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第百九十六話 日常への帰還

 陰陽庁に激震が走る。

 千年の廻り合わせにより伝説の鬼の力を持つ少女が生まれ、特級指定妖魔として監視対象にしていたところ、更にそれを上回る世界を完全支配する鬼神王が生まれてしまったのだ。

 もはや悪夢以外の何ものでもない。


 調子に乗った春近が中二病全開である。電撃と合せて超重力弾を撃ち『小型ブラックホールだ!』とか、何かそれっぽい呪力を出して『電子と陽電子を対消滅させて世界を二十五回亡ぼせるエネルギーを作り出すことが可能!』などと言って、更に恐怖を煽ってしまう。


 最後に春近が『もし、オレの女に手を出したら、神罰の炎がこの世を二十五回焼き尽くすだろう……』と言った頃には、大津審議官は気を失いそうなくらい狼狽(ろうばい)し、晴雪は『息子たちに、どう申し開きしたらいいんじゃぁぁ!』などと混乱し、真希子に至っては恐怖で震えながらも何故か目がウットリして春近に心酔してしまったようである。


 とにかく、春近の中二設定の作り話が信憑性を持ってしまい、もし陰陽庁が春近を怒らせたら世界が滅んでしまう事態になってしまったようだ。




 そんなこんなで、春近たちは陰陽学園への帰路に就いていた。

 皆疲れ切りふらふらだ。

 先ず寮に帰って思い切り寝たい気分になっている。



「何とか無事に戻れて良かったよ」


 春近の能天気な言葉に、ルリたちが心配して腕に抱きついてくる。


「もうっ、ハルのバカっ! 本当に死んじゃうかと思って心配したんだから」


 口ではそう言うルリだが、両腕はガッチリ春近を掴み離さない。


「心配かけてごめんね。でも、ルリに抱かれてキスをされた時、皆の気持ちが流れ込んで来た気がしたんだ。きっと、オレが助かったのは皆のおかげだよ」


 本当に、もうダメかと思った――

 体から力が抜けていって……暗く冷たい夜の海に沈んでいくような……

 あれが死というものだったのだろうか……

 でも、あの時は皆を置いて死ぬわけにはいかないって思って。

 絶対に死にたくないって思ったんだ。

 そうしたら、皆の気持ちがオレの体の中に入って来て……

 きっと、俺が生きているのは、皆が強く願ってくれたからんんだ。

 オレのことを……そんなに想っていてくれる人がいるなんて……

 それは幸せなことなんだ……

 皆に感謝しないとな……



「あたしだって……春近を助ける為に頑張ったのよ……凄く心配して……あたしも春近を見つけたかったのに……」


 渚が隣で少し拗ねた顔をしている。


「渚様の気持ちも入って来るのを感じました。本当に、ありがとう」

「なら……良いけど」


 春近に手を握られお礼を言われると、渚はホッとしたような嬉しそうな顔になった。



「あっ、そういえば……渚ちゃんには、思いっ切り叩かれたんだった」


 ささっ――――

 唐突なルリの発言に、渚は素早く忍の後ろに隠れた。


「忍、頼んだわよ!」

「は、はい、お任せを」


 背中に張り付く渚を庇うように、忍がルリの正面に立った。

 

