第二百七十四話 世界最強艦隊を壊滅させる鬼神ヒロイン達
空を埋め尽くす程のミサイルの雨が迫る。イージス艦八隻による一斉攻撃だ。
科学では解析不能な鬼神の力を最大の脅威と捉えた人工知能コマンドポストによる、かつて類を見ない程の迎撃ミサイルの全弾発射が実現してしまった。
余りにも凄い数のミサイルに、春近たちに緊張が走る。
「きゃぁぁーっ! 春近ぁぁぁぁ!」
「渚様、く、苦しい……」
さっきまで忍に抱かれたいたはずなのに、いつの間にか春近の隣に移動している渚だった。
「とにかく、全弾撃ち落さないと!」
「数が多過ぎます。広範囲魔法で攻撃して誘爆により破壊すべきかと」
春近の声に杏子が答える。
「うちに任せて」
その時、あいが立ち上がる。
パティスリー忍ぶ愛を経営し始めてから、ギャルっぽい見た目は控えめになり、ちょっとだけ大人の女の色気が出始めた羅刹あいだ。
「あいちゃん、やれそう?」
「だいじょーぶ! なんか、今のうちならできそうな気がするの」
あいが飛行艇の前部に立ち、両手開いて構える。
春近を起点として構築された呪術回路に呪力が流れる。鬼神王春近と、それを守護する十二天将の超強力な呪力がリンクして、あいの能力を更に向上させた。
シュバァァァァアアアアア――――!
雨のようなミサイルが迫る。
ビリッ、ビリッ――
あいの前方の空間に、漏れ出した電気が走る。
一億ボルトを超える超高電圧の雷を放つ攻撃特化型の能力者。まさに雷撃の射手だ。
急に空が暗転する。
異世界系の魔法序列というところの、最上位魔法である気象制御のような、世界の事象を改変する程の大魔法になるのだ。
「皆さん、対ショック対閃光防御!」
杏子が、それっぽく叫ぶ。
雷撃系最強魔法が炸裂するのだ。目を閉じていなければ危険だろう。
ギュゥゥゥゥゥゥーン!
ビリッ、ビリッ、ビリッ!
「いっくよ~っ! 暴虐轟雷!!」
ズドドドドドドドドドドドドドドォォォォォォォォォ――――ン!! バリバリバリバリバリバリバリ――――!!
一瞬、世界が青白く改変されたのかと思う程の閃光が辺り一面に走り、まるで豪雨のような無数の雷光が飛来するミサイルに突き刺さる。超高電圧超高電流の嵐の中で、電子と陽電子が対消滅し全てが崩壊した。数え切れないミサイルは瞬時に溶解し爆発炎上。
誘爆したのかどうかさえ不明な程の大爆発で、全ての迎撃ミサイルは消えてしまった。
ドッカァァァァァァァァァァァァーン!
目の前で大爆発が起きるが、今度は遥の管狐による結界と、忍が皆を押えていた事で、前のような大騒ぎにはならなかった。
「やったよぉ~はるっちぃ~ホメてホメてぇ」
想像を絶する大魔法を放ったのに、あいは無邪気にナデナデを所望する。
「え、えっと……あいちゃんエライ。なでなで」
「えへへぇ~」
「むぅ~ずるい! 私もハルに褒められたい」
他の子ばかり褒めて、ルリが若干ご立腹だ。
一方、その頃艦隊では――――
『こちら人工知能コマンドポスト。異常事態発生。敵は解析不能なレベルの脅威である。我が艦隊の存続に深刻な問題発生。最終破壊モードへと移行する。ミサイル駆逐艦バルンバド、ミルフォース、バーミリオン、ビギニング、バルムフォース、エルフジョセフィート、ラフィーペタジーニス、グレイハウンドの全艦は、垂直発射巡航ミサイルシステムを全開放発射せよ!』
ギュイーン!
カシャ! カシャカシャカシャカシャ!
イージス艦上部に設置されているミサイル・セルが次々と開いて行く。垂直発射型巡航ミサイルの弾薬庫と発射装置だ。長距離を自立飛行し確実に目標に命中させる、核も搭載可能なミサイルが発射されようとしていた。
シュバーッ! シュバーッ! シュバッシュバッシュバッシュバッシュバッシュバッシュバッ――――
全艦合わせて何十発もの巡航ミサイルが発射された。世界を火の海に変えそうな無慈悲な攻撃である。
「たた、大変です! 敵艦隊に超高エネルギー反応! 今度は更に凄いエネルギー量です! これは……たぶん巡航ミサイルです!」
声が枯れそうになりながら杏子が絶叫する。
「遂にト〇ホークか!」
どうする!?
