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陰陽学園の鬼神嫁 ~十二天将の力を全て手に入れたら、愛が激しい美少女たちと永遠になる物語~  作者: みなもと十華@姉喰い勇者2発売中
第九章 新鬼ヶ島伝説

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第二百六十五話 春近、王になる

 永万元年 西暦1165年

 伊豆大島に流罪にされていた源為朝(みなもとのためとも)は、鬼ヶ島と呼ばれる島へ向かっていた。

 保元の乱で敗北した崇徳上皇(すとくじょうこう)方の為朝は、自慢の五人張り強弓を使えないよう肘を破壊され流罪となる。

 しかし、島で傷を癒し剛腕が復活した為朝は、伊豆七島を次々と支配下に置き、遂に鬼ヶ島にまで攻め込もうとしているのだ。



 そして、その鬼ヶ島では――――


「鬼神様、本当に行ってしまわれるのですか?」


 島民が、皆浜に集まっている。

 為朝との戦いで島民が巻き込まれるのを避ける為に、鬼たちが小舟で島を離れようとしていた。


「為朝は乱暴者とはいえ名のある武人、我ら鬼に脅されていたと伝えれば島民を害する事は無いはず。我らが居なくなれば争いは避けられるはずじゃ」

「し、しかし、鬼神様が……」

「我らならば心配は要らぬ。いつか必ず島に戻って来る。その時は、また一緒に暮らそうぞ」

「鬼神様!」


 鬼たちが小舟で大海へと旅立って行く。


「そうじゃ! 我らが再び戻った時は、共に国を作るのはどうじゃ? 誰もが心穏やかに暮らせる極楽浄土のような国を!」


 最後に、そう言い残し鬼たちは青い水平線の彼方へと消えて行く。

 島民は、鬼たちが消えた水平線を、いつまでも見つめていた。


 ――――――――――――





「という訳で、栞子さんが合流しました」


 春近が、栞子を連れて皆のところに戻った。

 一人で展望デッキに行くと出て行ったのに、戻って来た時は両側に咲と栞子が抱きついている。

 二人共、とろんとした表情で夢見心地だ。


「あれ? 栞子ちゃん、いつ船に乗ったの?」

 ルリが不思議そうな顔をする。


「さっき八丈島で見掛けたです」


 アリスだけは栞子がコソコソ後を付けていたのを知っていた。

 春近を驚かそうとしているのだと思って、スルーしてあげていたのだが。


「あら? 貴女は確か前長官のお孫さんの……」


 賀茂が、栞子が源前長官の孫娘だと気付いた。


「はい、賀茂さんは今回緑ヶ島へ赴任されるのですよね。わたくしは源頼光栞子と申します。あ、今は土御門栞子となりました」

「「「は?」」」」


 賀茂だけでなく、ルリたちも一斉に声が出た。


「わたくし、旦那様……春近さんの激しく淫猥な鬼畜調教で骨の髄まで厳しく躾けられて、旦那様の忠実なる正妻となったのです。以後お見知り置きを」


「えっ…………」


 賀茂が茫然とする。

 ルリも怒りそうになったが、いつもの栞子だと気付いて元に戻った。


「あ、あの……キミ、前長官のお孫さんにも手を出していたの? ほっんとに最低な鬼畜変態淫獣クソガキね」

「いや、誤解なんですけど……てか、段々罵倒語が増えてませんか?」


 賀茂の中の春近像が更に悪化したところで、船は緑ヶ島に到着すると船内アナウンスが流れた。




 船は島の周囲を守る様なリング状の山脈の切れ目から内部へと入って行く。

 エメラルドグリーンに輝く美しい海の中にもう一つの島がある。

 まさに楽園という表現がピッタリな美しい島の港に、フェリーが静かに接岸した。


「ハル、凄い綺麗だよ!」

「る、ルリの方が綺麗だぜ……」

「すごい、すごい!」

「ううっ……」


 春近が少し勇気を出してルリを褒めたが、聞こえなかったのか彼女は綺麗な海を見て飛び跳ねている。


「よ、よし、ここでオレのまったりスローライフが始まるぜ!」

「ハルチカは元からまったりしてるです」


 気を取り直してテンションを上げた春近だが、アリスにツッコまれる。


「うっ、そ、そうだ! オレは王は王でも趣味に生きた征夷大将軍の足利義政(あしかがよしまさ)のようになる!」



 足利義政

 室町幕府第八代将軍


 政治はダメダメで民は飢え応仁の乱を引き起こした原因を作った人物として無能扱いされている。しかし、趣味の分野では『わび・さび』に代表される東山文化を築く偉業を遺した。

 義政がいたからこそ、現代に続く日本文化の茶道、華道、庭園などが発展したのかもしれない。


 ただ、義政を無能扱いするのは少し可哀想であるかもしれない。三魔と呼ばれる逆らえない三人の側近と、鬼嫁と呼ばれる恐ろしい女の日野富子(ひのとみこ)に、あれやこれやと口を出され思うように政治ができなかったといわれている。

