しんぴのほのう
24 神秘の炎
ネビュラ、もといアルスと学園へ転移出来る施設へと雷の街を歩いていく
二人で転移して施設と寮の間の森で立ち止まる
アルス
それがネビュラの本当の名前
白衣の女性はアルスの目を見て名前を決めた
神秘的で燃えるような目は
アルカナムブレイズ
直訳では神秘、炎な訳だが
その女性は魔法世界の人だ
…なぜ知っていた?
「ネビュラがいいな」
腕に抱きついてきて甘ったるい声でアルスが言う
誰だこの子、くっそかわいい
「俺はアルスの方が好きだけど」
アルカナムブレイズからとってアルスか……白衣のひとセンスあるな…
「男の子みたいな名前…って思ってたけど、あなたが言うなら
…でも、チェリーが本名を教えてくれないもん」
秘密を暴露しろ
その命令にスラスラと答えたのは億万長者なことや、ヘラとの関係、本名はチェリーでは無いこと
チェリーの意味を答えた
まぁどーてーな事だな
そんなところだ
だがしかし本名はこの名前に決めた時に死ぬまで持っていくと決めている
ついでにダチのあいつの好きな子も持っていくことになっている
だから死ぬまで言わないとしか答えていない
「だからネビュラって呼んで?私はあなたの彼女だから……れ?」
「俺は…」
…恋人の関係は望んでない
彼女が欲しくない訳では無いが
ヘラ周りで男女の関係で進展でもないと…
ちがうな、最悪なのが俺が出来た彼女にぞっこんでヘラをないがしろにすることだ
その想像をするだけで何回か死ねる
「…いって、ない」
「…」
アルス…ネビュラが先程のやり取りを思い出したのか気がついたようだ
ここはしっかりと否定しなくてはならない
「まって」
口を開いた時にネビュラが静止をかけた
綺麗な目が潤んでいる
声が震えている
「…いいの、うん、あなたがヘラちゃんを大事にしてることは聞いてたから」
奴隷にする過程を秘密暴露でペラペラ喋った、ヘラさんや、以前の俺を殺しておくれい
「うん…それでも私はあなたが好き、これはあなたが告白してくれたからじゃない、あの時、あの月の下で言ってくれた時から、あなたが好きだったの
…命令してないのにあんなこと言って…本当はすごく嬉しかった」
「……そうか」
「…うん」
ネビュラを抱きしめる
「…ネビュラは可愛いなぁ」
「…ぐす、今だけでも好きって言うべきよ」
「…」
ネビュラについて流れてきてしまい、それで境遇を知って、知った気になって
考えれば考えるほど何とかしてあげたく思って
同時に惹かれていった
好き、すき?…あぁ、好きだ、好きだよ
それでも言葉にはしない
「この好きには愛が詰まってないから」
「ばか」
二人で涙を流しながら、抱きしめあった
…そこに愛は、片方が欠けていた
◇
「おかえり、二人とも」
日が暮れ始め、寮の灯りが見え始めたところ
道が舗装された脇の木からヘラが出てきた
「…ヘラ」
「どうしてここに?」
「なんか、帰ってくる気がしたから」
周りを見るが他に人影はいない
「ラッセルならいないよ、明日に帰ってくるって言ってたから、部屋を片付けてる」
ネビュラは最初は雷の街で泊まる予定だった、だから夜に戻る予定はなかった
なのに、ヘラは待ち伏せていた
…何故だろうか、奴隷契約とかに主人の気持ちが分かるとかあるのだろうか
「チェリー達に負けた時にね、強くならないとって思ったの
…やっぱり、強くないと何も守れないし、自分を救えるのは自分だけだもんね」
少し様子がおかしく思える
虚ろさと乾いた笑み
「…ネビュラ、魔法使った?」
支配系のやつ
「しつれいな……あれは元からそういうのってことでしょ」
ネビュラは後ろ手にグローブに魔力を通していた
戦闘も辞さないということだろう
それだけの雰囲気がヘラにはある
「だから、頑張ったの、ほら、見てこれ」
ヘラの手首、リストバンドにぶら下がるようになっている虹色のランタン、ナイトグロウからモヤが二つ現れた
「ふふ、さっきね、ようやくモヤの数を増やせるようになって…ひとつなら簡単な操作もできるようになったんだ」
言葉では成果を報告する子供のようだが
その目は笑ってない
じっと、睨むような鋭さでネビュラを見ている
ネビュラの前に、ヘラから姿を隠すように両手を広げて立つ
「…チェリー、なんの真似?」
「ヘラこそ、何しようとした?」
「何って、何も?もうやり終わったし」
「…は?」
後ろから浅い呼吸が聞こえる
振り返るとネビュラが背中から
虹色の棘に刺されていた
「なっ、はっ?」
思考が追いつかない
手当て、とにかく手当をしないと
しかし血は出ていない
貫通しているがモヤは…そう、召喚獣が通った時のように貫いている
モヤが霧散して、ネビュラの体に穴が空いている、ということにはなっていなかった
「泥棒猫にちょっとしたおしおき、大丈夫、怪我なんかさせないよ…ただ、私に一言欲しかったかなぁ」
ヘラの言っていることはわからなかった
ネビュラには分かったのだろうか
「…チェリー」
「ネビュラ、大丈夫か?」
ネビュラは苦しそうに胸を、貫いていた部分を抑えている
「…大丈夫、もう、大丈夫、今の私なら…大丈夫」
そういうとグローブから出たブラックホールのような穴に落ちるように入っていった
紫の月の世界へ行ったのだろう
穴はすぐに消えてしまった
「…その世界、いいよねぇ私もモノリスってやつ欲しいなぁ」
ヘラの口調は先程のような様子ではなくいつもの調子に戻っていた
「…ヘラ」
「なぁに?チェリー」
頭がこんがらがるようだ
「…なんでネビュラを攻撃した?」
怪我をしてない、してないか?
仮にスターダストドラゴンのような痛みなら外傷はなくとも怪我と言える痛さだろう
「…どうして怒ってるの?わたしは…チェリーのために……だって、違うの…」
ヘラを正面から見ると目が潤んで後ずさる
「ごめん、なさい」
「ヘラっ!まっ…くっ」
周りは暗く、すぐに闇の向こうへと消えていった
虹色のモヤが足に引っかかり一瞬立ち止まる
追いかけるために走り出した
あっま、最初あっま、甘すぎて砂糖吐くわ、しかも空回りだ、なーにが片方欠けとるじゃ、やかましか
はい、ここら辺から迷走し始めてるんですね、なるほど…