第百八十八話 いざ、女性水着売り場へ!
遂に、待ちに待った夏休みへと入った。海へ祭りへ花火大会へと、皆期待に胸を膨らませている。
特に海の見える別荘への旅行には、皆で色々と計画を立てたりと盛り上がり準備に大忙しだ。
そして春近と彼女たちは、海で着る水着を買いに街へと向かっていた。
「ふうっ、やっと夏休みか。何事も起きずに良かったぜ」
春近は毎回恒例となっていたアレを思い出していた。
とりあえず一学期の終業式に和沙ちゃんが変な演説をせず、大人しくしてくれていて助かったぜ。
まさか三回目は無いとは思っていたけど、あの急にテンパっておかしなことをする和沙ちゃんだしな。
藤原が面白がって『期待してるぜ!』とか言ってたけど、そんな何度もあってたまるかって感じだ。
まあ、今の和沙ちゃんは、あの頃の欲求不満なのと違って大満足しているみたいだし……
でも二人っきりになると、すかさず赤ちゃん言葉みたいになって甘えてくるんだよな。
オレは誰にも喋っていないし、本人もバレていないつもりらしいけど、ボロが出まくっていて他の子も薄々感付いているんだよ。
普段の和沙ちゃんは、ボーイッシュで体育会系でしっかり者のイメージだけど、実はその正反対で、もの凄いギャップが可愛かったりする。
あははっ――
春近の思い出し笑いに、横にいる和沙が気付いた。
「おい、何で私の方を見てニヤニヤ笑っているんだ?」
「えっと、和沙ちゃんとの夜を思い出して……」
「ちょっと待て、誰にも言ってないだろうな?」
「いっ、言ってないですよ」
ルリたち先頭集団と少し距離が開いたので、こっそり和沙の頭をナデナデしてみる。
「和沙ちゃん、良い子~良い子~」
なでなでなでなでなでなで――――
「く、くぅぅーっ! お、お外なのに……こんな場所でしちゃいけないのに……今、猛烈に甘えてしまいたい気分だぁぁーっ」
「ほら、よしよしよしよし」
「ああっん♡ もっとナデナデちてぇ~♡ もっとちてくれないとやだぁ~♡ やだやだぁ♡」
途端に甘えた声を出して壊れる和沙だ。
こんな恥ずかしい姿は、他の者には見せられない。
「ハ~ル君っ!」
「「わあああああっ!」」
突然、神出鬼没な天音が後ろから現れた。
和沙をナデナデする前は、確か前を歩いていたはずである。
これには和沙だけでなく春近も驚きで飛び上がった。
「おおおおお、おい天音! 見たのか? 今の見てたのか?」
「ええっ、和沙ちゃん、何のコト?」
「だから、今のを見たのかって聞いてるんだ!」
「うふふふっ」
「おい、何だその笑いは? やっぱり見てたのか?」
春近は、天音にからかわれて赤面する和沙を眺めていた
ビックリした――
相変わらず天音さんは突然出てくるよな……
和沙ちゃん……ご愁傷様です。
でも、天音さんは前から知っていると思うから大丈夫ですよ。
そんなことを考えていると、天音のターゲットが和沙から春近に移った。
「ハル君、私にもナデナデしてっ♡」
「おい、やっぱり見てたんじゃないか!」
和沙のツッコみを華麗にスルーした天音は、自分もナデナデして欲しいとばかりに春近に体を寄せてきた。
小悪魔的な顔をして、和沙をからかいながらも春近に甘えるという完璧な戦術だ。
「二人は本当に仲良しだねっ。私も甘えたいなぁ」
「おい、ハルちゃんは騙されてるぞ。天音の恐ろしさを知らないから」
和沙が天音の恐ろしさを強調するが、すでに春近は体験済みである。
「天音さんは本当に優しくて良い人ですよ。あと、天音さんの恐ろしさは身を以て体験済みです……深淵入滅!」
「うふふっ……ハル君のエッチぃ♡ 言ってくれれば、またいつでも気持ちよくしてあげるからねっ♡」
天音が抱きついてカラダを密着させ、指で春近の胸元や首筋を『ツツツーッ』と滑らせる。
もう春近の弱い部分は把握済みなのだ。
「うわあっ、やっぱり騙されてる。私のハルちゃんが誘惑されている」
和沙としては、天音の天性の素質のような男たらしテクで春近に迫られると、本当に奪われてしまうのではないのかと気が気ではない。
普段は仲良しな二人なのだが、こと色恋沙汰に於いては色々と天音を警戒しているのだった。
なでなでなでなでなで――――
「ああっん♡ もっとナデナデちてぇ~♡ もっとちてくれないとやだぁ~♡」
「おい天音! やっぱり見ていたんじゃないか! 待てぇええ!」
「あははっ、ごめんごめん」
天音が和沙のモノマネをすると、和沙が怒って追いかけっこのように二人で走って行ってしまった。
今度は、その一部始終を見ていた渚が寄ってきた。
「春近、なんかあの二人と楽しそうだったじゃない」
「渚様、見てたんですか?」
二人と入れ替わるように渚が横に来る。
イチャイチャしていたのをバッチリ見られていたようだ。
渚は、いつものクルクルと巻き髪のサイドテールではなく、アップにして後ろで纏めたポニーテールにしている。
自分好みの髪型なのと普段と違う新鮮な渚を見て、春近は改めて彼女の美しさと高貴さに圧倒されて目が釘付けになってしまう。
渚様――
今日は珍しくポニーテールだ……
まるで芸術作品のような美しい顔のラインと、白くエロいうなじが見えて破壊力抜群だぜ。
ああ、今すぐ跪いて足を舐めたくなってしまう。
って、ちょっと待て!
