第二百七十三話 十二天将vsアバドーン級ミサイル駆逐艦
「神羅万象を司る北極星の天宮に願い奉る。この世の理を覆し天壌無窮の彼の地より、天空を駆ける鬼神の宮殿を!」
何度見ても信じられない驚愕の究極スキル。
テンションが爆上げした杏子が空にかざした手から光が迸る。
魔法術式も物理法則も覆し、無から有を生む究極スキルが発動した。
シュファァァァァァァァーン!
眩い光の中から飛行艇のような物体が出現した。
「ぐっはっぁあっ!」
杏子がふらついて倒れそうになる。
ガシッ!
すぐ後ろに控えていた春近が抱きとめて支えた。
毎回鼻血を噴いていたが、今回は無事なようだ。
「杏子、大丈夫?」
「は、はい、杏子上級大将やりました!」
春近に抱きしめられて嬉しそな顔だ。
目の前には飛行艇というよりUFOのような不思議な物体が鎮座している。
何ともヘンテコな光景だ。
「これ……飛ぶの?」
ルリが素朴な疑問を投げかけた。
想像していた飛行艇というよりも、まるでアニメに登場するような不思議な飛行体だ。
翼は小さく全体的に三角形と菱形が合体したような形状をしている。
「はい、アニメ覇王神話ヴィルバーナに登場する空飛ぶ黄金宮殿を元ネタに具現化してみました」
「おおっ、あのヴィルバーナの黄金宮殿! テンション上がるぜぇ~」
杏子と春近が一緒に盛り上がる。
好きなアニメが一致することが多く気が合うのだ。
「名付けて、強襲型飛行艇銀河閃光鬼神殿であります!」
「何かよく分からないけど超カッコいいぜ!」
やっぱり春近のセンスが杏子と似ていて一緒に盛り上がる。
「さあ、では乗りましょう」
「行こう!」
「私はハルの隣ぃ~」
杏子の一声で春近とルリが真っ先に乗り込む。
アニメの黄金宮殿と聞いてテンションマックスの春近と、何だかよく分かってないけどテンションマックスのルリがノリノリだ。
「ちょ、ちょっと待って。これ落ちたりしないわよね?」
少し青い顔をした渚が呟く。
たぶん怖いのだろう。
「渚様、怖いのならここで待っていた方が……?」
「こ、怖くないし! ぜっんぜん平気だし! これくらい乗れるわよ!」
かなり無理していそうだが、渚も乗り込み春近にしがみ付く。
ぞろぞろと皆が乗り込んだところで、春近が重要な事に気付く。
鬼神の力を持つ十二人の彼女と行くはずなのに、春近の他に十三人いる。
「あの……栞子さん。危険なのでここで待っていてください」
ちゃっかり乗り込んでいる自称正妻ポジションの彼女に声をかけた。
「わ、わたくしも旦那様の正妻として共に戦います! この命、旦那様に捧げる所存ですわ! 例え、刀折れ矢尽きるとも!」
ドヤ顔で栞子がドヤドヤっとしている。
この彼女、いつも謎の自信があるのだが、隠密スキルがあるくらいで普通の少女なのだ。
少し、いやかなりポンコツだった。
世界最強の艦隊と戦う危険な場所には連れて行けない。
どうしよう――
困ったな……
断っても聞かないだろうし……
あ、そうだ!
「栞子さん!」
「何ですの? 断っても無駄ですわよ」
「戦国武将である山内一豊の正室、見性院は良妻賢母として知られています。彼女は名馬鏡栗毛を購入し、その馬で旦那を織田信長の馬揃えで目立たせ出世させたそうですよね」
「それが何か?」
「つまり、正妻というものは、旦那の出陣を見送りドッカリと家で待つものなんですよ!(すっとぼけ)」
「な、なるほど……分かりましたわ! わたくし、正妻としての務めを全ういたしますわ! 旦那様、武運長久を!」
栞子が戦国武将の嫁に成りきっている。
「栞子さんが単純で良かった……(ぼそっ)」
「何か言いましたか?」
「いえ、なんでも」
春近と栞子のコントを、他の彼女たちは生温かい目で見守っている。
そんなこんなで春近と十二の鬼神少女は、艦隊を止める為に出発するのだった。
「それでは行きます! ふぅぉぉぉぉぉぉぉぉ! みなぎってキタァァァァァ!」
いつも大人しい杏子がノリノリだ。
たまにこうなる。
「対消滅量子加速機関起動!」
ギュイィィィィィィーン!