今度は破壊力が桁違いだ。
俺がやるしかない!
遂に鬼神王の全呪力を開放か!
春近が立ち上がろうとすると、今まで完全に存在感を消していた一二三が前に来る。
「……下がって。私がやる……」
「えっ、一二三さん?」
すぐに一二三が戦闘態勢に入る。
普段は大人しく争いを好まない性格だが、皆を守る為ならば大天狗の神通力を行使するのだ。
「……陰陽庁は、核の搭載は無いと言っていたが、もしもの危険性を考慮すべき。超重力を反転し時空の特異点へと収束させる」
シュバァァァァァァァァ――――
迫りくる大量の巡航ミサイルに向け手を伸ばす。
「大天狗超重力宇宙終焉!」
ギュワァァーン!
正面の空間に黒い球体が発生した。
超重力により、周囲の空間と時空が無次元の特異点へと収束して行く。
「おいおい、これって……杏子! 逆噴射!」
「はい、やってます!」
一般相対性理論と量子力学により臨界質量密度を越えた宇宙が、自身の持つ重力により膨張から収縮に転じ、全ての物質も光さえも飲み込み特異点へと収束して行く。
つまり、訳が分からない力で、ミニブラックホールのような物が出現したのだ。
ギュワァァービュゥゥゥゥーン!
飛来した全ての巡航ミサイルが黒い球体へ飲み込まれて行く。きっと何処か別次元にでも転移してしまったのだろう。全てを飲み込んだ黒い球体は、何事も無かったかのように消え失せ、そこには青い空が広がっているだけである。
シュババババババァ――
対消滅量子加速機関という未来っぽいエンジンを逆噴射していた銀河閃光鬼神殿が静止する。杏子がエンジンを逆噴射させ反重力機関をフル回転で、黒い球体に飲み込まれるのから逃れていたのだ。
「えっと……凄いものを見てしまったような……これって、超重力大爆発の逆バージョンだよな……もしかして一二三さんって超強い?」
春近が茫然として呟く。
ひょこっ!
「……んっ」
一二三が春近に頭を向ける。
「えっと?」
「……私にも……なでなでを所望する」
なでなでなで――
「一二三さんエライ。そして可愛い」
「……んっ、心地良い……」
ぴとっ!
そのまま一二三が抱きついてしまう。
「えっと、まだ戦闘中なので……」
「……んっ、今度のベッドインでは……ご褒美が欲しい……頑張ったから」
普段は無口で控えめなのに、たまに積極的になる一二三だ。横でルリと渚の威圧感が急上昇するのも気にせず、抱きついて春近の胸で甘えている。
「ハルぅ~次は私がやるぅ~」
横でルリがご立腹だ。
他の子ばかりナデナデされてヤキモチ焼いているのだろう。
「ミサイルは撃ち尽くしたのかな? 接近して艦隊を止めないと。杏子はどう思う?」
春近が杏子に声をかけた。
「ミサイルは無いかもしれませんが、武装はまだ、5インチ単装砲、25mm単装機関砲、20mm多銃身機銃、12.7mm重機関銃が残っています。近付くと狙い撃ちされる可能性があります」
杏子が答える。
ミリタリー知識は豊富だ。
「機関銃の弾丸はこちらの防御や攻撃で防げるかもしれないけど、5インチ単装砲……口径127mm艦砲は危険かもしれないな。砲弾を叩き落せれば良いんだけど……」
ちょいちょいっ!
