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第二百二十三話 これからの事

 実家から戻った春近を待ち受けていたのは、ちょっとだけ嫉妬してしまった他の彼女たちだった。

 ルリだけを実家に招待したことが広まってしまい、ご機嫌斜めになってしまった子が何名か……。



 そして、ここにも一人――――

 そう、和沙である。


「おい、ハルちゃん……これはどういうことなんだ……」

「どういうとは……どういう……」


 春近が学園に戻った翌朝、何処で噂話を聞きつけたのか突然部屋に押し掛けて来たのだ。


「とぼけても無駄だぞ。ルリを実家に連れて行って、家族に隠れて背徳的なドスケベエッチをしたそうじゃないか!」


「いや、してねーし! と、いうか……したようなしていないような?」


「どっちなんだ!」


 ルリにはエッチ禁止を守らせたのだが、ギリギリ守れたような守れていないような気もする。

 ここでハッキリ『していない』とは言えないのだ。


「くっ、他にもネタが上がっているんだぞ! 咲と渚にも、一晩中寝かさないで何度も何度も許してもらえない程の快楽責めで堕としたらしいじゃないか!」


「全然ちがぁぁぁう! それ、和沙ちゃんの妄想だから。きっと和沙ちゃんは官能小説家に向いてるのかもな」


 春近は『普段からエッチな妄想ばかりしているから』と言いかけて、自分もエッチな妄想ばかりしていることに気付いた。

 二人はムッツリスケベなところは同じだった。


「と、とにかく、一晩共にしたのは事実だけど、快楽責めとか何とかは和沙ちゃんの創作でしょ」


「んっ、まあ……捏造(ねつぞう)なのは認めよう」


「認めるのかいっ!」


「しかし、他にもあるぞ! 黒百合や一二三や杏子も、ハルちゃんと一緒に遊びにいって楽しかったと話していたんだ。私ばかり放置プレイで毎晩ハルちゃんに会えない淋しさを、一人ベッドの中で自分を慰めて……」


 興奮した和沙が、言わなくていい余計なことまで喋って自爆する。

 思い当たる部分があったので、春近まで口を滑らせてしまった。


「ああ、あの卵型の……?」


 かぁぁぁぁぁ――――

 和沙が一瞬で真っ赤になる。


「あ、あ、あああ、あの、だ、誰にも言ってないだろうな……」

「えっ?」

「ぐっ、なんて男なんだ……あの恥ずかしいネタで脅して、私を言いなりにさせて凌辱の限りを尽くすつもりだな」

「いや、しませんって」

「何だ、しないのか……」

「何で残念そうなのっ!」


 和沙はモジモジし始める。

 文句を言いに来たわけではなく、最初から甘える為に来ていたのを思い出した。

 数歩踏み出し、春近の胸に顔を寄せるようにして呟く。


 ぎゅっ!


「た、確かに私は少しエッチなことばかり考えているのかもしれないけど、キミと一緒にいるとどんどん素の自分を曝け出してしまうみたいなんだ。もう、ハルちゃんが全部悪いんだからな……」


「あの、和沙ちゃん」


 さっ! さっ! さっ!


 和沙は一旦離れて、周囲をキョロキョロと確認してから、再び春近の胸に戻って来た。

 つい先日、咲に、イチャイチャしている場面を何度も見ていると言われたのを気にしているのだろう。


「あぁぁ~ん♡ ハルちゃぁん♡ なでなでしてぇ♡ ぎゅっぎゅもして欲しいぃぃいいっ♡ ハルちゃんに甘えたいのぉ~っ♡」


 和沙が思いっ切り甘えた声で抱きついてきた。


「だ、だから、ちょっと待ってって」


 春近が止めようとするが後の祭りだ。

 二人の後ろから声がかかる。


「もうっ、さっきからうるさくて眠れないでしょ」


 二人がイチャイチャ始めようとした矢先に、春近のベッドから天音が起き上がったのだ。


 寝起きの髪を下した顔の天音は、少しだけ気怠そう(アンニュイ)な表情をして垂れ下がる前髪から覗く目が凄い色気を放っている。

 何故か春近の彼女の中では歴戦の勇者のような貫禄を漂わせて、まるで長く付き合っていて酸いも甘いも嚙み分け同棲している恋人のような振る舞いをする。

 昨夜はさぞお愉しみだったと匂わせするかのように裸でベッドから立ち上がりながら。


 更に追い打ちをかけるように、ベッドから出た天音は春近に撓垂(しなだれ)れ掛かり、顔を春近の肩に乗せて両手でさり気なく胸板や脇腹を刺激しつつ、甘えた声で耳元で囁き彼の本能を刺激する。


「ああっんっ、ハル君……昨夜は凄かったよ……」


 寝起きでありながら、ここまで一連の動作を何の淀みもなく流れるようにこなし、彼をドキッとさせつつ他の女をイラッとさせるのはさすが天音だ。


「ぐっはぁああああああっ! さ、最悪だぁああああ!」


 滅茶苦茶甘えてイチャイチャしようとしたところを見られ、恥ずかしい会話内容を聞かれ、トドメに一枚上手な感じに見せつけられ、和沙は羞恥心やら嫉妬心で目がグルグルしていた。