オレは変態じゃないぞ!
いやいやいや、おかしい。渚様の魅力でおかしくなっているのか。
こんなの反則だぜっ!
「何よ? なにジロジロ見てんのよ?」
「えっ、あ……今日の渚様の髪型が可愛いなって思って」
「――――っ!」
この瞬間、渚は飛び跳ねて大喜びしたいのを、鋼の精神力で耐えて冷静さを保っていた。
だが、すでに耳が真っ赤になっている。
それとなく皆に春近の好みをリサーチして、たまにはイメチェンして春近の気を惹こうとしたのだ。
そして、それは大成功だった。
「か、か、勘違いしないでよねっ! あんたの為にやったんじゃないんだからねっ!」
「…………」
待て!
何だこの御手本のようなツンデレ発言は……
黒百合あたりの入れ知恵か?
この前も何かよくわからん萌えキャラをやってたし……
渚様って、普段は凄く怖そうなのに、実際はアホ……じゃない、素直な子なのでは?
「ちょっと! 黙ってないで、何か言いなさいよ!」
「え、えっと……凄く可愛くて見惚れてしまいました」
「んん――――っ!」
鋼の意思で耐えていた渚だが、もう限界になってしまい春近への想いやら何やらが溢れ出そうになってしまう。
いや、もう実際溢れ出していた。
「は、は、春近……もうあたし限界……今すぐするわよ!」
「ちょっと、渚様、今から水着を買うのだから我慢してくださいよ」
「春近ぁ♡ あ、後で覚えときなさいよ……あたしをこんなにして! これじゃ、あたしが春近を大好き過ぎるみたいじゃない!」
大好き過ぎるみたいと言ってはいるが、実際に大好き過ぎるのだから仕方がない――――
渚が興奮し過ぎて真っ直ぐ歩けない程フラフラになってしまい、春近が彼女の腰を支えて歩いている。
もうカラダの芯の方がムラムラして胸はウズウズと切なくて、ここが外でなかったら即合体しているような感じだ。
そして春近も、渚の良い匂いのする金色の髪が肩に掛かり、今すぐ渚を抱きしめたい衝動に駆られてしまう。
「くぅっ、渚様が近い……」
「春近ぁ♡ もうムリぃ♡」
そして、案の定そのイチャイチャも見られてしまう。
「ああーっ! イチャイチャしてる! 渚ちゃん、外でエッチなコトしちゃダメだってアリスちゃんに言われたでしょ!」
ルリがいつの間にか隣に来て、自分のことは棚に上げ渚のイチャイチャ行為を注意する。
普段イチャイチャしまくっているのは忘れているようだ。
「く……屈辱だわ……あんたに注意されるなんて……もう、ダメぇ♡」
「何だか……私もエッチな気分になってきちゃった……ハル、エッチしよっ♡」
さっきの注意はどこへやら、ルリも春近に抱きつきイチャイチャし始める。
もうバカップル過ぎて危険な状況だ。
「うわぁああっ! オレも限界だぁああっ! ちょっと、あそこのベンチで休憩しましょう」
ショッピングセンターに到着し、冷房の効いているホールのベンチで休憩することになる。
「もうっ、春近が悪いのよ! あたしをこんなに興奮させて」
「そうだよ、ハルがエッチなのが悪いんだよ」
「はいはい、もうそれで良いから」
水着を買う前からテンションが高い彼女たちに囲まれ、春近は禁断の水着コーナーに入るのを恐れていた。
そういえば――
水着コーナーに連れて行かれるみたいだけど、女性水着や下着のコーナーって凄く入りづらいんだよな。
あんな女性の聖域みたいな場所に行って、オレは大丈夫なんだろうか?