「あ、あの、ルリちゃん、渚ちゃんも悪気があったわけじゃないので……」


 話が得意ではない忍が、一生懸命に説得しようとする。


「えっ、渚ちゃんのおかげで冷静になれたし、皆で探しに行くことになったから、お礼を言おうとしたのに」


「えっ、そうなんですか?」


 渚が忍の大きな背中から顔を出す。


「ちょっとルリ、お礼参りでボコボコじゃないの?」


 渚の言葉にルリが反論した。


「しないよっ! まるで私がいつもボコボコにしてるみたいじゃん」

「あんたは、いつも誰かをボコボコにしているイメージだけど」

「何でよーっ!」


 結局、二人が取っ組み合ってしまい、忍が間でオロオロとしている。

 ケンカするほど仲が良いと言うが、この二人はまさにケンカしているようでいて仲が良い不思議な関係だった。


「お礼参りでボコボコって……昭和のヤンキーかな?」


 一瞬、ルリのヤンキー姿が浮かんでしまった。

 セーラー服を着て木刀を持っていたりして。

 それはそれで可愛いかもしれない……


 やっと学園に着いた頃には午後になっていて、全員が疲れ切り泥のように眠った。


 ――――――――




『――――まさか、本当に奇跡を起こして十二の鬼神の根源を取り込んでしまうとはな……』


 春近は真っ暗い空間で、あの時の声を聞いている。

 鬼の力の根源――太古の昔から受け継がれる人ならざる者の記憶――


『また、あんたか……。前にも言ったはずだぜ、オレは大好きな彼女たちを絶対に守るって! 一緒に幸せになるんだって!』


『そのような青臭いことを言っている小僧が、神の如き強大な力を手にすることになろうとはな』


『そんなことを言う為に、わざわざ出て来たのかよ?』


『もう、これで話す機会も無かろう……だが、努々(ゆめゆめ)忘れるなよ。(かつ)て強大な力を手にした者は、皆その力に溺れ身を滅ぼしてきたということを……』


『そんなのは重々承知だぜ! オレは、好きな人たちが笑顔で幸せでいられたらそれで良いんだ……それだけ……で……』


 そして、春近は深い眠りに入った……


 ――――――――

 ――――――

 ――――




 ガチャ――――

 春近の部屋の扉が開いて、誰かが中に入ってきた。

 静かに足音を立てずに、ベッドの所まで歩いて来る。


「ハル……鍵開けっ放しじゃねーか。不用心すぎんだろ」


 その者は、春近が静かな寝息を立てているベッドに腰かけ、顔を覗き込み笑顔になる。


「ふふっ、良かった……ハルが生きてて。本当に心配したんだぞ」


 ツンツン――――

 指先で春近の顔をツンツンする。



 ん…………

 あれ、誰かの声がする……


 顔をツンツンされたことで春近が目を覚ました。


 誰だ……?

 この声は……咲かな……

 何してるんだろ?

 面白そうだから、ちょっと寝たふりして様子を見てみようかな。



「ハル~起きないとキスしちゃうよ~」


 ふふっ、咲は可愛いな……


 しばらく春近の顔を覗いていた咲だが、だんだんと春近に顔を近づけて行き、くちびるに軽く触れるだけのキスをした。


 ちゅっ!


「えへへ~っ、キスしちゃった♡」


 何やってんだよ、可愛すぎるだろ!

 まさか、こんなオヤクソクな展開になるとは。

 いや、実は少し期待していたんだけど。


「はああっ……もう一回しとこうかな」


 ちゅっ!


「はあっ、はあっ……あと、一回だけ……いや、一回といわずいっぱいしとこう」


 ちゅっ!

 ちゅっ!

 ちゅっ!

 ちゅっ!

 ちゅっ!


「ふにゃ~っ、いっぱいしちゃったぁ♡ ハルだいしゅきぃ♡」


 どうしよう……

 凄く可愛いのだけど、凄く嬉しいのだけど……

 予想以上にキスしまくっていて、起きるタイミングを完全に失ってしまった。


「んんっ、ちゅっ♡ はむっ、ちゅちゅっ♡ ちゅばっ♡ ちゅっ、あんっ、ぺろっ、んんぁっ……。ちゅっ♡ んんぅ~ん、ハル~っ、しゅきしゅきだいしゅきぃ♡」


 うわわわわわーっ!

 咲っ!

 やり過ぎだって!

 これで起きない方が不自然過ぎるだろ!


「はあ……っ、なんだかカラダが熱くなってきちゃった……もっとキスしたい……もっとハルの……色々なところに……」


 がさごそ――――

 咲が春近のパジャマを脱がせ始める。


 おい、何してるんだっ!

 下はマズいって!

 そこはダメだって!


「ああっ……ハルの……」


 ちゅっ――


「うわあああああっ!」


 遂に我慢できなくなって、春近が起き上がってしまった。


「へっ……? は、ハル……ま、まさか……起きて……」

「あっ、ヤバっ……」

「あの……これは……ちがくて……そ、そ、そう、ハルのアソコが無事なのか確認を……」

「…………それはさすがに無理があるような……」


 かあぁぁっ――


「は、ハルのバカっ! アホぉ!」

 バチンッ!

「痛っ!」


 咲が顔を真っ赤にして部屋を飛び出して行ってしまった。


「ははっ、ついつい咲が可愛くて、からかってしまった。後で謝っておかないと。でも可愛かったな。しゅきしゅきーとか」


 ぶたれた顔を押さえて春近が呟く。


「なんか、こういうのをしていると日常に戻って来たという実感がするな。あの時、あのまま終わってしまったら、こんな日常に戻ってバカなこともやれなかったんだよな。。でも、とりあえず腹が減った……何か食料を買いに行こう」




 春近が寮を出たところで予想外の人物と出くわす。


「だだだだだ、旦那様ぁああああああ!」

「うわわわわっ、栞子さん!」


 寮の玄関を出たところで、走って来た栞子に捕まってしまう。


「一体どうなっているのですか! 陰陽庁が大混乱に!」

「マズっ……」

「旦那様、わたくしの知らない所で、何やら色々とやっていたようですわね?」

「えっと、何から説明すれば良いのやら……」


 栞子に問い詰められる春近――――

 果たして、危機を乗り切ったようでいて、様々な問題が解決していない春近はどうなってしまうのか。


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