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陰陽学園の鬼神嫁 ~十二天将の力を全て手に入れたら、愛が激しい美少女たちと永遠になる物語~  作者: みなもと十華@姉喰い勇者2発売中
第六章 幸せの形

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第百六十話 あの日の約束

 高級車の快適なはずの車内後部座席で、ルリはすこぶる不機嫌になっていた。


 何しろ、よく分からないオッサンに呼び出されたかと思えば、意味不明な話を聞かされているのだ。今すぐにでも車のドアを破壊して飛び出し、春近のいる学園に戻りたい気分になっていた。



 そして、大津審議官は相変わらずブツブツと長い話をし続けている。


「つまり、鬼は古来より人々に害をなし恐れられ、それを陰陽庁の前身である陰陽寮がだな……」


「はあっ――――」


 ルリは溜め息をつき、己の呪われた人生を振り返る。


 くだらない――

 昔からそうだ、望んだわけでもないのに持って生まれた鬼の力のせいで、勝手に恐れられ化け物と呼ばれ嫌われる。

 こんな力を持ったばかりに、世界から異物として排除されそうになる。

 この男もそうだ、口では正義とか市民の為と言ってはいるが、実際は自分の理解できない物を排除したいだけなのだ。

 理解できないのなら放っておいてくれれば良いのに、わざわざ排除したがる人の何と多いことか――



「楽園計画などと呼んでいるが、人間に害をなすかもしれない者たちを自由にさせておくのは危険すぎるのだ。だから、君は自ら施設に入り保護されるべきだと思わんのかね?」


 その男の独演はまだ続いていた。

 ルリが昔の様に黒い感情に流されそうになる。


 ハルを愛する気持ち……それだけがルリの心の拠り所として繋ぎ止めていた。

 もし、ハルがいなかったのなら、周囲から嫌われ続け疎外され続けていたら、本当に爆発して恐ろしい鬼になってしまったのかもしれない。

 でもそれは鬼だけじゃない、何の力も持たない人でも……同じように疎外され続けたら……きっと誰でも同じようになるはずだから。



「あの、土御門長官のお孫さんの春近君だったかな?」

「えっ!」


 大津の口から春近の名前が出たことで、ルリの感情が一気に現実に引き戻される。


「その春近君にも迷惑が掛かると思わないのかね?」

「……めて…………」

「春近君の人生を台無しにしてしまうかもしれないんだよ」

「やめて……やめて……」

「そう、君の御両親のように」

「や……め……て……」

「君の御両親も、君の恐ろしい鬼の力のせいで大変な苦労をされて、散々酷い目に遭って来たのだから」

「あ……ああ…………」


 なんで……

 なんでそんなことを思い出させるの……

 あの優しかったお父さんとお母さんが……

 いつからか私を怖がるようになって……

 家族はバラバラに……

 もし、ハルまで私を怖がるようになったら……


 ルリの顔面が蒼白になって震える。


 今、心を繋ぎ止めているハルがいなくなってしまったら――――

 もう私はダメになってしまうかもしれない――――



「だから、楽園計画なと中止して、誰も他所の人がいない施設で、同じ鬼たちと一緒に静かに暮らすべきなんだ」


 ふっ、あと少しだ。

 私の説得で、社会から脅威を排除して市民の安全を守るのだ。

 私は、市民を脅威から守る正義の執行者になる!


 大津は酔っていた。己の独善的な正義感に。



「私は……ハルを……不幸に……」


 玉藻前の精神攻撃にも耐えたルリだったが、この男のハルの人生が台無しになるという発言で、心に迷いが生じてしまった。

 もし、ハルが両親と同じように自分を怖がるようになったら、もしハルが自分と付き合った事を後悔するようになったら、そう思ったら怖くてたまらなくなってしまう。


「私は……どうしたら……ハルを信じたい……でも、もしハルに嫌われたり後悔させる事になってしまったら……」



 その時、ハルの声が聞こえた気がした――――


 ルリぃぃぃ――――

 ルリぃぃぃ――――


「気のせいじゃない! 聞こえる! ハルの声が聞こえる!」



 ルリは車の窓から外を見た。


「ルリぃぃぃぃぃぃ!」


 そこには、黒百合のバイクの後ろで力の限り叫んでいる春近の姿があった。


「ハル!」


 バイクは並走し、春近が手を伸ばして叫び続ける。


「ハル! ハルだ! ハルぅぅぅぅぅ!」

「ルリぃぃぃぃ!」

「ハルぅぅぅぅ!」


 ルリはクルマのリアウインドウを開けて叫んだ。


「おい! 何だあれは! 振り切れ!」

「ダメです、危険なので止まります」


 大津が運転手にバイクを振り切るよう命令するが、運転手は安全を重視して脇に停車させた。


 キキキキキィィィィーッ!

 バタンッ!