 そして、義政は政治への関心を失い全てを放り出し、四畳半の部屋にこもって趣味に没頭。

 富子に牛耳られた幕府は跡目争いで大混乱となり応仁の乱が勃発。

 人々は飢饉で苦しみ京の街は戦火で焼け落ち、やがて下剋上の戦国時代へと続いて行く。



「ハルチカが足利義政だと国が滅亡するです! 今すぐ王位を譲るです!」

「ううっ、しまった……確かにダメ将軍っぽい。というか、怖い女に支配されてるのが余計に似ている気がする……」


 こんな感じに――――


 日野富子(cvアリス)『ヨシマサ! 早く日課のエッチをするです! お世継ぎである次期将軍となる子づくりをするです!』

 足利義政(cv春近)『ひいぃぃ、勘弁してくれ。オレは部屋で新しく買ったフィギュア……じゃない茶器を鑑賞して楽しむんだから』



「何で、わたしが鬼嫁なんですか! 怖くないです! すっとこどっこい!」


 アリスは鬼嫁なのが不服だった。

 前に言ってくれた、前田利家の正室のまつが気に入っていた。


「ほらほら、もう下船だよ。抱っこしてあげるから機嫌直してね」

 アリスは春近に抱っこされて運ばれて行った。




 春近たちが下船しようとすると、港には多くの島民が並んで春近たちの到着を待っているのが見えた。

 実は、ここ緑ヶ島にも春近と鬼の少女たちの活躍は届いており、隕石を撃墜し東京を救った英雄の話や、その後に話題になった島流しの話など、島中が噂で持ち切りになっているのだ。

 そんな訳で、港には春近たちを見ようとする島民で埋め尽くされていた。



 春近とルリがタラップを降りようとするが、予想外に人が多くて戸惑ってしまう。


「あれ? 何かオレたちって、凄い歓迎されてる?」

「でも、逆に、出ていけとか言われたらどうしよう……」

「だ、大丈夫だよルリ、何もしていないんだし。あれ? もしかしてオレが授与式でやらかしたから?」


 二人が階段を下りずに戸惑っていると、後ろのアリスが声を上げた。


「悪意は感じないです。早く降りるです」


 アリスに即されて、ゾロゾロと皆で降りて行く。



 港に降りると、町長のような人物が前に出た。


「お待ちしておりました、鬼神王様。東京を救った英雄御一行様を島を上げて歓迎いたします」


「えっ、あれ? 何でこんな歓迎されてるの?」


「あの、鬼神王様のおかげで、大きな予算が計上され島のインフラや医療体制を充実させてもらえるとの話を聞いておりまして」


「あの話か。もう首相に伝わって計画が進んでいたのかな」


「それに、鬼神様が住む島という話が世界中で盛り上がり、この機を逃してはならぬと町おこしに利用させてもらおうかと……。ええ、島の名物として鬼神王饅頭、鬼神王クッキー、鬼神王スイートポテトパイ、鬼神美少女フィギュアを勝手に作らせてもらったのですが……」


「うううっ、商魂たくましい……」


 町長の横にいる女性が饅頭やクッキーの箱を見せる。

 事後承認のようだ。


「その辺は商標権やパブリシティ権が絡んでくる。ふんす!」


 春近の後ろから黒百合が顔を出す。


「はい、それは承知しております。詳しい話は後ほど」

「うむ、ここはウィンウィンで。ぐへへ」


 町長と黒百合は何やら金儲けの話を始めた。

 春近は法律のことは分からないので、詳しそうな黒百合に一任させた。



「鬼神様……」


 春近が声の聞こえた方に目をやると、視察旅行の時に出会った老婆がコチラに手を合わせて拝んでいるのが見えた。


「あれ? あの時の……」

「鬼神様が、こんなに大勢戻って来てくださった。ありがたや、ありがたや」


 老婆の声で、他の老人まで手を合わせ始める


「おおっ! 本当に鬼神様じゃ!」

「確かに鬼神様が、この鬼ヶ島に戻って来たんじゃ!」

「古い伝承は本当じゃった! 今、こうして鬼神様が戻って来たんじゃからの」


 他にも島の老人たちが、口々に伝承の話をしている。

 850年以上も島に代々伝えられてきた伝説が、遂に実を結ぼうとしているのだ。


「ああ、あああっ、母の言う御伽噺(おとぎばなし)は本当だったのか……。ただの認知症だと思っていたのに。今、こうして鬼神美少女様を見ると分かる。確かに紛れもなく鬼神様だ!」


 老婆の息子まで手を合わせる。

 春近の横に居並ぶ少女たちを見て、誰もが平伏せずにはいられない。

 空間を捻じ曲げる程の存在感を放つルリや、強烈な威圧感と威光を轟かせる渚など、彼女たち一人一人が凄まじい美しさや存在感なのだ。

 これだけの最強ヒロインが立ち並べば、誰もが畏怖の念を抱かざるを得ないだろう。


「鬼神様~」

「鬼神様じゃ~」

「ありがたや~」

「そうじゃ! 鬼神様の王は、島の王じゃ!」

「そうじゃ、そうじゃ! 鬼神様は確かに国を作ろうと言ったはずじゃ!」

「王じゃ、王じゃ!」

「鬼神王様こそが、島の王じゃ!」


「えっ、えええっ、えええええっ! 何でオレが」


 春近が動揺していると、黒百合と話していた町長が戻って来た。


「という訳でして……鬼神王様が島の王ということで」

「いやいやいや、そんな急に……」

「あっ、その辺は任せて下さい。昔流行ったミニ独立国というのがありましてね。まあ、細かいことはどうでもいいんですよ。とりあえず王という話で」

「ちょっと勝手に……まさか、内乱罪で自衛隊とか在日米軍とかが攻めて来たりしないよな?」


 町長は再び黒百合と金儲けの話をしている。


「政府の振興策と支援金に加え、鬼神美少女グッズのネット展開、ミニ独立国で島の魅力を広め観光客誘致、私の知略が加われば完璧! ふんす!」

「さすが愛宕様! 知略縦横にして深謀遠慮、そして権謀術数!」

「ぐへへっ、そちも悪よのう」

「愛宕様ほどではございません」


 二人はノリノリで時代劇ごっこをしている。



「ちょっと待て! 冗談で王とか言ってたのに、本当に王になりそうなんだけど……。オレは静かにスローライフを送りたいだけなのに。足利義政じゃないんだから!」


 この日、春近は王になった――――


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