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第二十話 特級指定ヒロイン

 目覚ましのアラームと共に春近は目を覚ました。久々に平和的な朝だ。今朝はルリのエチエチ攻撃が無い。


 あれから何度もルリがベッドに潜り込むので、必死に頼んで回数を減らしてもらったのだ。

 好意を向けられるのは素直に嬉しいし、夢にまで見たクラスの女子とラブラブシチュエーションなのだが、経験皆無な春近には刺激が強すぎである。


 ついでに、教室での激しいハグも控えるようにしてもらった。

 授業中でもお構いなしで、担任教師も手を焼いているのだから。



「すうっ――」


 春近は窓を開け、新緑の季節が近づいた清々しい空気を体いっぱいに吸い込む。

 大きく伸びをした所で、栞子の言葉を思い出すのだが。


「って、全然平和的な朝じゃねぇ!」


 もう一度ベッドに戻り腰かける。


「特級指定されている鬼の転生者をとりこにしろとか言ってたけど……他の女子に手を出したら、ルリが黙っちゃいないだろ。それに、ルリを裏切るようなのはダメだし」


 詳しい資料を持ってくると言っていた栞子を思い浮かべ、春近は大きなため息をついた。



 ◆ ◇ ◆



 春近が教室に向かう途中で、咲とばったり会ってしまう。


「咲、おはよう」

「おはよ……」


 咲は少し余所余所しかった。

 微妙な距離感で春近の横に並んだ咲が考え込む。先日のルリの言葉が、頭の中でグルグルと回っているのだ。


『失ってからでは一生後悔するんだよ――――』


(うぅ……恥ずかしくてハルの顔を直視できねぇ……。今まで自分を誤魔化してきたけど、やっぱりアタシはハルが好きだ……)


 やっと春近を好きなのを自覚した咲だが、その想いを口にできないでいた。


(最初にあんなヒドいコトしちゃったのに、ハルはアタシを守ってくれたし……。アタシが鬼の末裔だと知っても、ずっと変わらずに一緒にいてくれた……。一緒にいると楽しくて……もっと仲良くなりたいって思ったんだ……)


 咲の想いがドンドン強くなる。最初は頼りなく感じていたのに、身を挺して守ってくれたり、鬼の件を知っても態度を変えなかったことで、春近を見直していたのだ。


(言わなきゃ! アタシはハルがスキだって! そうだ、あそこの角を曲がれば、きっと人が少ないはず……。よし、曲がったらスキって言おう!)


 咲は春近と並んで廊下の角を曲がった。

 意を決した咲が口を開く。


「あ……あのさ」

「えっ、何?」

「あ、えーと……」


(言え! 言うんだアタシ!)


「えっとさ……」

「うん」

「つまりだな、その、す、すぅ……」


(ああぁ、なにやってんだよ! ダメだ、頭がフラフラしてくる)


「な、何でもねーよ! ハルのアホ!」

「えええ……」


(あぁぁぁ! アタシのバカバカぁぁぁぁ!)


 咲がダッシュして走り去り、春近はその場に一人残された。



 ◆ ◇ ◆



 春近が教室に入ると、さり気なく栞子が近づいてくる。

 当然のようにルリも近づき、春近の隣に立つのだが。


「あ、あの、酒吞さんは席を外してもらえませんか?」

「嫌っ! あやしい! ハルを狙ってる?」

「狙ってません!」

「ウソ」

「嘘じゃありません」


 ルリと栞子のバトルが始まった。ちょっと子供のケンカみたいだが。

 見かねた春近が二人に間に入った。


「ルリ、ちょっと席を外してね。源さんと大事な話があるから」

「ええ~っ、ハル、この女が好きなの?」

「いや、全然好きじゃないから大丈夫!」


 春近の即答で、栞子が落ち込んだ。面と向かって言われたらショックなのだろう。



「それで、これが資料です」


 ルリが離れてから、栞子が資料を出した。


「現在、特級指定されている鬼の転生者は、酒吞さんを除いてあと四人います」


 春近が資料を覗き込む。

 意外と丁寧に作られており、四人の女子の写真付きだ。


 春近は上から順に目を通してゆく。


 大嶽おおたけなぎさ

 B組

 強制の呪力


 金髪をサイドテールにしている派手な見た目の女子だ。ギャルっぽい印象であるが、どこか気品も漂っている。

 目つきが鋭く春近には苦手な部類だった。



 羅刹らせつあい

 B組

 暴虐の呪力


 オレンジ色のハイライトが入った派手な髪をした褐色の肌の女子だ。黒ギャルみたいな感じがする。

 こちらは完全にギャルなのに、どこか愛嬌があり怖くない。



 阿久良あくらしのぶ

 C組

 金剛の呪力


 青みがかった髪のショートカットだが、前髪が目にかかっていて表情が分からない。俗にいうメカクレだ。

 そして背が高い。



 百鬼ひゃっきアリス

 C組

 呪力不明


 黒髪ロング姫カットをした小柄な女子だ。まるでお人形さんのような可愛い見た目をしている。



 ざっと資料に目を通した春近がつぶやく。


「凄く強そうなスキルが書いてあるけど……」


 春近は、最後の百鬼アリスが気になったようだ。

 素朴な疑問を口にする。


「百鬼さんは呪力不明なのに特級なんですか?」


 百鬼アリスは背が低く小柄で、見た目も可愛くて他の三人のような迫力は無い。


「写真を見る限りでは、とても危険な存在とは思えないけど」


「彼女の呪力は一番厄介かもしれませんよ。不明と書いてあるのは、謎の力により誰も近寄ることさえ困難という意味ですね。とにかく不思議な力が働いて、対処が不可能なのです」


「そんな人をオレが説得できるのだろうか?」


「まあ、土御門さんには全員攻略してもらいますけど。頑張ってください」


 春近が再び資料に視線を戻す。見ているだけで気が重くなりそうな感じだ。


「あの、一番の問題なのですが、ルリが怒ると思うのだけど……」


「そこは任せて下さい。わたくしに良い案がありますから。完璧ですわ!」


 ハイライトの消えたような目をした栞子が、指でグッドなポーズをした。

 意外とお茶目な人だ。


 ただ、御令嬢のような容姿をしていながら、彼女の今までのポンコツぶりを見ていると、正直不安しかない春近だった。



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