何の技術か分からない未来っぽいエンジンが起動する。
反重力のようなエネルギーで機体が浮かび上がった。
「きゃっ、は、春近! お、落ちる!」
「渚様、くっつき過ぎです」
渚が必死な顔して春近に抱きつく。
やっぱり怖かったようだ。
飛行艇といっても、屋根が無く上に乗っているだけなので、外が丸見えで怖がりな少女にはキツそうだ。
「渚様、オレに掴まっていてください」
「春近っ、ちゃんと抱いてなさいよ」
いつもの怖い女王はどこへやら、渚が普通に可愛い女の子になってしまった。
「ああっ、渚ちゃんだけずるい! 私もハルとくっつきたい」
ルリまでぎゅぎゅうと抱きついてくる。
「おい、わたしも抱きしめるです」
アリスまでくっついてきてしまう。
今から危険な戦場へと向かうのに、イチャイチャしていてイマイチ緊張感が無いようだ。
「それでは、強襲型飛行艇銀河閃光鬼神殿発進!」
シュバババァァァァァァ――――
凄まじいスピードで移動する飛行艇。
重力制御でも機能しているのか、乗っている座席は風圧を感じない。
「きゃあぁぁぁぁ! 杏子、こ、これ振り落とされたりしないでしょうね!?」
「たぶん大丈夫です」
「たぶんじゃなぁぁぁぁーい!」
渚の悲鳴と共に、飛行艇は南の方角へ突き進んで行く。
――――――――
太平洋を南へと進む。
飛行艇のスピードが速く、予想より短時間で艦隊と接触しそうだ。
「何も無い海の上を飛んでいるのは不思議な感覚だね」
いくら強大な力を持っているとはいえ、何も寄る辺が無い周り一面海では心細くなる。
彼女たちも、出発時の笑顔も消え少し緊張しているようだ。
ピーッ!
「艦影8、発見しました! 距離10,000」
杏子が叫ぶ。
「よし、戦闘準備だ」
俺が守らないと――
最強の十二天将といっても、渚様やアリスのように戦闘向きじゃない子もいるのだから。
というか、遂に鬼神王の呪力全開で、俺が無双するのが見せられるのか。
「距離8,000、あっ、敵艦隊に高エネルギー反応であります!」
「なっ、ミサイルでも撃ったのか?」
その頃、乗っ取られた米太平洋艦隊では――――
|特殊任務人工知能突撃部隊第701駆逐戦隊、アバドーン級ミサイル駆逐艦八隻の人工知能自立制御防衛システムが、春近たちを強大な敵と判断していた。
謎の未来技術で低空を超スピードで飛行する銀河閃光鬼神殿を、前例がないほどの重大な脅威と捉えたのだ。
ビーッ、ビーッ、ビーッ!
『Emergency! こちら人工知能コマンドポスト! 我が軍に最大級の脅威が接近中! これより自動迎撃モードへ移行する!』
|特殊任務人工知能突撃部隊第701駆逐戦隊の人工知能が、自動迎撃モードへの移行を英語で発信する。
乗組員の制御が利かないまま、勝手に武器の使用が許可されてしまった。
『ミサイル駆逐艦バルンバド、ミルフォース、バーミリオン、ビギニングは、アクティブレーダーホーミング艦隊防衛ミサイルを発射せよ!』
シュバッ!
シュバッ!
シュバッ!
シュバッ!
イージス艦四隻からミサイルが発射される。
指令誘導により発射されたミサイルは電波ホーミング誘導され、目標に命中するまで敵を自動追尾し確実に命中させるだろう。
「ミサイル接近中です! 数4!」
杏子が叫ぶ。
「迎撃準備! 遂にミサイルが……オレたちで止められるのか……」
「私たちに任せてっ!」
天音の声で和沙と黒百合が立ち上がる。
「よし、今こそ大天狗の神通力を見せる時だ!」
「和沙ちゃん、ハル君の前だからってカッコつけて失敗しないでよね」
「にゃ、なにおぅ!」
「ふんす、こんなの楽勝」
若干連携が悪そうだが、攻撃力だけは凄い大天狗娘たちだ。
ギュバァァァァアアアアア――――!
