第百五十四話 島の説明と禁止事項
ゴールデンウィークが近付いた四月下旬、放課後の空き教室に全員が集まった。
緑が島の視察報告をする為である。
本来なら視察旅行から戻ってすぐやるべきだったのだが、夏海の入学で色々あり遅くなってしまったのだ。
春近とアリスが議長席に座り、他のメンバーは適当な椅子に座っていた。
「今日集まってもらったのは、視察旅行の報告と島での生活の件についてです」
アリスが第一声を上げると、春近のそれに続いた。
「本来なら、新学期早々に報告するべきだったのに、妹の件で色々あって遅くなってごめん」
「夏海ちゃんの件だけじゃねーぞ。ハルが栞子にエロいことしまくってたり、布団と初体験してたからだろ」
すかさず咲がツッコミを入れる。
「おい咲、そのネタはやめてくれ」
「やめねーよ、面白いし。にししっ」
「この彼女ドSなんですけどー」
咲は完全にハルにベタ惚れなのだが、今でもたまにスイッチが入り嗜虐的な表情で攻めまくってきたりする。
ハルも、そんなSっぽい咲が好きなので、傍から見ているとイチャイチャしているようにしか見えなかった。
「ほら、早く進めろよぉ、ハルっ」
「はいはい」
説明の前に、当たり前のように会議に参加している栞子を見て、春近が疑問を投げかける。
陰陽庁の話では、鬼の少女12人と春近という話だったはずである。
「あの、説明の前に素朴な疑問なのだけど、栞子さんって緑ヶ島に移住する気なの?」
「旦那様! もしかして、わたくしだけ置いて行くつもりですか?」
「いや、そうじゃないけど、移住するのは鬼と天狗の力の転生者に決まっているし。栞子さんはお嬢様だし家の事とか色々有りそうだから……」
「わたくし、旦那様の激しく淫猥で執拗で容赦のない鬼畜調教を受けてから、骨の髄まで奴隷として旦那様の命令に従うよう躾けられてしまいました。もう、一生何処にでも付いて行きますわ」
「ちょっと、栞子さん! なに言ってんの!」
周囲を見回すと、凄い嫉妬の炎が彼方此方から立ち上がっている。
「で、でも、栞子さんの御祖父様が許してくれるとは思えないけど……」
「そんなの知りません。わたしくは、普段は気弱なのにベッドの中だけ最強の旦那様に、何度も何度も連続絶頂させられたあの日。許しを乞うても強制的に精も根も尽き果てるまで〇〇され続けベッドを〇らしたあの日から、わたくしは永遠に旦那様に尽くすと決めたのです!」
「わーわー! 栞子さん、言い方ぁああ!」
栞子の凛とした美しい顔からは想像も出来ないような卑猥な言葉が次々と飛び出し、聞いているルリたちが嫉妬で爆発寸前になってしまう。
「はいはい、そういう話は後にして、本題に入りますです」
話が脱線しそうになった空気を、アリスが本題に引き戻した。
視察旅行ではエッチな気持ちを抑えられず、春近と一緒にお風呂でエチエチやベッドでエチエチしまくったのだが、そんな素振りは微塵も見せず涼しい顔をしているのはさすがだ。
体は小っちゃいけど一番大人なのだ。
「これが緑ヶ島の全容で、この辺りに我々の居住区が――」
何年か前のリゾート開発時に作られて大量に余っていたパンフレットを島で貰ってきており、それを皆に配って島の地形や風景や施設などを説明する。
さすがアリスだ。
「すごい綺麗な島。行ってみたい!」
「これは良いわね。陰陽庁からは南の楽園って聞いてたけど、もし嘘だったら絶対許さないって思ってたのよね」
ルリや渚たちがパンフレットの写真を見て盛り上がっている。
陰陽庁もルリたちを、わざわざ怒らせるようなことはしないだろう。
クーデターや殺生石の件では、あれだけ凄い力を見せつけているのだから。
九州では複数人に夜極大攻撃で山を吹き飛ばしたくらいだ。
表向きには火山の噴火ということなのだが。
だた、一つ懸念がある……
今回の楽園計画も、ルリたちの強力な呪力を見せつけられ、恐れた政府や陰陽庁が都心からなるべく遠くに移住させたいから計画されたようなものなのだ。
クーデターの件でも分かるように、陰陽庁も一枚岩ではなく反対意見の者も多いだろう。もしかしたら計画に反対して強硬手段に出たり、更には排除のような攻撃に出てくる者がいるのかもしれない。
春近は強く誓う。
もし、彼女たちに危害を加えるようなことをして来るのなら、オレは全力で戦ってでも阻止しないと――
皆オレの大切な彼女なんだ。
他の人から見たら最低のハーレム野郎に見えるのかもしれないけど、オレは皆に幸せになって欲しいし誰一人失いたくない。
普段はヘタレなオレだけど……いざとなったら戦ってでも守りたいんだ!
