陰陽学園の鬼神嫁 ～十二天将の力を全て手に入れたら、愛が激しい美少女たちと永遠になる物語～

第一章 鬼の少女達

第三十一話 ＧＷ編Ⅰ 友達

　春近たちは、電車に揺られて海沿いの街を車窓から眺めていた。待ちに待ったゴールデンウィークとなり、湘南方面への旅行に出発したのだ。

　全寮制の陰陽学園に入学してから、初めての遠出と外泊になる。

　ルリたちが外泊できるのか心配だったが、あっさり外泊許可が出た。もしかしたら、裏で晴雪が手を回したのかもしれない。

　因みにメンバーは春近と、ルリ、咲、杏子、栞子、あい、そして渚だ。

　当初、ルリたちは渚が来るのに反対していたが、あいが絶対に争いを起こさないという約束をし、何とか了解してもらったのだった。

　そして現在……この状況である。

「はるっちぃ、海が見えるよぉー」

　春近の隣を無理やり確保したあいが、べったりと密着しながら海を指さした。

「ハル、もっとこっちに来て！」

　あいに対抗するように、春近の反対側に座ったルリが、ピッタリと体を寄せる。

「むっすぅぅぅぅ……」

　そして何故か、咲は春近の膝の上に座っていた。

「あの……咲は何でオレの上に乗ってるの？」

　この不自然な状況に、春近がツッコんだ。

「ちょ、ちょうど、ここが景色が良く見えるんだよ……」

　苦しい言い訳をした咲がそっぽを向く。

　実は栞子が春近の隣を確保しようとしていたのだが、あいの迫力に負けて取られてしまった。

　現在はダークオーラを醸し出して落ち込んでいる。

　ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥーン！

「くっ、何でこんな展開に」

　春近がそうつぶやくが何も解決しない。ただでさえハーレム状態で目立つというのに、終始密着イチャイチャ状態なのだ。

　しかも、電車の中であり周囲の一般乗客の注目を集めてしまっていた。

　おばさま方の「最近の若い子は……」とか「公共の面前で……」とか「破廉恥な……」とか会話が聞こえてくるのだ。

（これは恥ずかしすぎるぜ……）

　春近が視線を横に向けると、ルリの隣に座っている杏子と目が合った。

「た、大変ですね、土御門君」

「恥ずかしい……」

「ふふっ、まさか学園の外でもこうなるのですね」

　杏子は口に手を当て笑ってから、少しだけ真面目な顔になる。

「でも、この学園に入ったばかりの頃は、一人で怖くてどうしようと思ってました。でも、土御門君のおかげで楽しくなって感謝してるのですよ」

　そう言った杏子が微笑んだ。

「俺は別に何も。でも嬉しいよ」

（うぅ……鈴鹿さんの言葉が身に染みるぜ。とにかく、学園に争いが起こらず平和になってくれれば良いのだが……）

　と、そんな感慨に春近が耽っていると、大嶽渚が凄い目つきで睨んでいるのに気付いた。

　超美人なだけに凄い迫力だ。

「うっ……」

　すぐに春近は渚から目を逸らした。

（何だろう……？　怒っているのか……？　目を合わせてはいけない気がする……）

　春近が渚を怒らせないよう気を使っているのに対し、渚の方は全く別の感情が湧き上がっていた。

（くっ！　あたしの奴隷にベタベタしてんじゃないわよ！）

　大嶽渚はイライラしていた。

　まるで自分の大切なオモチャを、勝手にイジられているような感情だ。

　この旅行で、あの男を籠絡(ろうらく)し、徹底的に調教し自分のモノにするつもりだった。

　しかし、あの男の周りには常に女が付きまとっていて隙がない。

　自分ではどうしようもない感情が渦巻き、その捌(は)け口が見つからないまま鬱憤(うっぷん)だけが溜まっていく。

　この数日で、彼女の春近に対する執着心が何倍にも高まっていた。

　もう、爆発しそうな程に――――

　◆　◇　◆

　春近たち一行は駅に到着した。湘南の風が気持ち良く心地いい。

　駅から橋を渡って島まで歩けるらしい。

　レンガを敷き詰めた橋を皆で歩く。

　またしても、ルリとあいに隣を取られてしまい、栞子がヘコんでいる。

　春近は栞子が気になり、声をかけてみることにした。

「栞子さん、ここはシラスアイスが名物らしいですよ、後で食べてみませんか？」

「だだ、旦那様！　一緒に食べましょう！」

　一瞬で復活した。

　ヘコむのも早いが復活も一瞬だった。

　栞子が心配なので、もう少し優しくしよう――春近は、そう思った。

　島の通りを食べ歩きしながら散策する。

「この神社に祀られている神は、タギリヒメ、タギツヒメ、イチキシマヒメの三女神なのですよ」

　杏子が雑学を語りだした。通常モードだ。

「そして、ここは恋愛成就の絵馬が……」

　続いてその一言で、皆が一斉に絵馬を買いにいった。

「鬼の転生者が一斉に神社に参拝するというのも、なんだか面白いですね」

　栞子が素朴な疑問をつぶやく。

「平和で良いんじゃないのかな」

　春近もつぶやく。

　◆　◇　◆

　展望台に上ると、遠くに富士山が見えた。

　一人で抜け出した春近が、野外展望台から景色を眺めているのだ。

　ふと気づくと、いつの間にか隣にあいが居た。

「あいちゃん」

「えへへぇ、今日はありがとね」

　あいは春近に微笑む。

「どうなるかと思ったけど、皆で来れて良かったよ」

　春近は素直な感想を言う。

「渚っちも楽しんでくれると良いけど……」

　急に真面目な顔をしたあいが、静かに語りだした。

「うちね、子供の頃に友達が居たの……。ある時、呪力が暴走して友達にケガさせちゃって……。うちの呪力ってさ、こう雷とかドカーンって爆発する危険なので……わざとじゃないの、小さかったから上手く使えなくて……」

　あいは悲しそうな顔で目を伏せた。

「その後に、その子の家に謝りにいったけど、親が会わせてくれなくて……。そしたら、もうあんな子と遊んじゃダメって言われたらしくて、もうそれっきり会ってないの……。うちら家族も、そこに住めなくなって、引っ越すことになっちゃって……」

「うん……」

　春近は真剣な顔で頷きながら聞いている。

「この学園に入学したらね、クラスに渚っちがいて。すぐに分かったの。ああ、この子もうちと同じなんだって。周りに人がいっぱい居るけど、ほんとは一人なんだって……」

「そう……だったんだ」

　春近は真っ直ぐにあいを見て言った。

（そうか、全く違う性格に見える二人だけど、二人は似ているんだ。あいちゃんは子供の頃のトラブルで友達を失い、大嶽さんは周囲の人を従えて女王様のように振舞っているけど、本当は心が許せる友達が居なかったのかもしれないな……）

　春近の脳裏にルリたちの顔が浮かんだ。

（もしかしたら、ルリや咲や鈴鹿さんも他の転生者も、鬼の末裔ということで周りの偏見を受けたり疎外されたりして、辛い経験をいっぱいしてきたのかもしれない。おかしな運命で陰陽学園に集められてしまったけど、この先の人生は幸せになって平穏に暮らしてほしい）

　春近は、心からそう思った。

「…………」

「…………」

　二人は黙ったまま並んで海を見ていた。

（それにしても……あいちゃんって、何も考えていないようで、実は色々考えていたんだな……）

　春近は、少しあいを見直した。