第三十三話 GW編Ⅲ 温泉で対決
大嶽渚は生まれたままの姿で、正に女王様のように堂々と立っていた。
金色の髪も、白くしなやかな手足も、芸術のような曲線を描くカラダも、畏れさえさえ感じる流麗な顔も、その全てが美しい――――
その姿は、まるで女神……いや、鬼神……?
なんて、そんな事を考えている場合じゃない!
「待ってたわよ! この時を!」
そのままの姿で前進し、吐息が掛かる距離まで近づいてきた。
「あんたが一人になる瞬間をね!」
「うっ、うわああっ! 服を着てください」
全く隠す気が無い渚に、春近は目を逸らしながら訴える。
どどど、どうしよう……
あれ? 身体は動く……呪力はかけてないようだ……
もしかして、先日のように呪力で操ると、再びルリと争いになるから使わないでいてくれるのか?
「ふふっ、今日は、あたしの魅力で徹底的に調教して、あんたから奴隷になりたいって言わせてやるんだから! 呪力で操って従わせても、あたしに屈服した事にならないからね!」
「はあああっ、やっぱり調教かっ!」
しかし……そういう事だったのか。
呪力で無理やりではないなら何とかならないのか?
「大嶽さん、ここは話し合いで」
「話して分かれば戦争も起きないのよ!」
ごもっともだった……
「あと、大嶽さんじゃなく、渚様でしょ! ほら、言いなさい!」
彼女の美しい顔で睨まれると、呪力にかかっていないのに逆らえない気持ちになる。
「言いなさい!!」
「な……ぎさ……さま……」
「ふふふっ、よくできたわね」
くううっ……大嶽さん……渚様は呪力を使わなくても、ルリと同じような威圧感というか迫力があり対抗できそうにない。
いや、ルリとは違った方向の……あの目で睨まれただけで逆らえなくなるような……完全に屈服させられてしまうような……
とくかく凄い威圧感で、今すぐ平伏してしまいそうになる……
根っからの女王様体質なのだろうか……
ガバッ!
そのまま床に押し倒され、馬乗りのような形で腹の上に乗られた。
「ふふっ、これで逃げられない……今日は容赦しないわよ!」
タオルで手首を縛られ、声を上げられないよう手で口を塞がれた。
もう、ダメだ――――
「はぁ……はぁ……じゅる……これ、これが欲しかったの……そうよ、その顔、ゾクゾクする」
赤い舌で自分の唇をペロリと舐めた渚は、そのまま春近に覆いかぶさってくる。
「んっ、何これ?」
その時、渚が春近の体の一部を掴んだ――――
「えっ、えっ……きゃっ!」
えっ、何なの、こんな大きいなんて、聞いてない――――
あたし初めてなのに、こんなの絶対無理――――
怖い――――
※大嶽渚は怖がりだった
渚に掴まれたのにも気付かず、春近は彼女が怯んだのを好機ととらえた。
あれ、渚様が怯んでいるみたいだ。
今なら抜け出せそうだぞ。
「えいっ」
春近は渚を押しのけ、縛られた手首のタオルを外す。
「ちょっと、動いて良いなんていってないわよ!」
「少し落ち着いて下さい」
その時、温泉の入り口付近が騒がしくなり、数人の男達の声がしてきた。
他の男性客がゾロゾロと脱衣室に入って来て、一斉に服を脱ぎ温泉に入ろうとしている。
「マズい! 他の客が入って来たみたいだ! このままだと渚様が!」
「ちょっと、どうするのよ……」
「か、隠れましょう! そうだ、あの岩の陰に!」
春近達は湯舟の中央にある岩の陰に隠れた。
「えっ、ええっ! ちょっと押さないで!」
「声を抑えて下さい。見つかっちゃいますよ」
渚を後ろに隠す形になり岩の陰に隠れた。
二人共、裸のまま密着してお互いの体温が伝わっている。
「しぃぃーっ」
何か言おうとしている渚に、春近がジェスチャーで静かにするように伝えた。
どうしよう……男湯に女性が入っていたなんてバレたら大問題になりそうだ。
なんとかして渚様を脱出させないと。
大嶽渚は、春近と裸で密着している興奮と、他の男性客に見つかりそうな恐怖で、頭が混乱状態にあった。
はあっ、はあっ……何だか頭がぼおっとしてきたわ――――
そして、目の前に夢にまで見た絶対に手に入れたい男が。
『美味しそう――――』
そう思った渚は、予想外の行動に出る。
がぶっ!
「痛っ!」
首筋に噛みつかれた春近が声を上げると、他の男性客が気付いて騒ぎだした。
「誰か居るのか?」
「なんか声がしたような?」
男性客達が騒ぎ出す。
まずい、隠れないと――――
春近は、渚様に覆いかぶさるように抱きしめて岩陰の隅に潜り込んだ。
頼む……見つからないでくれ……
「あれ、なんか声が聞こえたはずなんだけど?」
「聞き違いだろ」
「誰も居ないみたいだな」
良かった、気付かれていないようだ――――
はぁ……はぁ……はぁ……
大嶽渚は、春近に裸で抱きしめられ、全く動けない状態になってしまっていた。
お腹に硬い何かが当たっている。
この男を堕として奴隷にするはずだったのに、今はこの男に抱きしめられて身動き一つ出来ないなんて……
ああ……ダメだ……おかしくなる……
しばらくそのままでいると、男性客は出て行った――――
春近は物音がしなくなるのを確認した。
「渚様、もう大丈夫ですよ」
「っ…………」
返事が無い――――
「渚様?」
彼女は長く湯に浸かり過ぎて、のぼせてしまったようだ。
「たいへんだ!」
すぐに彼女を抱き上げ更衣室まで移動する。
「早く部屋まで運んで休ませないと! 先ずは……服を着せないと……」
彼女の美しい肢体が露わになっていて、形の良い胸や尻が丸見えで落ち着かない。
ダメだ、恥ずかしがってる場合じゃない、すぐ運ばないと。
「なるべく見ないように着せますから許して下さい」
とりあえずパンツを……
女子のパンツって、こんなに小さくて薄くて……
ブラはどうやって付けるんだ……
なんとか下着を履かせ浴衣を着せた。
春近は、渚をおんぶして部屋へと急いだ――――