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第二百八話 定番のイタズラ

 春近は階段を下りて栞子のもとに向かっていた。


 何でこんなにナンパが多いのだと文句を言いたくもなるが、彼女たちが可愛いのだから仕方がない。

 スタイルの良い美人が水着を着ていたら、そりゃ陽キャ男どもを集めてしまうものなのだ。



「栞子さん! 大丈夫?」


 階段を駆け下りた春近は、栞子を守るように間に入る。

 栞子は如何にもチャラそうなヤンキーに絡まれていた。

 そして、そのヤンキーの顔は、何処かで見たことがあったのだが――


「あっ、旦那様。この方々が焼きそばを御馳走してくれるとのことでして」

「えっと……」


 ナンパをしている三人組の顔を春近は知っていた。

 先日、妹に絡んできたヤンキーだ。


「げっ!」

「ヤベッ!」

「鬼神王さん!」


 春近の顔を見たヤンキーがたじろぐ。


「あれ? あの時の……何でここに……」


 もう会うことも無いと思っていたモブキャラに再会して、春近はビックリする。


「いや、悪い事してないっすよ」

「そうそう、ちょっと店の手伝いを」

「パイセンが、そこで店出してるんすよ」

「それな! とりあえず美人を連れて来てタダで食わせようって話で」

「そうそう、美人目当てに野郎どもが入りまくりってな感っすよ」


 ヤンキーが少しビビりながら説明をし出した。

 圧倒的強者と認めている春近には下手(したて)に出ているようだ。


「そ、そうなのか?」


 確かに可愛い子がいれば、それ目当てで男が集まるかもしれないけど――

 俗に言うサクラというやつか?


 合法なのかどうなのかは知らないが、無理やりではないようなので春近は納得した。

 ただ、無防備過ぎる栞子には説教だ。


「栞子さん、知らないオジサンがお菓子くれるって言っても、着いて行ったらダメですよ!」

「旦那様……わたくし、小さな子供ではないですわよ……」

「栞子さんが不安過ぎる……」

「ひ、人をポンコツみたいに言わないでください」

「何かくれるからって、ナンパにホイホイついて行ったら危ないんですよ。栞子さん」

「は、はい……」


 ちょうそそこに、アリスが駆け寄ってきた。


「は、春近、カレーを買いに行ったら店員が『ヒィアヒィア!』言ってて怖いです。何とかするです」

「へっ? もしかして……」


 やはり、あのパイセンの店なのは間違いないようだ。




 一行がその店に向かうと、厨房ではあの時のパイセンが料理を作っていた。


 ジュゥゥゥゥーッ!


