第二百五十話 たとえ離れ離れになったとしても
隕石落下予想時刻が刻一刻と迫っている。
日本各地に配備されている弾道ミサイルを探知する警戒管制レーダー、日本海に展開しているイージス艦からのデータリンク、自動警戒管制システムからの情報が統合され、それにアリスの勘を加えて天空に突き上がった超電磁加速砲の砲身を微調整する。
アリスの勘と侮るなかれ。
普段から勘の鋭いアリスが、呪力を使った時の勘の精度は凄いものがあるのだ。
超電磁加速砲の莫大な発射エネルギーを受け止める為、砲台は固定金具により地中深くまで打ち込まれている。その上に設置された十三か所の電極のようなエネルギー注入装置に、春近と彼女たちがそれぞれ配置に着く。
メインの電力供給には、1億ボルト20万アンペアの電力は20兆ワットというスーパーパワーの魔法使い羅刹あいが入る。
更に、一人一人が単独で天変地異を起こすレベルの、半神とも呼べる大天狗の五人である、大山天音、鞍馬和沙、愛宕黒百合、比良一二三、飯綱遥が。
特に重力制御の神通力を使う一二三は、最大最強の必殺技『大天狗超重力大爆発』により、金属弾頭を更に超加速させる役目だ。
そして、それぞれが最強の鬼の王である六人の、酒吞瑠璃、茨木咲、鈴鹿杏子、大嶽渚、阿久良忍、百鬼アリスが配置に着く。
ルリは空間支配の力により、超巨大なエネルギーから砲塔の固定、砲身の強化、砲弾の更なる加速を担当する。
アリスは、自衛隊の管制システムと自身の勘で目標を捕捉、呪力で確率と命中率をアップさせ、因果律に干渉させ極限まで成功確率を上げる。
最後に春近が、十二人の少女たちをリンクさせるコントロール席に着いた。
鬼神王の十二の根源を持つ呪力により、彼女たちと呪術回路を形成し全員をリンクさせることで、更に皆の力を向上させるのだ。
元から春近と彼女たちの関係には、能力を向上させる繋がりがあった。
彼女たちは単独で能力を使うより、信頼の置ける春近との関係性により、人数が増える毎に能力が向上しているのだ。
そして、鬼神王となった今の春近には、彼女たちとの間に呪術回路が形成され、今までとは比べ物にならないくらい飛躍的に力を向上させていた。
ゲームに例えるのなら、パーティメンバーの能力を格段にアップさせるバフをばら撒いているようなものだ。
一人一人が伝説の鬼神や大天狗である最強ヒロインが勢揃いし、究極まで高められた呪力が謎の究極兵器によって最大最強出力で発射されようとしていた。
カウントダウンが始まる――――
60、59、58、57、56……
「ねえ、春近、これ……成功したら、大サービスしてくれるのよね?」
カウントダウンが始まってから、渚が突然ご褒美エッチの要求をしてきた。
「ちょっと、渚様! 今は集中を!」
「大サービスの約束がないと頑張れない!」
「わ、分かりましたから! 超サービスしますから! 足でも何でも隅々まで舐めますから!」
47、46、45、44、43……
「ええっ! じゃ、じゃあ、私も! 私もハルの超サービス欲しい!」
「あ、あのっ……わ、私も春近くんの超サービスを……」
渚に触発されて、ルリと忍までご褒美エッチの要求をする。
「だから! そういうのは後に!」
「わ、わたしも……ハルチカの超エッチなご褒美が欲しいです……」
予想外にアリスまで要求してきた。
「あああああっ! 分かったから! 後でいくらでも、全員に濃厚こってりな超エッチなご褒美を満足のいくまでするからぁぁぁ!」
まさか、こんな直前になってエッチな要求が出るとは思ってもいなかった春近は、ヤケクソになって十二人全員を満足させると言い放ってしまう。
その一言が聞きたかった彼女たちは、濃厚こってり超エッチを期待して俄然やる気になった。
32、31、30、29、28……
「行くぞ! 鬼神王式神呪力全開放! エネルギー充填開始!」
ギュバァアアアバババババババ!