何事もなく、オレの考え過ぎなら良いのだけど――――
アリスの話は、島の地理から歴史や伝承の話に入った。
「島の老人が言っていたのです……」
春近も聞いた高齢女性の伝承の話だ――――
桃太郎異伝――――
通常の桃太郎は、正義の味方が悪い鬼をやっつける為に鬼ヶ島に向かう話だ。
しかし、あの島に伝わる伝承では、都を追われ住む場所の無くなった鬼たちが鬼ヶ島に辿り着く物語である。島の住民と協力して幸せに暮らしていたが、攻めて来た敵との戦闘から住民を巻き込まないよう、悪名を被って出て行く話だった。
現代でも鬼は漫画やアニメでも悪者に描かれることが多い。
確かに悪いことをして恐れられた鬼も多かったのだろう。だが、きっと親切で良い鬼もいたのだと信じたい。
春近はルリたちの顔を見ながら、そう感慨に耽った。
「最後に島でのルールです」
「ん?」
アリスが打ちあわせに無い話を始めた。
ルールの話は決めてなかったが、アリスは考えがあるのだろう。
「これは、春近の健康と身の安全を考えて、わたしが独断と偏見と独裁で勝手に決めましたです」
1、春近の部屋に入るには許可を得ること。
2、無理やり襲うのは禁止。
3、エッチは順番制。
4、無暗に物や建物を破壊しない。
5、私利私欲で春近やその他の人に呪力を使わない。
アリスが話し終わると、会場のあちこちから抗議のシュプレヒコールが上がる。
「横暴だ!」
「独裁禁止!」
「エッチさせろー!」
「「「反対! 反対! 反対!」」」
「「「エッチさせろ! エッチさせろ!」」」
まるで独裁者アリスの声明に反対する民衆の図式だが、内容はエッチしたいだけである。
「無理やり襲わなかったら、どうやってエッチするのよ!」
渚の魂の叫びが轟く。
「ちょっと渚様! それしか方法が無いんですか」
「強引に襲って怯える春近の顔を見るのが良いのよ!」
「変態すぎるよ!」
一部のマニアックな性癖はおいておき、アリスが高らかに宣言する。
「ダメです! 法の上にわたしが存在し、全ての法はわたしの掌握下にあります!」
何処かの独裁者みたいだ。
「と、いうのは冗談ですが……」
冗談なのかよっ! アリスの冗談は解りづらいよ!
本気で島の独裁者になるのかと思っちまったよ!
「ある程度は融通を利かせますが、基本的には守ってもらうつもりです。言っておきますが、恋人間でも無理やりするのはDVになるのですよ」
「うっ、それはそうだけどぉ……」
「そんなの知ってるわよ」
「まあ、そうなるよな」
アリスの熱弁に、ルリや渚など反対していた女子も渋々納得して静かになる。
「アリス、ありがとう。オレもルール作りは必要だと思ってたんだよ」
春近がアリスに、そっと耳打ちした。
「ま、まあ、これは自分への戒めもあるのですが……(ぼそっ)」
「えっ?」
「わたしも視察旅行で、皆と同じようにエッチで暴走するのを自覚しましたので」
「そ、そうなんだ……」
こうして島でのルールが決定した。
無秩序にエチエチしては春近の体が持たない。ただ、アリスが暴走しても怖くはなさそうだが。