超高速で飛来するホーミングミサイルに対し、大天狗娘が最大神通力で構える。
「いくわよ! 全てを嫉妬の炎と地獄の業火で焼き尽くせ! 大天狗火炎地獄車輪廻!」
「わ、私もハルちゃんにいいとこ見せないと。水撃よ龍となりて全てを薙ぎ払え! 大天狗水龍大殲滅波!」
「くらえ伝説の一撃! 大天狗旋風磔獄門!」
ズバババババババァァァァァァーッ!
まるで地獄の業火を召喚したかのような大火炎魔法が炸裂し、辺り一面超高温の火炎で地獄絵図と化す。
当然、ミサイルは燃え尽きた。
ズドドドドドドドォォォォォォーッ!
海の水が青龍のように浮かび上がり、超破壊力の水撃となって突撃する。
当然、ミサイルは粉々になった。
ブワァァァァアアアアァァァァーッ!
空気が高圧縮され意味不明なレベルのネーミングセンスと破壊力で襲い掛かる。
当然、ミサイルは意味不明なレベルで粉砕された。
ミサイルは4発あったはずだが、余りの大破壊魔法により全て破壊されてしまい、必殺技を撃とうと構えていた春近が茫然とする。
「あ、あれ? 俺の出番は? えええ……たまにはオレが無双する出番だと思ったのに」
攻撃を放った天音たちも、前より攻撃力が上がってビックリしている。鬼神王春近の能力でバフが掛かり全ヒロインの能力が飛躍的に向上しているのと、十二天将全員が揃っていることで春近との呪術回路が構築され、元来より大幅に強くなっているのだ。
ドドドドドォォォォ――――
爆風で飛行艇が揺れる。
「「きゃああぁぁーっ!」」
「大丈夫です、私に掴まってください」
最強の女戦士忍が呪力で体を強化し、渚とアリスを抱える。
杏子や遥も抱きついた。
「私が管狐で結界を張ります」
遥が膨大な数の管狐を展開し、飛行艇の周囲を防御する。
「とりあえず、これで安心かな。次はどう出るんだろ……」
春近はホッと胸を撫で下ろした。
圧倒的な攻撃力でミサイルが撃ち落された人工知能艦隊は、更に自動迎撃システムの脅威度を上げ、緊急事態モードへと移行した。
『こちら人工知能コマンドポスト、敵は嘗てない程の脅威である。緊急事態モードへと移行する。ミサイル駆逐艦バルンバド、ミルフォース、バーミリオン、ビギニング、バルムフォース、エルフジョセフィート、ラフィーペタジーニス、グレイハウンドの全艦は、アクティブレーダーホーミング艦隊防衛ミサイル、艦船発射型弾道弾迎撃ミサイル、誘導艦対空ミサイル、慣性誘導対艦ミサイルを全弾発射せよ!』
シュバッ、シュババババババババッ! シュバッ、シュババババババババッ! シュバッ、シュババババババババッ! シュバッ、シュババババババババッ! シュバッ、シュババババババババッ! シュバッ、シュババババババババッ! シュバッ、シュババババババババッ! シュバッ、シュババババババババッ!
イージス艦八隻による大量のミサイル一斉発射が行われた。
空を埋め尽くす程のミサイルの雨が春近たちへと襲い掛かる。
「再び敵艦隊に高エネルギー反応! ミサイル接近中、数……20、いや50、ええっ! 更にたくさん! 凄い数です!」
杏子が絶叫する。
若干、艦隊戦アニメの影響を受けている気もするが。
「これってピンチなのでは?」
「きゃああっ、もう嫌ぁぁ!」
「な、渚様、落ち着いて」
「ハルぅ~私もぉ~」
「ハル! これヤベぇだろ!」
渚とルリと咲に抱きつかれて、春近もピンチだ。
押し寄せる大量のミサイルと、ぎゅうぎゅうと押し付けられるおっぱいとの狭間で、春近たちは島に渡って以来最大のピンチを迎えていた。
早く終わらせて結婚式を挙げたいだけなのに。