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第二百二十七話 班決め

 色々なことがあった夏休みも終わり、春近たちにとってこの学園最後の生活になるであろう二学期が始まった。


 この学園に通っている者は、ルリたちのような監視対象者だけではない。裏で陰陽庁が糸を引いている陰陽庁関係者の子女や、何やら(いわく)く付きじゃないのかと思える者、更に何故か近所のヤンチャな若者まで通っている異色の学園なのだ。


 あれほど入学に気が進まなかった春近も、今では校舎も寮での暮らしもその全てが感慨深く思えていた。

 それも全て、ルリとの出会いから世界が変わってしまったのだ。

 それまで色の無かった景色が、急に色づき華やかになったように。


 人生というものは、何かの切っ掛けでガラリと様相を変えてしまうものなのかもしれない。




 春近が教室の席に着くと、藤原が寄ってきた。


「おっす、土御門」

「おはよ」

「あれ……何か印象変わった? 夏休みの間に何かあったのか?」

「ああぁ……あったと言えば色々あったような……」

「やっぱり、もしかして……あの酒吞さんや茨木さんと3P的な何かを……」

「ギクッ!」


 藤原のセリフで、春近の脳裏に様々なエチエチ攻めが浮かぶ。


 くっ、藤原――

 何かあったのを男女の乳繰り合い方面に持って行くとはさすがだぜ!


