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第二十四話 因果律操作

 再び春近は夢の中にいる――――


 何だか分からないが、自分の上に重い何か(・・)が乗っていて圧し潰されそうだ。

 いや、前回よりは少しだけ軽い気がする。


(苦しい……)


 上に乗っている何か(・・)は、柔らかくて良い匂いがする。


(もしかして、またルリが忍び込んだのかな?)


 そんなことを春近が考えていると。


「お目覚めですか……旦那様」


 その声で春近が目を開けると――乗っていたのは栞子だった。しかも裸で。


「うっわぁああああぁ! 源さん! 何やってるんですか!」

「源さんじゃないですわ! 栞子とお呼びくださいと言いましたよ! し・お・り・こ!」

「ちょ、ちょっと、退いてください!」


 春近が栞子を退けようとするが、柔らかな体を触るわけにもいかず困ってしまう。


「栞子と呼んでくれないと退きません! 呼んでくれないと、こんな風にしちゃいますよ!」

「うわああああああっ! 何をする気なの!?」

「もちろん夜伽よとぎの練習ですわ」


 もぞもぞもぞ――――


「うわぁ! そこはやめて!」

「呼びます! 呼びますから! 栞子さん!」

「ん……まあ、いいでしょう」


 栞子としては、『さん』が付いているのが不満だが、とりあえず名前呼びになったのは満足のようだ。


「ちょっと、服を着てください!」

「もう、夫婦なのですから良いではないですか。旦那様」

「良くないですから!」


 ズゥウウウウウウーン!


 ふと、そこで春近は凄まじい威圧感に気付く。まるで格闘技漫画の強キャラ登場のような。

 春近が首を横に向けると、ベッド脇にルリが立っていた。


「何してんのよ! 泥棒猫!」


 ルリも春近のベッドに忍び込もうとして、部屋に入って来たところのようだ。

 ダブルブッキングか。


「ハルに夜這いしちゃダメ! ダメったらダメ!」

「していません、わたくしたちは夫婦ですので」

「いや、どっちも夜這いでしょ!」


 春近がツッコんだ。



 そんなこんなで朝から大騒ぎだ。結局、春近は教室まで二人に両腕を引っ張られて歩く羽目になった。



 ◆ ◇ ◆



「最初は百鬼さんに会ってみようと思う」


 おもむろに春近がそう言った。

 栞子に渡された資料を見ているのだ。

 写真で見た感じ、百鬼アリスが一番話しかけ易いと踏んだのだろう。


「では旦那様、手はず通りに」

「やってみるよ」



 授業が終わると、春近は急いで一人でC組へと向かった。

 当然のようにルリが一緒に行こうとするが、トラブルになりそうなのでお留守番だ。


 念のため、栞子が離れた所で監視する手はずになっている。



 ◆ ◇ ◆



 春近がC組の教室出入口付近で待っていると、一際目立つ少女が出てきた。


 百鬼アリス

 身長は140センチくらいだろうか。

 一際小さいので目立っている。

 黒髪ロングで、いわゆる姫カットの美少女だ。

 小さく可愛くて、まるでお人形のような容姿をしている。



(なんか、美少女すぎて話しかけづらいな……)


 春近が感じた第一印象だ。

 一番話しかけやすいと踏んだのに、女子慣れしていない春近にはハードルが高い。



 それでも勇気を出して、話しかけようと近づく。


「百鬼さん」


 一瞬、春近と目が合った気がしたが、彼女は歩いて行ってしまう。


「あの、百鬼さん」


 追いかけようと春近が走り出した時――――

 ドンッ!


 何か壁のような大きなものに当たり、飛ばされた春近は廊下に倒れてしまう。


「いたっ!」


 そんな春近に、壁だと思った相手が声をかけてくる。


「だ、だいじょうぶ……ですか……」


 声の方を向くと、そこには背の高い女子が立っていた。


阿久良あくらしのぶさん!)


 春近は心の中で叫ぶ。


 心配そうに覗き込んできた彼女は、同じ特級指定されている阿久良忍だ。

 身長が180センチ以上ありそうで、春近は見上げるかたちになる。


「す、すみません……」


 大きな体からは想像できなかった小さな声だ。


「あ、いえ、ぶつかったのはオレの方なので」


 一瞬、春近は迷った。目標を、最初に声をかけた百鬼アリスにするか、それとも今目の前にいる阿久良忍にするかを。


 だが、春近が躊躇ちゅうちょしている隙に、阿久良忍は申し訳なさそうな感じで謝りながら廊下を行ってしまう。



(やはり、最初の予定通り百鬼さんに向かおう)


 当初の目的通りにしようと、春近はアリスの後を追った。




 昇降口まで行くと、アリスの後ろ姿が見えた。

 再び声をかけようと近づく春近だが、偶然通りかかった卜部(うらべ)桜花に強引に呼び止められる。

 体はもう大丈夫なようだ。


「土御門! おまえ、誰にも言ってないだろうな?」


 彼女の第一声は意味が分からなかった。


「何のことですか? それより、今は急いでいるので」

「いや、大事なことなんだ! 誰にも言ってないのならいいんだ。いや、見ていないのか?」

「えっ、何を見たんですか?」


 今の桜花は以前の豪胆な印象ではなく、恥ずかしそうにモジモジしている。

 春近には何のことなのかさっぱりだ。


「見てなかったのならいいんだ! 良かった……」

「だから見てないって、何をですか?」

「いや、良いんだ。見てないのなら」

「ええっ?」


 何の事なのかさっぱりだが、桜花と話しているうちに、またアリスと離れてしまった。


 校舎の外に出て、アリスを追いかける春近だが、一向に彼女に追いつけない。

 その後も、犬に吠えられたり水道の蛇口が壊れて水が噴き出したりと、トラブルが続きなのだ。



 やっとのことでアリスの後ろ姿が見えたところで声をかけた。


「百鬼さん!」


 彼女がギリギリ女子寮に入る直前に入る寸前だ。


 クルッ――

 アリスが振り向いて目が合う。


 その瞬間、春近は不思議な感覚になった。


(何かがおかしい――何だ、この感覚は?)


 明らかに何かおかしいのに、その何かが春近には分からない。


「わたしに関わらない方がいいです……良くないことが起こるから……」


 百鬼アリスは、そう言うと女子寮の中に入って行ってしまう。


 何か目に見えない不思議な感覚を感じた。

 春近は、そう思った。

 何か目に見えない力が関与した感覚を。



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