第二十一話 栞子ヤンデレる
「わたくしと土御門さんが、お付き合いすれば良いのですわ!」
栞子が突拍子もないことを言い出した。
これには春近も、『この人、なに言ってんの?』という顔になる。
「あのぉ……これのどこが良い案なんですか?」
「よくぞ聞いてくださいました!」
「いや、聞きたくないですけど……」
「二人が付き合っているという体にすれば、作戦も立てやすく行動もしやすいですし」
「は、はあ?」
ハイライトの消えたような目で語り続ける栞子に、春近は引き気味だ。
「えっと……ルリが怒ると思いますけど?」
「わたくしが正妻、酒吞さんは側室ということでどうでしょう?」
「いや、どうでしょうとか言われましても……」
(何を言ってるんだこの人は……。第一印象は美人で所作の綺麗なお嬢様って感じだったのに、実はヤバい人な気がしてきたぞ……)
もちろん春近の答えはノーだ。
「そうですね、ルリに正直に話してみます」
「ま、まま、待ってください!」
栞子が必死に追い縋り、春近を止めようとする。
「もう、この作戦を成功させないと後が無いのです! わたくしは学園での後ろ盾も失い立場も危うくなって、もう土御門さんだけが頼りなんですよ! もし、この作戦が失敗したら、わたくしはどうしたらいいんですか? 特級指定の鬼が居るこの学園で、鬼と敵対してしまっているわたくしの学園生活はぁあああぁ!」
凄い早口で捲し立てる栞子。まさに鬼気迫る感じだ。
「そうだ……わたくしを辞めよう……もう頼光を引退しよう……。結婚して子をなせば、その子供に頼光の名を継がせ、わたくしは引退し普通の栞子に……」
「み、源さん、まだ人生は長いのだから、もっと青春を謳歌するとか夢を追うとか進学とか、別のことに力を入れた方が……」
「その子を源氏の棟梁とし、源氏再興を成し遂げねば」
「って、聞いちゃあいねぇ」
結婚するにしても相手が必要だ。
春近は素朴な疑問を思い浮かべた。
「結婚するといっても相手はいるのですか? あ、源さんの周りには武道家の強い人が多いですよね」
「いえ、わたくしはデカくてゴツい男性は苦手でして」
四天王の皆が聞いたら崩れ落ちそうだ。
「わたくしは、もっと線が細くて、こう物静かで優しそうな……」
そう言いながら、栞子は春近を見る。
「よく見ると……土御門さんはわたくしの好みにピッタリですわ」
「えぇぇ……」
「わたくし決めましたわ! 土御門さん! 貴方と結婚いたします!」
「勝手に決めるなぁあああ!」
「もうそれしか道はないのですわ!」
「は、離れろぉおおお!」
ガシッ!
逃げようとする春近に、栞子は必死の形相で縋り付いてくる。目がヤバい。
この騒動でルリたちが集まってきた。
「ちょっと、何してるの! ハルから離れろぉ!」
当然ながら、この状況を見たルリが不機嫌になった。
「また……浮気……」
咲は何か誤解しているようだ。
「土御門君、相変わらずお盛ですね……くふっ……」
杏子は妄想を膨らませている。
「違うんだ! これはそういうのじゃなく!」
何とか誤解を解いてもらおうと春近が説明するが、栞子は完全にアッチの話になってしまっていた。
「子種を! 子種をください! さあ! 子づくりです! さあ!」
ヤンデレみたいな顔をした栞子が迫って来る。
「や、やめろぉおおお! まだキスもしたことないのにぃ!」
「後生です、お情けをくださいませ! さあ、同衾しましょう!」
「待て待て待て! 何でエッチだけ超積極的なんだぁあああ!」
見た目とは裏腹に、栞子はエッチに貪欲だ。
そんなのをルリが許すはずもなく――
「ちょっと! ハルから離れて!」
「やっぱり浮気だ……」
「くふっ……くふふっ……」
もう収集がつきそうにない。
こうして、春近は知らず知らずのうちに、とんでもないヤンデレキャラを爆誕させてしまったのだった。