第十七話 星空の告白
現場では、陰陽庁関係者、学園関係者、病院関係者が慌ただしく動いていた。
渡辺豪は頑丈な体をしており、大事には至らず止血も完了し意識はハッキリしているようだ。
他の者も、大きな怪我もなく自力で歩けるほどだった。
ただ、卜部桜花は制服の上着を脱ぎ、何故か下半身を隠すように腰に巻き付け恥ずかしそうにしている。
一度、陰陽庁の職員がルリのところに事情聴取に来たが、ルリが睨むと何も聞かず逃げてしまった。
どうやら、諦めて四天王から事情を聞いているようだ。
栞子はスケスケスーツの羞恥心で動けずへたり込んでしまい、春近が自分の上着をかけてあげた。
今は更衣室で着替えている。
斯くして、陰陽庁の作戦は大失敗に終わり、四天王も全く役に立たなかった。
これ程の戦力差を見せつけられては、もはや何の対処もできないだろう。
周囲の者が深刻そうな顔をしている中、ルリは満面の笑みで春近に話しかけた。
「ハル、行こっ」
ルリは春近の手を引く。
「うん、そうだね、もう行っても良いかな」
陰陽庁職員がルリを怖がって近づいて来ないので、もう後の処理は任せて帰っても良さそうだ。
◆ ◇ ◆
春近とルリは並んで寮までの道を歩いていた。すっかり日は暮れ、空には満天の星が広がっている。
ここ、陰陽学園は都心から離れた街にあり、夜空は澄んでいて星が綺麗に見えるのだ。
まるで宝石を散りばめたような空の下を、二人は手を繋いだまま沈黙が続く。
世界に二人しか存在しないかのような空気が漂う歩道を歩きながら。
「ハル……」
突然ルリがつぶやいた。
春近は黙ったままルリをみつめる。
「ありがとう…… 来てくれて嬉しかった……」
ルリは熱い目で見つめ返す。
「ルリが心配だったから。オレじゃ力にならないかもしれないけど、どうしても助けたかったんだ……」
春近は繋いだ手に少し力を込めて握る。
ルリの体温が伝わってきた。
「ほんとに、ありがとう……」
少しの沈黙の後、ルリは続けた。
「私、ハルに謝らないといけないことがあるの……」
「えっ……」
「初めて会った時――――」
ルリは言い淀んでから話し始める。
「駅で初めて会った時、私はハルを利用しようと思って近づいたの……この人を利用して……学園で有利な状況を作る為に使おうと……ごめんなさい…………」
そう、ゆっくりと言葉を紡ぐと、ルリの綺麗な目から一筋の涙が流れた。
「えっ、ルリは何も悪くないよ!」
春近はルリの身体を優しく抱いた。
「こんな学園に無理やり入学させられたのなら、誰だってそう思うはずだよ。誰かを頼りたいと思うはずだよ。たとえ、最初は利用しようとしていたとても、今はこうしてルリと仲良くなれたのだから良いじゃないか。これからも、オレはルリとずっと仲良くしたい」
「ハルぅぅぅぅぅ!」
ルリは全身で強く春近を抱きしめた。
◆ ◇ ◆
ルリを女子寮まで送り届けた後、春近は帰り道の途中で強烈は恥かしさに襲われた。
「うっ、うわぁぁぁ! なにキザなことしてるんだぁぁぁ!」
少し前まで陰キャでオタクだった自分が、進学してから急に女子と仲良くなって、自分でも分からないくらい生活は一変した。
まさか自分が女子を抱きしめるなど、少し前の自分では想像もできない程だ。
「えっ、えええっ『これからも、オレはルリとずっと仲良くしたい』だと! うっわぁあああ! 恥ずかしい、もう告白みたいじゃないかぁあああ!」
春近は羞恥で体をくねらせる。
◆ ◇ ◆
自室に戻ったルリは興奮状態にあった。
「えっ、ええっ! これからもすっと仲良くって、それ告白みたいなもんだよね」
ルリの呪力が漏れ出し周囲の空間がグルグルしている。
「私が鬼の転生者なのも知って、あのデカい男たちをボコボコにしたのを見て、それでも恐れず離れないと言ってくれた……。それって、もう私を好きってコトだよね!」
今まで関わった人たちは、自分を鬼だと知ると恐れて逃げるか忌み嫌われただけだったのだ。
しかし、あの男は……それでも一緒に居たいと言った。
ルリは生まれてからこれまでで、かつてないほどの興奮を味わっていた。
「ふふっ……ふふふっ……きゃぁああああああぁ!」
今夜は眠れそうにない。