたりキスしてきたけど、くちびるにだけはしなかった。
今のキスしようというのは、たぶん……確実にくちびるへのキスだろう……
「ちょっ、待て、ルリ……」
咲が慌てて起き上がる。
「咲ちゃんも一緒にしよっ!」
「えっ……?」
咲が混乱する。
「えっ、ええっ! 一緒にって……どうやって?」
「だって、ファーストキスは一回きりなんだよ。私か咲ちゃんのどっちかにしか出来ないのなら、三人で一緒にキスすれば良いんだよ」
三人でするという事は……三人同時にキスをするという事なのだろうか……?
「咲ちゃんは、私が先でも良いの?」
「それは……」
咲の頭は大混乱していた――
た……確かにルリの言う通りだ……
ファーストキスが他の子に取られるのはイヤだし、アタシが先にやったらルリが悲しむし……
これは大問題だぞ!
でも、三人で同時にすれば、確かに二人共、いや三人共ファーストキスだ!
そうだ、ファーストキスは一回きりだからファーストキスなんだ――――
「よし! やるぞ!」
咲はルリの言葉で、俄然やる気になった。
「えっ、本当に三人で?」
春近は、突然の凄い成り行きに頭がついて行けていない。
「ハルも覚悟を決めろ!」
「咲……」
春近の頭も大混乱していた――
これって、二人と同時にって事だよな……
二人とキスをしたら、二股という事になってしまわないか……
でも、二人共オレの事を好きでいてくれて、オレも二人が好きだ……
どちらかを選んで、どちらかを断るなんて出来ない……
覚悟を決めるしかないのか……
もう、やるしかない――――
「うん……」
三人の顔が近づいて行く――――
月明りに照らされた旅館の和室の中で、三人の顔が重なりくちびるがそっとふれた。
くちびるに、二人の柔らかさと体温を感じながら、このまま永遠に時が止まれば良いのにと思った。
「えへっ、しちゃったね」
「うぅ、はずかしい……」
月明りで浮かび上がる二人の顔は、恥ずかしさで赤くなっていた。
それは、春近にはとても可愛く愛しく見えた。
「ほ、本当に三人でしてしまった……」
二人共、顔が真っ赤になってる……
もちろんオレも顔が熱くなってるのを感じる……
ぎゅぅぅ――
そのまま三人で抱き合って見つめ合っていると――――
ガラガラガラドーン!!
「はるっち~来たよ~」
静寂は唐突に嵐のような騒音に打ち破られた。