「フゥゥゥ! 鬼神王さん! 久しぶりだゼッ! ヒィアヒィア! オレもっ、あれから真面目にトレーニングしてっウッ! 大晦日の大会を目指してるゼッ!」


 独特の口調で話すパイセンに、春近も対応に戸惑う。


「は、はあ……真面目に夢に向かっているのは良いですよね」


「後輩たちにもっフゥゥー! あまり悪さをしないように言いつけといたかラッ! 許してくれヨォォー! メーン!」


 店は客が少なくガランとしていた。

 見た感じ料理は美味しそうで、良い匂いが店内に漂っているのだが。


「あの、お節介かもしれませんが、この店が繁盛してないのって店員の見た目が怖いのと、その話し方で一般客が入り難いのかもしれませんよ」


 どうしても春近は言わずにはいられない。店の前を通る客が、店員を見て回れ右して去って行くのを見てしまったから。


「な、なるほど! さすが鬼神王さん。普通に接客してみます」

「普通に喋れるんかいっ!!」


 ついついツッコミを入れてしまった。


 ――――――――




「と、いう訳で、料理をタダで貰ってしまった」


 大量の料理を抱えた春近が、皆のもとに戻った。

 この前のお詫びと今回のお礼ということで、焼きそばやカレーやお好み焼きをたくさん貰ったのだ。


 実際に普通に接客したら、美味しそうな匂いに釣られて大勢の客が入り満席となる。

 よく分からんパイセンだったが、大晦日の大会とやらは頑張ってほしいところだ。


「ハルぅ♡ おなか空いた!」

「はいはい、ルリさんや、たーんとお食べ」

「わーい♡」


 ワンコのように懐いているルリを見た渚が呟く。


「ルリ……あんた、そんなに食べると太るわよ」

「ハルぅぅぅ~渚ちゃんがイジワルだよ」


 何パックもの焼きそばやお好み焼きを食べようと確保したルリが、渚にツッコまれて春近に泣きつく。


「はいはい、たーんと食べて大きくなるんだよ。ルリ」

「あーん♡」


 むしろ春近は、ルリにたくさん食べさせようとしているようだ。


「もしかして……春近って体重ある子の方が好みなのかしら?」

「えっ! そうなの?」


 渚がそんなことを言うので、大きい子代表の忍がピクッと反応してしまう。


 確かに忍が体重があるのだが、高身長なので必然的に重いだけだ。体形が太っているわけではなくスラっとしていた。

 ただ、少し、いやかなり筋肉質なのと、胸や尻や太ももがムッチリしているのだが。



「違う、春近は全方向型フェチ。背が高いのも低いのも、体重が重いのも軽いのも、胸が大きいのも小さいのもイケるくちなだけ」


 黒百合に解説されてしまう。


「うわぁあー! そう聞くと、何か春近君って節操無さ過ぎかも」


 遥にツッコまれる。


「ちょっと、何でオレの性癖が勝手に語られてるの?」

「「「あはははははっ」」」


 ――――――――




 午後になり春近がビーチを散策していると、砂浜に豪華で大きな砂の城が現れる。


「うおっ! あの望楼型(ぼうろうがた)五重六階地下一階、上部が八角堂(はっかくどう)の天守は! ま、まさか安土城かっ! 天下布武かぁぁ!」


 砂で作ったとは思えないほど良くできた城に春近が興奮する。

 もう、気分は織田信長だ。


「ふんす! 会心の出来! どうだ、春近」


 横で黒百合が、偉そうにふんぞり返る。


「あっ、春近君。どうですか最近の考証を元に、私たちの考えたオリジナリティを取り入れた安土城ですよ」

「ん……けっこう頑張った……」


 城の裏手から杏子と一二三も顔を出した。


「これは凄いぞ! 砂像や雪像コンテストで優勝するレベルだよ。いや、もうこの際は安土城の復元を全面的に任せたいレベルだ」


「ふんすふんす!」


 黒百合が『もっと褒めて』といった感じにドヤ顔になっている。


黒百合(ブラックリリー)のドヤ顔は面白いけど、城の完成度は凄いものがあるな」


 この三人は器用そうだしクリエイターに向いてるのかな?

 将来は何か凄い物を作りそうな気がするぞ。



「これは保存したいレベルだな。せっかく凄いのが完成したのに、潮が満ちて壊れちゃうのはもったいないね」

「正に山崎の戦の後に焼失してしまったみたいに、安土城天守の命は短いのですね……」

「諸行無常か」


 杏子と一緒に感慨(かんがい)(ふけ)る――――



 ニマァと何かを企む顔になった黒百合が、春近の腕を掴んだ。


「春近、そこに横になって」

「えっ、何で?」

「いいからいいから」


 黒百合に言われるがまま横になる春近だが、そこに皆が一斉に春近の体に砂をのせ始め慌てだす。

 どうやらイタズラで体を埋めようとする魂胆らしい。


「お、おい、埋めるのは良いけど変なことはしないでよ」

「ぐふふっ、それはどうかな?」


 この顔は絶対イタズラする気だな――

 まあ、楽しそうにしているから付き合ってやるか。

 この三人なら危険なことにはならないだろうし。


 三人は、せっせと砂をのせて春近の顔だけ出して埋め終わる。


「あれ? 意外と重くて動かないぞ……」

「ぐへへっ、ち〇こ付けてあげる」

「やめろ、恥ずかしい。なに定番のイタズラしてんだよ」


 黒百合たちが股間部分に砂を積み始めた。



 楽しそうに三人が砂を積んでいると、そこに最も危険な美しくも威圧感のある声がかかる。


「あら? いいコトしてるわね♡」


「えっ、この声って……まさか……渚様っ!」


 春近が顔を上げると、ちょうど自分の顔の真上に仁王立ちするように渚が立っている。


「えっ、あのっ、変なことしないですよね?」

「うふふっ♡ 春近、動けないのね」


 渚は大好きなオモチャを見つけたかのような表情で満面の笑みになる。

 威圧感ではなく笑顔なところが逆に怖い。


 黒百合は諦めの表情になって呟いた。


「春近……骨は拾ってやる……」

「ちょっと! 助けてよ!」



「ふふふふっ♡」


 薄っすらと上気した顔になった渚が、春近の顔の近くにしゃがみ込んだ。上から春近を覗き込む。

 春近の眼前には、渚のあれが近い危険な体勢だ。


 うわっ、近い! 近すぎるって!

 何でこんな体勢に……


「ねえ、春近……この後、あたしが何をすると思う?」

「は? 何って……おい、まさか……」


 いや、まさかな――

 待てよ、そのまさかな事を平気でやるのが渚様だけど。


「ねえ、春近……トイレって何処だったかしら?」

「うわああああっ! 渚様ぁぁぁぁぁ! それだけは許して!」

「あははっ! もう、冗談よ♡ いくらあたしでもそこまで酷いコトはしないわよ。外では」


 スリスリ――

 煽情的な目つきの渚が春近の顔を撫でる。


「はああああっ……助かった……」


 本気でするのかと思ったぜ――

 あの渚様だしな……

 あれ? ちょっと待て……『外では』って言ってなかったか?

 もしかして……部屋の中ではする予定なのでは……

 も、もう、要注意人物だよ! それだけは断固拒否せねば。


 そんなことを考えている春近だが、事態は更に危険度を増す。


「ああーっ! ハル、何やってるの?」

「ハル君、面白いコトしてるのね」

「はるっちー! うちもまぜて~♡」


 騒ぎを聞きつけて、他の子まで集まって来てしまう。

 春近の顔の周囲を取り囲むように、皆がしゃがみ込んで包囲してしまった。

 今、春近の顔は女子に取り囲まれ、皆の下半身が近い危険な状態だ。


「くっ、だから近いって! こんなの危険過ぎるわぁぁ!」


 うううっ――

 顔の周り360度が女の子に取り囲まれるだなんて……

 こんなのドMにはたまらないシチュエーションだな、おい!

 いや、オレはドMじゃないんだけどさ……

 くっ、ううっ、Mじゃないはずなのに……

 ドキドキと興奮が収まらないぃぃ!


「助けてぇぇぇぇぇー!」


 この後、滅茶苦茶イタズラされた。

 ドMにはたまらない、複数女子から見下ろされて色々されてしまうあれだ。

 ドMではないと言い訳する春近だが、呪力を使って砂を除けて逃げなかったことがバレてしまい、結局ドM認定をされてしまうのであった。


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