春近が鬼神王の呪力を全開放する。リンクしている十二天将の彼女たちと呪術回路が構築され凄まじいエネルギーが放出された。
そして号令に合わせて全員がエネルギー注入装置に呪力を込める。
「「「はあああああああぁぁぁぁぁーっ!!」」」
15、14、13、12、11……
「成功率改変! 命中率改変!」
アリスの呪力で成功率と命中率を大幅に上げる。
「んんんん~っ、暴虐轟雷!」
ズババババババババババ!
あいが最大出力で電力を供給する。
「空間支配! 砲身強化!」
ギュワァアアアアアアーン!
ルリが空間を支配する超強力な呪力で、莫大なエネルギーに耐えられるよう砲身の強化と、更なる大エネルギーをぶち込む。
8、7、6、5、4、3、2、1
「発射ぁああああ!」
「大天狗超重力大爆発!」
春近の発射の合図と共に、完全にリンクされた十三人の呪力が一つになり、超電磁加速砲の電極に超高電流が流れ、殺生石の金属弾頭が射出された。
それにタイミングを完璧に合わせて、一二三の最強必殺技グラビティバーストが弾頭を押し上げ更に超加速させる。
シュバッ――――――ズドドドドドドドドドドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ――――――!!!!
そこに居た誰の目にも留まらない超超音速で弾頭が射出され、閃光が空高く一筋の光の帯を作り、空気を切り裂き轟音が響いた!
謎の技術により、超電磁加速砲の発射と共に荷電粒子が砲塔内で亜光速まで加速され、反物質を乗せた荷電粒子砲として同時に発射される。
ルリの空間支配で砲身を強化していたにもかかわらず、あまりの極大エネルギーにより砲身が耐熱限界を超え発射直後に溶解した。
軌道傾斜角45度の西の空に向け、弾頭は一直線に伸びて消えて行った。
「弾着!」
――――理論上弾着予定時間
宇宙空間から大気圏に突入する高度80km付近の大気圏上部の中間圏で、小惑星アドベルコフトゥスと殺生石金属弾頭がインパクトした。
マッハ56.5の巨大質量の隕石に超超音速の弾頭が衝突し、インパクトの瞬間に反物質が対消滅を起こし超破壊力で周囲を巻き込みながら弾頭が隕石を貫通して大穴を開けた。
西の空が赤く染まる。
ズドォォォォォォォォォォーン!
「やったのか!」
春近が叫ぶ。
全員が見つめる西の空が明るく染まり、成功を確信したかと思った時アリスが叫んだ。
「いや、隕石は依然存在しているです!」
「は…………」
空が落ちてきた――――
漏斗状に空が窪み、まるで宇宙が見えているかのように黒ずんだ穴から真っ赤に燃えた隕石が飛来する。
超電磁加速砲の直撃を受け大穴を開けたまま、なおもアドベルコフトゥスは健在だ。
それは成層圏に入り断熱圧縮により数千度の超高温となって落下して来る。
「え、え……う、嘘だろ……」
「ハル!」
「きゃあああっ!」
「もうダメぇぇぇ!」
彼女たちの悲鳴が交差する。
「くっそぉぉぉぉぉぉ!」
春近が彼女たちを守るように覆いかぶさり、最後の力を振るって呪力でバリアを張ろうとする。
無論、そんなことでは巨大質量超高温の隕石からは守れないのだが、咄嗟に体が動き自分の身を挺して皆を守ろうとしたのだ。
「「「きゃあああああああぁぁぁぁぁーっ!」」」
泣き叫ぶ彼女たちに、春近は力の限り叫んだ。永遠の愛を。
「絶対に! オレは絶対に忘れない! 例え生まれ変わっても、来世で離れ離れになっても、外国にいても異世界だろうと、絶対に見つけ出す! 全員を見つけ出して、また好きになるからぁぁぁぁぁぁ!!」
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――――――
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「………………あれ?」
落ちてこない……?
