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第百九十八話 好感度急上昇

「要するに、多くの女性とエッチなことばかりしていたら、鬼になってしまったという訳ですわね」

「ぐはっああっ! そんな風に要約すると、まるでオレがバカみたいじゃないか」


 栞子のストレートな物言いに春近がダメージを受けた。


 鬼になった事情を春近が説明しているのだが、確かに言われてみればエッチしまくっていたので文句は言えない。

 この男、鬼の王であるルリたち十二天将を従える鬼神王であり、あの伝説の大陰陽師蘆屋道満を圧倒するほどの強者であるにもかかわらず、女性と話している時は以前と変わらず全く強そうには見えなかった。


「でも、しましたわよね? わたくしには、何もして下さらないのに」


 栞子がグイっと迫る。


「うっ……だから、それは……」

「さあ、さあ、いざ、夜伽(よとぎ)を!」

「いや、だから……あれ? この場合、栞子さんにも鬼の力が移ったりするのか?」

「むしろ望むところです! 強い力を手に入れ源氏再興ですわ!」

「栞子さん、逞し過ぎる」



 グイグイ行っていた栞子だが、途中で春近に寄せた顔をほころばせる。


「でも、旦那様がご無事で良かったです。何事も体が資本ですわ。生きてさえいれば何とかなるのですから。どうか、ご自愛くださいませ」

「あれ? なんか栞子さんがマトモに見える」

「わたくしを何だと思っているのです!?」

「えっと、ちょっとストーカー気味でクンカクンカなヤンデレヒロイン……」

「それは……止められませんわね」

「えええーっ! それは止めてよ。もう、開き直ってるし……」


 何だかよく分からないけど笑いが込み上げてくる。


「うふふっ」

「あはは」


 栞子さんって、黙っていれば清楚なお嬢様みたいなのに、知れば知るほどポンコツだし変わった人なんだよな――

 でも、彼女の強さや前向きな姿勢は見習いたい気がする。


「陰陽庁側のわたくしがこんなことを言うのも変ですが、今陰陽庁は大混乱になっております。何か仕掛けて来るかもしれませんから、十分に注意をしてください。まあ、何をしてきても、圧倒的にこちらが強いので大丈夫かもしれませんが」


「うん、ありがとう。栞子さん」


 心配だった栞子への説明も無事に終わり、春近はホッと胸を撫で下ろした。


 ――――――――




「後は……妹にも説明しないと……。でも信じてくれるのか? 筋トレしたら強くなったってことにして誤魔化そうかな? いや、無理だろ……」



 考え事をしている春近に、横から声がかかった。


「ハルっ、何してるの」

「うわっ!」


 驚いて顔を上げると、そこにはルリと咲が立っていた。


「あっ、ルリ……と咲」

「ハルも買い物? 一緒に行こっ!」

「あっ、うん……」


 二人も買い物に行こうとしていたのか、偶然一緒になり三人で出掛けることになった。

 ルリは春近の腕に抱きつき、咲は何か言いたそうな表情になっている。


「咲……」

「あのさ……」


 春近と咲が同時に喋り出した。


「あ、咲からどうぞ」

「あ、ああ……あの、さっきは叩いちゃってゴメン」

「えっ、あれはオレがからかっちゃったのが悪いんだし……」

「いや、後で冷静になって考えたら、寝ているハルにあんなコトをしたアタシが悪かったと思って……」

「まあそれは……でも可愛いから良いかなって。ふふっ、ふふふっ」

「わわ、笑うな!」


 咲が顔を真っ赤にして、春近の胸をパシパシと叩く。


「えっ、なになに? なんかあったの?」


 ルリが二人の会話が気になって入ってきた。


「オレが寝ている時に咲が……」

「いいい、言うなぁああああぁ!」

「ちょっ、苦しいって」


 春近に抱きついた咲が、両手でギュウギュウと絞め込んでくる。


「うううっ……これが惚れた弱みなのかよ? ハルが好き過ぎて、溢れる想いが止められねえ」

「オレも嬉しいよ。それでチュッチュ……」

「だから、言うなぁああ!」


 更に咲がギュウギュウと抱きつく。


「ああーっ! ズルい、私もっ!」


 ルリまで抱きつき、二人に両側からくっつかれたまま変な体勢で歩く。


「ちょっと、歩き難いって」

「ちょっとくらい良いだろ。もっとイチャイチャさせろよな♡」

「えへへぇ♡ ハルは放っておくとどっか行っちゃうから捕まえておかないとね」


 二人だとバカップルだが、三人なので何と呼べば良いのやら――――

 もう周囲の人々の顰蹙(ひんしゅく)を買いそうな感じに、イチャイチャしまくりながら通りを歩く。




「あれ、あそこにいるの夏海ちゃんじゃね?」


 スーパーの前に着いたところで、咲が買い物に来ている夏海を見つけた。


「ヤバっ、夏海だ。いや、待てよ……今説明しておいた方が良いのかな。後になるほど話し難くなりそうだし」


 偶然会った夏海に、鬼の件を話そうかと迷う春近だ。


「あっ、おにい……」


 夏海が春近たちに気付き、三人の所に近寄ってきた。


「こんばんは、咲先輩……とルリ先輩」


「こんばんは、夏海ちゃん」

「こんばんは~」


 挨拶を交わす三人だが、夏海の心は複雑だ。

 兄に抱きつくルリを見て内心は文句が噴き出ていた。


 あああーっ!

