第百五十二話 初体験?
渚がスマホで何処かにメッセージを送りだした。
ピピピピピ――――
「は? えっ、何をしてるの?」
「春近のお望み通りにしてあげるって言ってるのよ」
渚が不敵な笑みを浮かべていると、遠くから廊下を走る足音が聞こえてきた。
ドタドタドタドタ――――
ドカァァァァァン!
豪快な足音と勢いよくドアを開ける音とで、誰が駆け込んで来たのか一瞬で理解できた。
「ハル、無事なの!?」
ルリが血相を変えて渚の部屋に飛び込んできたのだ。
「えっ、何で? どうしてこうなった?」
まさかの展開に動揺する春近が渚を見た。
「ふふっ、『春近の童貞は、あたしが頂いた』ってメールしてやったのよ!」
いただきましたとばかりに、渚が赤い舌をペロッと出して微笑む。相変わらず怖いのにお茶目な女王だ。
そんな渚とは正反対に、ルリの方は慌てて春近の体を確認しようとベルトに手をかけた。
「ハル……本当に童貞奪われちゃったの?」
「う、奪われてないから。嘘だから」
「ホント?」
「ホントホント。何もないから」
「よ、良かったぁ~ハルのち〇〇んが無事だった~」
「いや、ち〇……って」
ルリの不安そうな顔が、パアッと明るくなる。
年頃の娘がチ〇〇ンとか言うのはどうなのだろうか。
「ちょっと、どういうことなの!?」
ルリの怒りが渚に向かうが、渚は何も悪びれること無く話し出した。
「春近の初めての相手が誰かって問題よ。つまり、こういうコトでしょ。誰かが先に春近とエッチすると、他の誰かがショックを受けると。あたしも春近が先に他の女としちゃったらショックだし」
「それは、そうだけど……」
ルリも気にしていたことだけに、渚に話しに頷いた。
「つまり、ここは誰かが初めてじゃなくて、あたしと酒吞瑠璃が一緒に搾り取って、初めてを曖昧にしてしまえば良いのよ」
「それだっ!」
「それねっ!」
普段から対立し合っている二人が奇妙な同調をした。
「いやいやいや、それはおかしいでしょ! 何が『それだっ!』だよ? 仲良しか!」
すかさず春近がツッコんだ。
「春近が悪いのよ、いつまでも曖昧にして焦らしてばかりで。もう、こっちは色々と我慢の限界だっての!」
「そうだよ、ハル! もう我慢の限界なの!」
「気が合うじゃない酒吞瑠璃!」
「当然だよ、渚ちゃん!」
ガシッ!
変なジェスチャーで腕を組み合う二人。
「何でいつもケンカばかりしているのに、エッチなことになると同調しちゃうんだよ!? てか、何で渚様ってルリのことをフルネームで呼ぶの?」
「今更それ? 何か最初にフルネームで呼んで定着しちゃったのよ。最初は気に食わない女だと思っていたけど、今はべつに嫌いじゃないわよ」
黄金の巻き髪を手で払いながら渚が言う。少しだけ照れた顔が可愛かった。
「私も一緒だよ。最初はハルと変態プレイして私に見せつけたのを怒ってたけど、今はべつに渚ちゃんのことは嫌いじゃないし」
ルリも少し頬を染めながら話す。照れくさいのだろう。
「酒吞瑠璃……いや、ルリ! ここは共同戦線で春近を搾り取りましょ!」
「うん、渚ちゃん! やっちゃおう!」
酒吞童子と大嶽丸、伝説的最強の鬼王二人が、時代を超え奇跡の和解をした――――
「ちょ、ちょっと待って!」
「ハル、もう覚悟を決めて!」
「春近、もう逃げられないわよ!」
「話を聞いてくれ。オレが皆に手を出さないのは大切に思っているからなんだ。オレだって男だから、エッチには興味があるし、そりゃやりたいに決まってるさ。でも、皆を愛しているからこそ、傷つけたくないし大事にしたいんだ」
「ハル……」
「春近……」
「分かってくれたのか……」
春近を見つめる二人の瞳が熱を持つ。
「「でも」」
「えっ?」
「それは出会っていきなりエッチするのはあれだけど、付き合ってだいぶ経つのにエッチしたがらのいのはおかしい! 断固抗議する! エッチ! エッチ!」
「春近の優しさは理解したわ。でも、いつまでもぐずぐずしているのよ! それって臆病なだけでしょ! 男ならあたしを押し倒すくらいの勇気を見せなさいよね」
ルリと渚の欲求不満が爆発した。というか、渚は押し倒されたいらしい。
「ううっ……良い話で終わりそうだったのに無理だったみたいだ……。確かにオレが異性関係にヘタレなところはあるのだけど……」
「春近みたいな童貞でオタクな人って、女性を神聖視し過ぎていたり怖がっていて、なかなか手を出せない人が多いって聞いたわね」
渚がオタク男性の話題を振る。
「渚様、それ何処情報ですか?」