春近が顔を上げると、隕石は真っ赤に染まったまま東の方角に消えて行った。
超電磁加速砲の弾着と反物質の対消滅の超破壊力の衝撃により、大幅に軌道が変わり隕石は太平洋上まで到達しバラバラに砕けで海面に落下したのだ。
「やった……のか?」
ズババババババババババババババババババァァァァァァ!!
遅れて衝撃波がやって来た。
超電磁加速砲の威力でスピードは弱まったとはいえ、超音速で隕石が飛来した衝撃波は凄まじいものがある。
「「「きゃああああああっ!」」」
「空間制御!」
吹き飛ばされそうになるのを、ルリと春近の呪力でバリアを張り皆を守る。
周囲の建物の窓ガラスが次々に割れて飛散し、空が夜光雲のような怪しげな紫色に染まった。
衝撃波が過ぎ去った後に、春近は顔を上げる。
「えっと……助かったのか……? ここ、天国じゃないよな? いや、異世界に転移しちゃったとかも無いよな……?」
春近が、相変わらずのオタクっぽいネタを言っていると、彼女たちが次々と起き上がり歓声を上げ始める。
「や、やった、やったよ、ハル! 助かったよぉぉぉ!」
「うぉぉぉぉぉーっ! やったぁぁぁぁぁーっ!」
「春近ぁぁぁぁぁぁぁーっ!」
「ハルくぅぅぅぅぅぅぅ~んっ!」
「ハルチカぁぁぁぁ~良かったですぅぅぅぅぅぅ!」
「はるっちぃぃぃぃぃ~!」
揉みくちゃになって皆で大喜びだ。
「「「やった! やったぞ! うおおおおおっ!」」」
退避所に入っていた自衛隊員も皆歓声を上げながら飛び出してきた。
こうして小惑星激突の大災害は春近たちの活躍で防がれたのだった――――
「本当に良かった。じゃあ帰ろうか? 疲れたしゆっくり寝たいよな」
しれっと春近が何も無かったかのように帰ろうとする。
ただ、生命の危機から生還し感情が昂った彼女たちは、それを許さない。
「は? 春近、何言ってるの? 濃厚こってり超エッチでしょ!」
「えっ、あの……渚様……?」
渚は、即濃厚エッチをご所望している。
「ハル! 私、もう我慢できない!」
ルリも目が完全にハートマークになって迫ってくる。
「あ、アタシも……何か、生きてるって思ったら、すげぇ興奮してきて……」
「は、は、春近くん……今日は思いっ切りやっちゃって良いんですよね?」
「ハル君、ハル君、ハル君、ハル君、ハル君~っ!」
「はあっ、はあっ、はあっ、はるっち~」
咲も、忍も、天音も、あいも、同じように発情している。
「ちょ、と、とりあえず……先に濃厚こってり超エッチです!」
アリスまでエッチ女子の仲間入りだ。
「いやいやいや、それはマズいでしょ! アレも持ってないし!」
「それならご用意してあります! どうぞお使いください!」
自衛隊員が0.01ミリの高級ゴム製品を大量に差し出した。
「何で持ってんじゃぁああああ!」
まさかの展開に春近は自衛隊員にツッコんでしまう。
「これは賀茂様からの差し入れだと聞いております。何の問題もありません! あなた方は救国の英雄ですから。東京圏数千万人の命と100兆円以上の資産を守った事に比べたら安いもんですよ。存分にお使いください!」
「は、はあ……そうなんですか……」
人は生命の危機に瀕すると性欲が高まるといわれている。
元から最強エッチ女子だった彼女たちが、更に昂ってしまったらどうなるのだろうか?
果たして春近は、十二人全員を満足させることは出来るのか――――