第二十六話 暴虐と強制
羅刹あいは色々と事情を知っていると、春近はそう感じた。
(嘘をついて後からバレたら信用を失ってしまうかもしれない。ここは、正直に本当のことを伝えた方が良いよな)
真剣な顔になった春近が、あいの方を見る。
体勢は、あいの胸に埋もれそうだが。
「うん、鬼の転生者の話は聞いてる」
「やっぱり、じゃあ、うちも鬼なのは?」
「知ってる……」
「そうなんだぁ」
(羅刹さんは、一体どういうつもりで聞いてきたんだろう)
春近は彼女の考えを探っていた。
「はるっちってさー変わってるよね」
あいは春近の首に回した腕に力を入れ、更に自分の方に引き寄せる。
当然、大きな胸に顔が埋まるような形になった。
むにゅっ!
「ちょ、ちょっと、くるしい……」
「うちらが鬼だって知ってるのに怖くないんだぁ?」
「羅刹さんは悪い人じゃなさそうだし」
「きゃはっ! 簡単に信用しすぎ!」
あいは、少しだけ嬉しそうな表情をするが、すぐに真面目な顔になって話し始める。
「うち、めっちゃ強いよ! もし、うちが悪い人だったら、はるっちは死んじゃうかもしれないのに」
彼女は突然物騒なことを言い出した。
実際その通りなのだろう。強大な力を持つ鬼に軽々しく近付くのは危険なのだから。
だが、春近は何故か彼女らを受け入れてしまっている。
鬼だとか強い力とかではなく、一人の女の子として。
「そういえば、なんとかフォーを潰しちゃったのって、あの子なの?」
「えっ、なんとか?」
(なんとかフォー……? 四天王のことかな?)
「うん、ルリが」
「ふーん……」
あいは、少し考え込んだ後、春近を解放する。
「今日、放課後にうちのクラスに来なよ。もう一人も紹介するし」
あいは軽く手を上げて春近に挨拶すると、校舎内へ戻って行った。
「えっ、もう一人って大嶽さんかな? ええっ、こんなに簡単に? これで二人と親しくなれば……」
意外とスムーズに事が運んだようだ。
しかし、そう上手くは行かない事を、後に思い知るのだった。
◆ ◇ ◆
「ハル、おかえりー」
春近が教室に戻ると、ルリが抱きついて迎えた。
「くんくんくん……ハル、別の女の匂いがする!」
「うっ、そ、それは……」
羅刹あいに抱きつかれた時の微かな匂いがバレて焦る春近だ。
「また……浮気か?」
咲にツッコまれる。
「まっ、ハルと結婚する人は大変そうだな! んっ……」
咲は自分で言っておきながら、恥ずかしくなって赤面した。
「え、えっと……咲……顔が」
「うっせ!」
照れて赤くなる咲が可愛かった。
◆ ◇ ◆
放課後――――
春近はB組の教室前に立っていた。
あいの誘いに乗り、もう一人の女子に会いにきたのだ。
ガラガラガラ!
扉を開けると、そこには二人の少女がいた。
他の生徒が誰もいない。
「はるっち、こっちこっち」
春近の顔を見たあいが、元気に声をかけてきた。
あいの隣にいるもう一人の女子は、大嶽渚で間違いないだろう。
金髪をサイドテールで巻き髪にし、震えるほど美しく鋭い目をした美少女だ。威圧感が半端ない。
凄い美人だが、印象としてはキツそうな感じで春近の苦手なタイプだった。
羅刹あいが『オタクに優しそうな黒ギャル』だとすると、大嶽渚は『オタクに厳しそうな白ギャル』に見えてしまう。
春近の勝手な想像だが。
「あの、初めまして、土御門春近です」
二人の前に立った春近が自己紹介する。
「うちは羅刹あい、こっちが大嶽渚、渚っちね! あと、うちのコトは『あい』か『あいちゃん』で!」
(え……その二択なのか?)
フレンドリーすぎるギャルに春近が戸惑う。
「では……あいちゃん……で」
「きゃはっ、超キョドってるー! うけるー」
羅刹さん改め、あいちゃんに笑われる。
一方、大嶽渚は鋭い視線を崩さない。
「ふーん、コイツが……」
笑っているあいを横目に、大嶽渚が鋭い目つきで睨んでくる。
もう、上から下までジロジロと。
まるで強烈な執着があるように、何かお気に入りの玩具を見つけたかのように。
春近は動揺を隠せない。
少し足が震えてしまうほどに。
(どど、どうしよう……大嶽さんは苦手なタイプだ……。何か、すっごい見られてるし……)
しかし、渚の次の言葉に春近は驚愕した。
「コイツを寝取っちゃえば、酒吞の悔しがる顔が見れるかもね」
大嶽渚が、突然とんでもないことを言い出した。
NTRが許されるのはフィクションの中だけだ。
「え、え、何言ってるの……」
驚いて後ずさりする春近を見つめる渚の瞳がギラギラと輝く。
「どうせ、あたしの強制の呪力からは誰も逃げられないし。あんたは、あたしの奴隷決定ね!」
「はぁああああああ!?」
開始早々、攻略どころか奴隷になりそうな春近だった。