「ハル、アタシがやってやんよ」
いつの間にか、咲がさり気なく春近の隣をゲットしていた。
「咲、できるの?」
「砲弾なんか、アタシの光の剣で真っ二つだろ。知らんけど……」
若干、適当な気もするが、咲の力も凄い威力の上、他にも最強のメンバーが揃っているので何とかなりそうな気がする。
「よし、決めた、作戦はこうしよう」
春近が作戦を考え皆に伝える。
「このまま遥の結界を張ったまま艦隊に接近する。忍さんは渚様やアリスなど武力系じゃない皆を守って」
「うん」
「はい」
「イージス艦からの攻撃は皆で防御、咲は主砲を撃ち落として」
「おう、任せろ」
「わかったわ」
「ふんす」
「アリスは敵弾の命中確率を改変して下げつつ、イージス艦の乗組員に死者が出ないように因果をいじって」
「はいです」
「艦隊に接近したら、渚様が乗組員に呪力をかけて、艦中央で安全な場所に移動させ対ショック体勢を取らせて」
「やっとあたしの出番ね」
「最後にルリが空間支配で艦隊の足を止めて」
「やった、ボッコボコだね」
「ボコボコだめ、絶対」
「分かってるよぉ、怪我人が出ないように手加減するから」
ちょっとだけ心配な気がするが、最後はルリの力で止めてもらおうと思っていた。満載排水量10000トン近くもある巨大質量の軍艦を八隻も止められるのかは少し不安だ。
だが、その時は皆の呪力を使って何とか止めようとしていた。
「では、作戦開始!」
「「「おおーっ!」」」
銀河閃光鬼神殿が艦隊に向かって突撃する。まるで夢にまで見た、バトル系アニメの戦闘シーンのようだ。
途中まで怖がっていた彼女達も、今では誰も怖がる者はいない。最強の鬼神彼女達が揃い、春近との強い絆があるのだから。
シュバババァァァァァァ――――
『こちら人工知能コマンドポスト! 強大な脅威が接近中! 兵器自由! 各艦は主砲と機銃で応戦せよ! 繰り返す、兵器自由! 尚、人工知能コマンドポストからの通信はこれが最後である! 各艦は艦砲を撃ち尽くした後に、自爆モードへと移行し敵諸共自爆せよ!』
ダンッ! ダンッ! ダンッ!
バババババババッ! バババババババッ!
八隻のイージス艦から、一斉に主砲と機銃による一斉射撃が始まる。雨のように降り注ぐ弾丸を、皆で撃ち落しながら進んで行く。
ズバッ! ザシュッ! ズババッ!
「次元斬! 次元斬! 次元斬! って、ハル、キリがねぇぞ!」
咲が光の剣で飛来する主砲を斬りまくる。
次弾装填が速いイージス艦が八隻もおり、思ったよりも次々と撃ちまくらっれキリがない。斬っても斬っても飛んで来るのだ。
ダンッ! ダンッ! ダンッ!
バババババババッ! バババババババッ!
「私たちも限界よ!」
「ふんす! 無理やり叩き落とす!」
天音達も奮戦する。
「もっと近付いて!」
渚の声で杏子がギリギリまで艦隊に接近する。
「総員は艦中央部に退避! 対ショック体勢! 総員は艦中央部に退避! 対ショック体勢!」
イージス艦の周囲を旋回し、渚が強制の呪力で乗組員へと何度も命令する。
「もう、行ってくるね」
ルリが飛行艇から飛び降りようとする。
「待ってください。今、低空飛行しますから」
「大丈夫、任せて。とうっ!」
ひゅぅぅぅぅ~っ――
「えええ…………」
ルリが飛び降りてしまった。
「ルリっ!」
春近が飛行艇から下を覗くと、ルリが空中を歩いているように見える。
「あれ? オレは夢を見ているのか? ルリが空を歩いているぞ……」
「ハルチカ、目を覚ませです! あれは、空間支配で足元の空間を固定して、階段を歩くようにしているのです!」
ちょっぴり茫然としていた春近に、アリスが説明をしてくれた。
他の彼女の能力がアップしているように、ルリの空間支配も強まっているようだ。前は上手く扱えなかった呪力が、今は完全に使いこなしている事もあるのだろう。
迫りくる世界最強艦隊の前に立ち塞がるルリ。海面を固定して、海に立つ女神のような凛々しさだ。
「やっと私の出番。思いっ切り活躍して、ハルに褒めてもらうんだからっ!」
呪力を全開放するルリ。
プラズマのような超強力な呪力が迸り、ルリの周囲に展開する。
「はあああああああぁぁぁぁーっ! 必殺、天地開闢!」
ズドドドドドドドドドドドドドドォォォォーン!
凄まじい音と共にルリの前方の空間が支配下に置かれる。大規模な空間震が引き起こされ、一隻10000トンもの質量の軍艦が寄せ集められ衝突し、メキメキと音を立て破壊されていった。
グシャッ! バキッ! ズバババッ! ドカーン!
「あああ、一隻2000億円以上するイージス艦がボッコボコに!」
春近の叫びも空しく、みるみる内にイージス艦が団子状態になって機関停止し、何かのアニメのように完全に沈黙した。
お読みいただきありがとうございます。艦隊戦クライマックスになります。
エピローグも、あと少しを残すところになりました。
どのようなラストになるのか、幸せなハーレム婚ができるのか?
もし良かったら、最後まで読んでいただけると嬉しいです。
また、ブクマや星やレビューなども、いただけますと作者のモチベやテンションが超上がります。