「杏子が言ってたわよ」
「うおぉぉぉ! 杏子、渚様に余計な情報を与えないでくれ」
目を光らせた最強エッチ女子二人が春近に迫る。正直、このタッグは世界最強かもしれない。
「もう諦めなさい! 全部搾り取ってスッキリさせてあげるわよ!」
「ハル、もう我慢できないよ。ここはベッドだし、アリスちゃんが注意したようなお外じゃないからOKだよね」
二人に両側からガッチリと掴まれ、完全に逃げ場が無くなってしまう。
そのままベッドに押し倒され、二人に手足を絡まれて完全にロックされる。
今まで何とか逃げてきた春近だが、もう完全に逃げられない状態になってしまった。
一人でも全く太刀打ち出来ないのに、二人同時だなんて完全に抵抗不可能だろう。
ああ、本当にさよならドーテーデイズ――
「うううっん、ハルぅ♡ だいしゅき~♡ ちゅっ♡」
「ふふっ♡ 春近ったら、怯えちゃって可愛いわね♡ ぺろっ♡」
二人が両側から首筋や耳をチュパチュパペロペロと舐めまくっている。
舌をドリルのように窄めて、耳の穴に突撃したりとやりたい放題だ。
「んあああぁ! むはっ、んっ、んんん~」
渚女王のキスで、甘い毒のような快楽物質が春近の細胞の中にまで入り込むような感覚になる。反対側からは存在自体が妖艶で淫靡なサキュバスの化身のようなルリから恋愛物質を血管内にまで注入されているような感覚だ。
体の中で二人のヒロイン的物質が混ざり合い、人の知りうる快楽の限界を遥かに超越したような前人未踏の超快感となり、春近の意識は十万億土から三千世界まで飛ばされてしまう。
まさに異世界へ転生でもされる勢いである。
「キスだけなのにスゴぃいいいいいいぃーっ!」
「ハル♡ ハル♡ ハル♡ ハル♡ ハル♡ ハル♡ むちゅっ♡ ちゅっ♡ ちゅ~♡」
「春近♡ 春近♡ 春近♡ 春近♡ 春近♡ 春近♡ あむっ♡ ちゅぱっ♡ れろっ♡」
極度の興奮状態の二人は、両側からキスしまくったり、体を擦りつけたり、あちこち撫でまくったりと止まらない。
二人の手が伸びる――――
※諸事情により自主規制
「んんんっ~ん、ハルぅ~」
「春近ぁぁ~んあぁぁ~」
「もう、ダメだ……限界だ……」
Five,Four,Three,Two,One, Booster Ignition and Liftoff!
チュドォォォォォォォォォォォォォン!!!!!!
「ううっ、うううっ、なんてこった………………最悪だ…………」
茫然自失の春近が呟く。
「あの、ハル? 元気出して」
「春近……悪かったわよ。もう機嫌直して」
超絶積極的な美少女二人に迫られた春近は、まだ何もしていないのに勝手に自爆してしまったのだ。
これは恥ずかしい。
「ああ……これがオレの初体験だなんて恥ずかし過ぎる……」
「でもでも、初めてが曖昧になったから、これで一件落着みたいな?」
「そ、そうね、これで争いのネタが無くなって良かったじゃない」
「うううううう……しょぼーん……」
「だからゴメンね」
「謝ってるでしょ!」
漫画やビデオのような、カッコいい大人の男みたいにキメたいものだが、ちょっと恥ずかしいほろ苦デビューである。
まあ、誰しも最初はこんなもんかもしれないが。
「ああ、気持ち良かったんだけど……気持は良かったんだよ……。でも……」
「もう! あたしたちが凄すぎただけで、春近は悪くないのだからしょがないでしょ!」
「そうそう、ハルは悪くないよ。ほらほら、ハルぅ、おっぱいでちゅよ~」
「やっぱり何か子ども扱いされている気がする……」
「そんなことないって、ハル。おっぱいに年齢は関係無いんだよ」
「そうね、意外と地位も名誉もある社長とかでも、赤ちゃん言葉でおっぱいって人が多いって聞いたわよ」
再び変なウンチクを言う渚だ。
「それ何処情報ですか? 杏子情報ですか?」
「よく分かったわね」
「杏子ぉおお! 渚様に変な知識を伝授すんなぁああ!」
そんなこんなで一件落着かと思いきや、渚がシーツを「すんすん」と嗅ぎ始めた。
「それにしても、あたしのシーツや布団に春近の濃厚な臭いがついちゃったじゃない」
「は、早く洗って下さいよ」
「今日は洗わずに、春近の臭いと一緒に寝ようかしら?」
「それはちょっと止めてくれ……」
「ズルい! 私も一緒に寝る!」
こうして、仲が悪かったはずのルリと渚が一つの布団で眠ることになった。やっぱり仲良しか。
いつも対立している二人だが、並んで眠る絵面が最高にコミカルで、春近は笑いを堪えられなかった。