「ルリ! 迎えにきたよ」

「ハルぅぅぅ、うわぁぁぁん!」


 ルリは停車したクルマから飛び出してハルと抱き合う。

 涙で顔がグシャグシャだ。


「ハル……私と一緒だと、ハルに迷惑が……」

「なっ、誰がそんなことを!」

「だってだって……」

「俺がルリを嫌いになるわけないだろ! 迷惑なんて思ってないから!」

「でも……もしかしたら将来……」

「俺はルリが大好きなんだ! ずっと一緒にいたい! あの時言っただろ! オレはずっと一緒だって! 絶対に離れないって!」


 ルリの心に、あの時の約束が甦る。

 あの雨の日――――

 あの橋の下で――――

 泥だらけで抱き合って誓い合った日のことを――――



「そうだ、あの時ハルは約束してくれたんだ……ずっと一緒だって……」


 どうして私は疑ってしまったのだろう……

 ハルを信じたい……信じる!


 ルリは春近と抱き合い、肌と肌の境界線が無くなるのではないかと思うくらい強く密着した。

 黒百合は、それを『やれやれ』と言った感じの顔をして眺めている。



「おい、何だ君は? 失礼だろ!」

 大津が車内から春近に怒鳴る。


「は? 失礼? 失礼なのはどっちだよ!」


 春近は言い返した。ルリを泣かせたのは許せない。


「大切なルリを泣かせたオマエは許さん!」

「何を言っているか! 私は公共の正義の為にだな!」

「何が正義だ! 女の子に酷い言葉を投げつけるのが正義のはずがねぇだろ!」

「黙らんか! 私は陰陽庁としての重要な責務があるのだ!」


 ガシッ!

 春近が大津の胸倉を掴んだ。


「大好きな女の子を酷い言葉で傷つけられて、黙ってられるわけねーだろが! このタコ!」

「タコとは何だ失礼な!」

「失礼なのはどっちだアホ!」

「ああ、アホと言ったな! 貴様ぁ!」

「うるせぇ! 謝れ! オッサン!」


 春近と大津の口喧嘩は留まる所を知らない。


「だから、私は正義の為に楽園計画を中止させ脅威を排除させようとだな!」

「なっ……なんだと」


 コイツが反対派のボスなのか?

 どうする? どうしたらいい?

 ここでコイツを殴ったら、より立場が悪くなる。

 しかし、このままでは更に反対派が勢いづくだろ。

 クソッ!


 春近は殴りたい衝動を抑えていた。



「ハル、ちょっと退いてね。あと、黒百合ちゃん、ハルの目と耳を塞いでて」

「分かった。任せろ。ふんす!」

「えっ、何?」


 黒百合が春近の顔を自分の胸に押し当てて強く抱きしめる。

 そして、両手で春近の耳を塞いだ。


「んんっー、んんっー!」

 春近は黒百合の胸で窒息しそうになる。



「おい、何をする気だ? やめろ、近寄るな!」


 ルリが車に乗り込み、大津に近付く。

「本当ならぶっ飛ばしたいけど、これだけで許してあげる」


 ルリが呪力を発動させた――――


 ――――――――――――




 春近はルリと手を繋いで街の通りを歩いていた。黒百合はバイクで先に帰して、二人で歩いて駅に向かっているのだ。



 ぎゅっ!


 強く手を繋ぎ二人は見つめ合う。

 繋がっているのは手だけではなく、心まで強く繋がっている気がした。


「ルリ、間に合って良かった。ルリが何処か遠くに行っちゃう気がしたんだ」


「ハル……私は、私の居場所は何処にも無いってずっと思ってたの。でも、ハルが私に居場所をくれたんだよ。ハルがいたから私は……」


「何処にも行くなよルリ。オレはずっと一緒にいたい。大好きだから」


「ハル、嬉しい……。私もハルが大好き」


 泣いていたルリの顔がほころび笑顔になる。


「あはは」

「ふふふっ」


 二人は恋人繋ぎのまま歩き続けた。


「そういえばルリ、あの人は帰しちゃって大丈夫かな?」


「もう大丈夫だよ。あのオッサン、私の呪力を警戒してあの変なバトルスーツを着ていたみたいだけど、あんなオモチャで私の呪力が防げるわけないよね」


「なるほど、記憶を……。てか、あのオッサン何をしようとしたんだ。やっぱりアホかな?」


「かもね、あははっ」



 ルリは少しだけ呪力を使って大津の記憶を書き換えた。

 楽園計画反対派のところを容認派に、今日のトラブルを無かったことにし説得され容認派に回った記憶に。

 ついでに運転手の記憶も一緒に。


 このルリの呪力は、初めて春近と会った時に使ったことで、その後ろめたさから封印していた。しかし、今回は余りにもあの大津審議官が面倒くさかったので使うことにしたのだ。



「ハルぅ、あんなオッサンがどうでもいいから、今夜は一緒に寝よ?」


 熱い瞳のルリが春近の顔を覗き込む。


「う、うん……そうだね。一緒に」

「いいよね……私たち」

「うん……」


 二人の間に暗黙の合意のようなものが交わされ、学園までの道のりを上気したまま歩いていた。


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