 またルリ先輩ってば、おにいに胸を押し付けてる。

 おにい……そんなに大きな胸が好きなの……

 もうっ、なんかムカつく……



 そんな妹の心情など知らない春近は、タイミング悪く夏海に声をかけた。


「夏海、ちょうど良かった。話があるんだけど」

「は? 何よ、おにい……」


 春近たちは人の少ない駐車場へと移動する。


「夏海、落ち着いて聞いてくれ……」

「だから何よ」

「実は……お()は、本当に(おに)いになったんだ」

「はあ? わけわかんない。キモっ!」


 鬼の事情をギャグに乗せて伝えたが、妹の反応は厳しかった。


「ルリ~妹が冷たい」

「ハルぅ♡ ぎゅぅぅ~っ」


 春近がルリに甘える。


「あああーっ! また巨乳押し付けてる。もうっ、やめてよね!」


 ルリの巨乳に顔を埋める春近にイラッとした夏海が、ついつい本音を漏らしてしまう。


「咲~夏海が冷たい」

「咲ちゃ~ん、夏海ちゃんが厳しいよぉ」


 春近とルリが同時にショックを受けて、今度は咲の胸に飛び込んだ。


「よしよし、二人とも、しょうがねーなぁ」


 春近とルリの頭を撫でながら、咲は夏海の方を向いた。


「夏海ちゃんもさ、ルリに悪気は無いんだから許してやってよ」

「あっ、いえ、すみません……先輩に失礼なことを……」

「良いよ良いよ。アタシも夏海ちゃんと仲良くしたいし」

「は、はい」


 咲には素直になる夏海だった。


「では、私は失礼します」


 そう言うと、夏海は背を向けて歩いて行ってしまう。



「夏海ちゃんって、ブラコンなのかな? ルリにハルが取られちゃうと思ってるのかも」


 ブラコン気味の夏海を見送りながら咲が呟く。


「あ……まだ話の途中なのに。結局、鬼になった件を伝えてないんだよな」


 春近の話に、咲が不安そうな顔になった。


「でもさ、ハルが鬼になった理由を夏海ちゃんに伝えたら、アタシたちのこと嫌いになっちゃわないかな?」

「ううーっ……私、もっと嫌われちゃいそう……」


「そ、それは多少隠しておこうか。妹には刺激が強過ぎるというか……」


 そ、そういえば――――

 鬼になった経緯を説明したら、エッチしまくったことがバレてしまうのか……

 あれ? 詰んだ……?

 いや、エッチなことはボカして説明するしかないか……




 春近たちが店の出入口の方に行くと、先に行っていたはずの夏海が数名のヤンキーに絡まれているのが見えた。


「何ぶつかってんの? これ、ヤバいっしょ!」

「ウェェェイ、体で払っちゃう?」

「遊びに行こうよ!」


「す、すみません、やめて下さい」


 如何にもガラの悪そうな集団に腕を掴まれ、夏海は逃げられなくなっている。



「夏海……ヤンキーに絡まれやすい体質なのは、兄妹揃って同じなのかよ。助けに行かないと」


 ガシッ!

 春近が助けに行こうと前に出た腕を、ルリが掴んで制した。


「私に任せて!」

「えっ、うん。でも、やり過ぎないでね」

「分かってるって」


 ビュゥゥゥゥゥーーーン!

 ルリは走って夏海の元まで行くと、絡んでいるヤンキーにビシッと指を突き付けた。


「こらっ、妹ちゃんから手を離せ!」


「は?」

「えっ?」

「おっ!」


 突然現れたルリに、ヤンキー集団は目を奪われて固まっている。

 誰が何処から見ても超絶美人で、この世の者とは思えないほど妖艶で、見惚れてしまうほど魅惑的なプロポーションのルリなのだ。

 もう、これは仕方がないことかもしれない。


「ああん、俺らと遊んでくれんの?」

「姉ちゃん、良い乳してんじゃん。さわらせてよ?」

「たまんねーな!」


 卑猥な言葉の男たちに、ルリの表情が変わる。


「はあああ? 私に触って良いのはハルだけなんだよ! ボッコボコにするよ!」


 少し怒ったような表情になったルリが拳を見せる。


「おっ、威勢が良いね。ちょとくらい良いだろ。減るもんじゃねーし」


 ガシッ!

 男が胸元に伸ばした手を、ルリが掴んで止めた。


「えっ、あれ? 動かねえ……」


 ギュウゥゥゥゥゥ!

 ルリは相手の手首を握っているだけなのだが、男は急にへっぴり腰になって苦痛に歪んだ顔をする。


「痛っ! 痛いっ! いたたたたっ!」


 女性に手首を握られただけで戦意喪失してしまったのを、男の仲間が不思議そうな顔をして見つめている。


「どう、まだやる? やるならボッコボコだよ」

「さーせん! もうしません! ごめんなさい!」


 ルリが手を離すと、ヤンキーたちが捨て台詞を残して逃げ行った。


「うっせえ、バーカ!」

「覚えてろよ!」

「バーカ、バーカ!」



 予想通りの光景に、春近がヤンキーを見送りながら呟く。


「あのルリの握力……まるで美少女ゲーム東方ハート2のヒロイン玉鬘珠美(たまかずらたまみ)の、天性の握力150kgから繰り出されるオメガストレングス!」

「いや、知らねーし! 何だよそれ!」


 春近が好きな美少女ゲームを例に挙げるが、咲にはさっぱり何のことなのか分からなかった。



「大丈夫? 夏海ちゃん」

「ううっ……うわああっん! ルリ先輩、怖かったぁぁーっ!」


 緊張感から解放された夏海は、ルリの胸に顔を埋めて(せき)を切ったように泣き出した。


 何だか……柔らかくて……ふわふわして……気持ち良い――

 すっごく落ち着く……

 おにいがルリ先輩の胸が好きな理由が、ちょっと分かったかも……


 夏海は、ちょっぴり兄の気持ちを理解した。

 そして、危なかったところを助けられて、ルリに対する好感度バロメーターが急上昇した。


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