 実際は、体内に取り込んだ力の根源の暴走により死にかけて、そこから奇跡の生還を果たし鬼神王となったのが原因なのだ。

 それまでお人好しで人畜無害そうな春近も、少しは精悍なイメージになっていた。


 しかし、春近自身もその後のエッチイベントのインパクトが強すぎて、藤原の言う何とかピーなことに意識が行きがちである。

 この二人、陽キャと陰キャの違いはあれど、やはり年頃の男子としてはエッチな方向に話が行きがちだった。

 ごめんなさいなのだ。


「えっ、もしかして本当に……いや、待てよ。鞍馬さんとか大嶽さんとか大山さんとか……6P? いや、もっとか!」


 藤原が真剣な顔で指を折って数え始めた。


「ギクギクギク! エッ、ナンノコトデスカナ……?」


 嘘が苦手なのか、春近はカタコトになってしまう。


「いや、冗談のつもりだったのに……マジかよ……」

「ち、違うって……何というか……そう、途中までだよ」

「す、すげぇ……俺らには不可能なことを平然とやってのける」


 しまった、余計な話をして墓穴を掘ってしまった――

 というか、陽キャで遊び人の藤原に『すげぇ』とか言われても……

 いや、オレもリア充許せんとか言っていたはずなのに、いつの間にかドーテーハートを忘れていたのか……



 春近が考え事をしている内に、隣にきたルリが詳細を説明し始める。


「それでね、ハルを皆でペロペロして――」

「す……すげぇ……」


 余りの衝撃的エチエチに藤原も引き気味だ。


「って、ちょっと待ったぁぁぁ!」


 春近がルリの口を塞ぐ。


「今更隠してもしょうがねーだろ。もうバレてるんだし」


 ルリの後から教室に入ってた咲も話を続ける。


「いやいやいや、それでも変なプレイがバレたら恥ずかしいだろ」

「へへっ、どうせハルがヘンタイなのは皆知ってるって。コイツぅ♡」


 咲が、ニヤニヤしながら春近を指で突く。

 自分がそのヘンタイなプレイをしている張本人なのは気付いていないかのようだ。

 そして、そこに例の四人組女子が現れた――――


「あの、おはよ……咲ちゃん」

「この前は商店街で凄かったね……」

「そ、その……いくらなんでもエロ過ぎて逮捕じゃね?」

「そ、それな……」


「は?! え、ええっ……あれ、見られてたのか……」


 咲がプルプル震えながら茫然とした顔になる。


 先日の商店街で『どっちがより恥ずかしいイチャイチャ行為が出来るか競争』なる恥ずかし過ぎる行為をした件だ。

 同級生には誰にも見られていないと思っていたのだが、本人が気付いていないだけでバッチリ見られていたのはオヤクソクである。


 盛り上がっている時は気にしていなかったのだが、道行く人々全員に恥ずかしい蕩け顔を曝して超バカップル行為を見せてしまったのは完全に黒歴史だ。

 もう、思い出しても顔から火が出そうなほどの羞恥心でおかしくなりそうになる。

 やっぱりエッチなことは部屋の中で二人っきりに限る。


「うっ、うわぁぁぁーっ! ハルぅ~アタシ、もう恥ずかしくてダメぇぇぇ」

「だ、大丈夫だよ、咲……オレがいるから」


 ちゃっかり胸に飛び込んだ咲を春近は抱きしめる。

 結局イチャイチャしているのだが。


 咲が自分で言ったように、もう皆に色々とバレてるから手遅れでもある。



「ま、まあ、土御門も、あんまりヤリ過ぎるなよ……」

「お、おう……」


 藤原に心配された。


 でも、藤原とか四人組とかこいつらとも、あと数か月したらお別れなのかな――

 いざそうなると思うと淋しく感じるような。


 昔のオレは、こういう陽キャっぽい奴らと仲良くしたいとも思わなかった。

 でも、実際に話してみるとそんなに悪い奴らじゃないし、オレが勝手に住む世界が違うのだと決めつけていただけかも……

 陽キャとか陰キャとか関係なく、良い人もいれば悪い人もいる。

 きっと、それだけなんだよな……



 春近が物思いに耽っていると、藤原が話を変えてきた。


「そういえば、修学旅行が近いよな。土御門は班決めどうすんだ?」

「あっ、もうそんな季節か……」


 藤原に言われて気付いた。

 修学旅行の班は六人組を作れと言われていた。

 詳しい内訳は知らないが、仮に男女三人ずつだとしたら彼女の内の誰かがあぶれてしまう。


「こ、これは大問題では!」


 ――――――――






「と、いう訳で、班決めはどうしよう?」


 春近の呼びかけで和沙と杏子と栞子も集め、修学旅行の件について話し合う事になった。


「あ、あの……春近君」

「はい、杏子クン」


 何故か春近がクン付けで呼ぶ。


「もしかして、私があぶれて……そう、あれは中学の時のこと……」


 杏子が過去を語りだす――――


『はーい、修学旅行の班決めは決まりましたか?』

『先生、鈴鹿さんだけ決まっていません』


 ぽつーん……


『あら、困ったわねぇ。誰か、班に入れてくれる人はいませんか?』


 しーん……


「おいやめろ」


 春近が途中で口を挟む。

 しかし、杏子の話は続く。


『じゃあ、キミたちの班に入れてあげて』

『ええーっ! ヤダよ、こいつ暗いし』



「うわあああああっ! もうやめたげて!」

「あああああああっ! 黒歴史がぁぁぁ!」


 春近と杏子が二人で抱き合う。

 時に班決めは残酷な世界なのだ。


「い、いや、杏子だけ仲間外れにするようなことはしねえよ。むしろ、男女比を無視して、この六人で班を作れば良いんじゃね?」


 これ以上は見てられないといった顔の咲が止めた。


「咲……そうすれば良いんだろうけどさ……」

「茨木さん……男女比が……」



 確かにこの六人で班を作れば解決だ。

 しかし、男女比が大きく狂い、他の男子から文句が出ること必至である。


「まてよ、仲の良い男同士で回りたい人も多いかもしれないよな」

「そ、そうですよね。同性が好きな人も多いですよね」

「杏子が言うと違う意味に聞こえるけど、そういうグループも多いから大丈夫な気がするぞ」

「ふひっ♡ 理解のある彼氏で幸せであります」


 春近と杏子は、とりあえずそういうコトにした。




 そして、班決め当日――――


「土御門だけハーレムでズリぃだろ」

「ぼ、ボクのルリちゃんを独り占めはズルいんだな」


 やはり男子の一部から文句が出た。


「いや、そこを何とか。あと、ルリはオレのだ」


 春近が何とか説得しようとする。


「ボクは譲れないんだな」

「はい、飴ちゃんあげるから譲って」

「譲るんだな」


 文句を言っていた男子の一人は、ルリに飴を貰ったら簡単に譲ってしまった。


「お、おまえ……飴で良いのかよ……」


 ルリを狙っているのかと春近は心配だったのだが、そうでもないみたいなので安心した。

 そのクラスメイトはルリ様に心酔しルリ様の言う事なら何でも聞くのだ。

 因みに、その前はアリス様に心酔していた。


「俺は譲らねえぞ。女子と一緒に回りてえし」


 まだ、数人が譲る気配は無い。

 そこに、藤原がやってきて耳打ちする。


「おい、あんま土御門と揉めると、女王に目を付けられるぞ」


 ビックゥゥーン!

「あ、譲ります。どうぞどうぞ」


 一瞬で折れた。

 渚女王は最近天使にジョブチェンジしたのに、いまだ学園を支配する程の恐怖は消えていないようだ。


 どうにかこうにか班決めも決まり、学園最後の思い出になりそうな修学旅行が迫っていた。

 ただ、春近たちは知らなかった。

 この移住までの数か月の間に、まだ様々な波乱や大事件があるということに。


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