第三十話 羅刹あいはイチャイチャしたい
ある日の午後――――
春近は、今後のことを考えながら校舎の廊下を歩いていた。
特級指定者を虜にしろと言われているが、自分にはその自信が無い。
先日の件もあり、大嶽渚のような強烈なキャラを攻略など、気が引けてしまうのは仕方がないだろう。
実はすでに、あいを含め二人は殆ど落ちて……いや堕ちているのだが、春近はまだ気付いていなかった。
「ゴールデンウィークか……」
春近がつぶやく。
(ルリから、ゴールデンウィークに遊びに行きたいと誘われているけど――何処に行こうかな? そもそも、この学園って外泊許可とか出るのか? まあ、陰陽庁長官が変わったから大丈夫なのかな?)
無防備に歩いている春近が、突然現れた女子に制服を掴まれた。
グイッ!
「何がゴールデンウィークなの?」
「うわぁああ!」
春近が驚いて振り向くと、そこにはニマニマと笑みをたたえた羅刹あいが立っている。
「あいちゃん!」
「えへへぇ、はるっち」
ギュッ!
抱きついた羅刹あいは、春近の首に腕を回し引き寄せてくる。
むぎゅっ!
「わっ、胸が!」
大きくて柔らかい膨らみが顔に当たり、春近が声を上げた。
「わざとだから気にしないで良いよぉ」
「えええっ!」
「ほらほらぁ、こっちこっち」
「こ、これがあの『当ててんのよ』かぁあああ!」
春近は彼女に引きずられて連れて行かれた。
◆ ◇ ◆
「ここなら誰もいないよぉ」
春近は屋上に連れ込まれ、あいが回した腕に力が入り二人は密着する形になった。
「ねぇ、ゴールデンウィークとか言ってたけど、どっか行くの?」
抱きついたまま至近距離であいが言う。春近の耳に囁くように。
「えっと、旅行とか……」
「いいね! うちも行きたーい!」
「でも、ルリたちと行く予定なので……」
「えぇーいいじゃん! うちらも行くー! 渚っちも連れてくし」
「それはマズくないか?」
(ルリと渚を会せたら、またケンカになりそうな気がするぞ。二人が仲良くなれば問題は解決だけど、いきなり一緒に旅行に行って余計に険悪になると元も子もないし……)
そんな春近の不安を知ってか知らずか、あいは独特のゆったりした声で話す。
「あの子も、ちょっと大人しくなったから大丈夫だよぉ」
「本当に大丈夫かな?」
「大丈夫だよぉ」
先ず、ルリたちに聞かないとならないと春近が思うが、この二人なら強引についてきそうな気もする。
「それよりぃ……はるっちってさぁ、美味しそうだよねぇ~」
「はあ?」
あいは、もう一方の腕も春近の首に回し、ピッタリと抱きつく恰好になった。
「ちょ、ちょっと、あいちゃん?」
「はるっちぃ、むふふぅ」
たまらず春近がしゃがむと、あいは更に両足も回してきた。完全にロックされた形だ。
彼女のムチムチした健康的で艶やかな褐色の肌がアチコチに密着し、春近は変な気持ちになってしまう。
むぎゅ~!
「ちょっ、動けない……」
凄い腕力でガッチリと抱きつかれ、春近は全く動けない。
「怖がらなくてもいいよー、優しくするしー」
「ちょっと、優しくって?」
ちろちろちろ――――
「うぁ、くすぐったい!」
耳を舐められ、春近がビクビクと体を震わせた。
「もぉ、そんなにビクビクしちゃって、かわいい~」
ニマニマした表情のあいが、舌を春近の耳に入れてチロチロさせながら、指先を優しく体中に走らせてくる。
「ほらぁ、うちらも連れていってくんないとぉ、もっと凄いコトしちゃうよぉ~」
舌も指も凄いテクニックで、春近の弱点を攻めまくってくる。
耳から首筋に熱い吐息がかかり、頭の中がトロトロにされていくような感覚だ。
「ううぅ、ギャルのスキンシップが凄すぎる……」
「えー、こんなのはるっちにだけだよぉ」
「くぅううっ……」
(あいちゃん……そんなこと言われたら誤解しちゃうだろ……)
「どう? 連れてきたくなった?」
「そ、それは……」
「ふぅーん、口ではそんなコトいっても、こっちはこんなんなってんですけどー」
彼女の手が下がり、熱くなっている体をコチョコチョされる。
「わぁぁぁぁぁー! 分かりました! 連れていきます!」
あっさり陥落させられてしまった。
「やったー!」
「どうしよう……ルリたちに伝えたら凄く怒りそう」
大喜びのあいと対照的に、春近は不安ばかりだった。
◆ ◇ ◆
自室でくつろぐ大嶽渚のスマホにメールが届いた。
アプリを開くと、羅刹あいからの衝撃的急展開の文面が飛び込んでくる。
【ゴールデンウィークに、はるっちと旅行に行くから、予定空けといてね】
「なによ、これ!」
突然の事に大声が出る。
「ちょっと待って! これってチャンスよね」
旅行先で、あの男を攻め落として手に入れてやると渚が意気込む。
怒涛のゴールデンウィーク春近争奪戦が始まろうとしていた。