 毎回気を付けているようでいて詰めが甘く、結局バレバレになってしまうのだ。



「ほら、もう機嫌直してよ。ナデナデするから」


 へそを曲げてしまった和沙を、春近がナデナデしたりギューッとしている。

 だが、和沙は天音への文句が止まらない。


「もう、天音なんて嫌いだ」

「ええーっ、私は和沙ちゃん好きなのに」

「ふんっ!」

「ほら、私もなでなでしてあげるからぁ~」


 いつもこんな感じなのに、二人は仲が良いという不思議な関係だ。


「だいたいハルちゃんもハルちゃんだ! 帰って来るなり天音と……」

「それは……自分でもよく分からない内に、天音さんに手取り足取りされて」


 それも天音の高度な能力(スキル)なのだ、最初は気さくに話しかけられ応じていると、いつの間にかさり気ないボディータッチと言葉巧みな話術で翻弄され、気が付くとベッドの中なのである。

 こんなのは、どんな男でも太刀打ちできないだろう。

 しかも、天音は春近にゾッコンで、全能力を春近に向け集中砲火しており、狙った春近(獲物)は絶対逃がさない覚悟なのだ。



 そして十分後――――


「ふへぇぇ♡ ハルちゃ~ん♡ 幸せなのだぁ♡」


 和沙は、春近の胸にベッタリ抱きつき頭や背中をなでなでされてご機嫌になってしまった。

 顔がトロトロに蕩けてしまっている。

 もうこれは『ちょろイン』を通り越し『とろイン』なのかもしれない。


 そんなイチャラブイベントをしている春近に、陰陽庁職員が来訪したので学園応接室まで来るようにとの連絡が入った。


 ――――――――




 春近と、そのまま部屋から付いてきた和沙と天音が入室する。

 部屋の中には一人の女性がいた。

 ビシッとしたスーツに身を包んだ知的なメガネをかけた、いかにも堅物で融通の利かなそうな三十歳くらいの女性。

 春近は、この女性と顔見知りだった。

 絶対に冗談が通じない堅物そうな女性なのに、途中で恋に堕ち(フォーリンラブ)ゃって変な鼻歌とスキップをしていた少し変わった人だ。


「賀茂さん」

「土御門春近君、お久しぶりね」


 賀茂明美三十一歳、春近を見るとキリッとした表情が幾分か和らいだ。

 しかし、春近の両脇にいる少女が目に入り、眉をピクッと動かし困惑した表情になる。


「また違う女性を(はべ)らせているのね……」

「いえ、これはですね」

「ちょっと待った! こ、これ以上近付かないで! わ、私まで堕とそうとしているのでしょうけど、そうは行かないわよ!」

「は?」


 賀茂は、春近が一歩近づくと顔を赤くして急にオロオロし始める。

 明らかに挙動不審だ。


「聞いたわよ! キミ、年上キラーで有名なんですってね。あどけないショタっぽい感じに近付いて、年上女性の心の隙間に入り込み、あの手この手の狡猾(こうかつ)な罠で身も心も堕としまくり、調教されてしまった女性が離れられないようにしてしまうんでしょ!」


「いや、誰だよ、そんなデマ流すのは!」


「私には孝弘さんって心に決めた人がいるの! キミのエッチな鬼畜おねショタ攻めに屈したりしないんだからっ!」


「いや、何だよ! 鬼畜おねショタ攻めって! わけ分かんないよ!」


 二人のやりとりを聞いていた天音が『ふっ』っと笑いが込み上げてしまった。


「いや、すみません……確かにハル君って、純粋無垢な少年みたいに近付いて来て、いつのまにか身も心も堕とされちゃうのよね。すっごく分かる」


「ほらっ! そこの子も認めてるじゃない! キミを愛のキューピットだと思っていたけど、天使の裏の顔は悪魔だったのね! この淫獣クソガキ!」


 愛のキューピットから、再び淫獣クソガキにジョブチェンジされてしまう。


「いきなり酷すぎるよ。てか、天音さん、何で同調しちゃうの?」

「えへへっ、ごめんね。つい」


 天音が両手を合わせながら笑う。


「まったく……話はよく分からんが、ハルちゃんがドスケベ魔人なのは納得だ」


 和沙まで同調してしまった。


「そんなことより、早く本題に入って下さいよ!」




 話がだいぶ脱線してしまい、賀茂は一つ咳払いをしてから話し始めた。


「楽園計画の詳細が決定したしましたので、本日は説明に伺いました」

「詳細……」

「この陰陽学園での生活は二学期末まで、年内には緑ヶ島に移住して島内の陰陽学園緑ヶ島分校へ通っていただきます」

「年内……意外と早いんだな……」


 あと数か月で、この学園ともお別れかと思うと、何だか淋しくなってくるな……


 春近たちがしんみりしていると、賀茂の次の一言で三人はビックリすることになる。


「それと、私事ではありますが……私も緑ヶ島に移住することになりました」

「「「ええええええええっ!」」」


 残暑が続く蒸し暑い日、クーラーが効いた一室で彼女の決意が鳴り響いた。


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