第十六話 超兵器童子切
寂れた裏庭に奇声とも怒号ともとれる声が轟く。
倒れていたはずの四天王筆頭渡辺豪が立ち上がったのだった。
春近は倒れている他の三人を見て理解した。
本当に一人で倒しちゃったんだ――と。
一方、ルリは、すこぶる不機嫌な顔をして渡辺豪を睨んでいた。心の中で不満が爆発しているのだ。
(なんで邪魔してんのよ! ここからラブラブちゅっちゅな展開になるはずだったのに!)
そんな恋愛モードになっているルリとは対照的に、春近が前に出てルリを庇う。
「先輩! もうやめてください! 勝負はついたはずです!」
「まだだ! このまま負けるわけにはいかない!」
渡辺豪は日本刀を抜いた。
伝説の鬼切――と思いきや、本物は博物館だか神社に保存されているので、彼が持っているのは支給品の普通の刀だろう。
その刀を豪は高く振り上げた。
こちらに向かって来るのかと春近が身構えていると、その刃先を豪は自身の脚に突き刺した。
グサッ!
「「えぇええええええ!」」
予想外の展開に春近とルリは驚く。
しかし、豪は大真面目だ。
「ぐぉぉ! 俺は幻術になどには負けぬ!」
どうやら、少年漫画にありがちな、敵の幻術にかかった主人公が自分を刺して正気に戻るという『おやくそく』をやったらしい。
やはり、彼は中二病なのかもしれない。
しかし、現実に自分を刺せば大ダメージだ。
豪は自滅し、その場に崩れ落ちた。
「ふ、不覚!」
ぴゅーっ!
刺した脚から血が滝のように流れている。完全に重症だ。
「ちょっと、先輩! 大丈夫ですか! 病院! 救急車!」
春近はパニックになる。
アニメや漫画ではありがちな設定だが、現実に脚を突き刺すなんてありえない。
ズシャァアアアアアア!
しかし、事態は更に斜め上の様相を呈した。そこに新たな乱入者が現れたのだ。
颯爽と登場したのは意味不明な恰好のコスプレ美少女だった。
それは魔法少女? 変身ヒロイン? いや、それは栞子だ。
「源頼光栞子推参!!」
その栞子だが、全身タイツ、いやバトルスーツのような変な恰好をしている。
「この、汎用対妖魔決戦天衣童子切カルマMarkⅡを纏いし我に、いかなる呪力も効かぬ!」
栞子はキメ台詞を放つ!
ノリノリだ。いや、ヤケクソと言うべきか。
解説:汎用対妖魔決戦天衣童子切カルマMarkⅡは、超展性特殊素材により極薄でありながら如何なる刃物を通さず、そしてその表面にはあらゆる呪力を無効化する解呪魔法が書き込んであるのだ。
「えっ、ええっ、えええ……」
春近は、どこからツッコんで良いのか分からず呆然としていた。
「何それ……露出狂……?」
ルリは素朴な疑問を投げつけた。意外と容赦がない。
それもそのはず。栞子の纏っているバトルスーツは、大事な所こそギリギリ隠れてはいるが、半透明のスケスケ素材でほぼ裸のような恰好なのだ。
特にお尻は丸見え状態だった。
二人が目のやり場に困っていると、栞子の表情がどんどん怪しくなってゆく。
「うっ、ううっ……うわああああああん! もうイヤぁぁぁぁぁ!」
突然、栞子が泣き出した。
「私が弱いから役に立たないから、変なバトルスーツを作るし……。四天王の皆には気を使われて作戦から外されるし……。せっかく更衣室で着替えたのに、恥ずかしくて人に見つからないように来たら終わってるし……。なんでこうなるのおぉぉぉぉぉ!」
「どうしよコレ……」
ルリがヘタりこんだ栞子を指さして困惑している。
「ど、どうせわたくしは……源氏の棟梁なんて器じゃないです……。御祖父様も本当は家督を継ぐ男児が欲しかったみたいですし……。わたくしは何の役にも立たないのですわ……。もうっ……えぐっ……えぐっ……」
栞子の目からは次から次へと大粒の涙が零れてくる。
普段の凛とした御令嬢の栞子からは、想像もできないような姿だ。もう子供のようにギャン泣きしている。
この収拾がつかない事態に、春近は冷静な一言を発した。
「と、とりあえず、渡辺先輩が出血多量で限界みたいなので、早く病院に連れて行った方が……」
滅茶苦茶な現状を何とかしようと、春近は現実的な提案をした。




