自重でその実を落としてしまった
23 自重で実を落としてしまった
「ねぇチェリー、あれも欲しいわ」
「ネックレス?ネビュラにはこっちの指輪の方が似合わないか?」
「うーん、嬉しいな、だけど武器と相性が悪いの」
「あぁ、そうか、ネビュラはグローブの形だったな…ええ、これください」
…ネビュラと雷の街に来ていた
『ネビュラの魔法は初めっから効いていない、いや、効きすぎていはいるのだが』
ネビュラが想定している状態にはなっていない
ネビュラと感覚や意識を共通してしまい、ネビュラについて知りすぎてしまった
彼女は酷く不安定で、表には出さないが狂っている…恐らく学園の上に立ちたい理由を叱れば心が折れるだろう
…
でも、もしかしたら
◇
「ねぇ、キスして、ほら、んー」
「はいはい、甘えん坊だな」
躊躇うことも無くネビュラの頬にキスする
…魔法は実際効いてるのだろう
断ろうとする気が起きないから…か?
いや、ネビュラは可愛い
見た目は綺麗系なのに中身は甘えん坊で、そのギャップは萌えて燃えるものがある
肯定しようとする度にヘラの顔がチラつくのだが、不思議と頭ん中でヘラとネビュラが押し合い圧し合いしてネビュラが絶対勝つ
あたま花畑になっちまったわ
「どうしたの?考え事?魔法切れた?」
「あぁ、いや、ネビュラが可愛いと思ってな、魔法も効果が薄くなり始めてる」
「もう、じゃあかけ直してあげる」
…効きすぎているからほんの少し薄くなっても誤差程度だが
嘘をついたり誤魔化そうとは思わない
「キスよりすごいことか?」
「もう、街中だよ?」
照れながらも路地裏に進んでいくネビュラ
えー、期待してたんだけどなぁー
……俺の頭の花畑は満開のようだ
躊躇う気がしない
はははー……黒歴史生産工場かな?
路地裏にはいり二人で見つめ合う
雰囲気あるなぁ
赤と黒が入り交じった宝石のような目は全てを飲み込むようで…
「おーおー、真っ昼間からおあついこって」
二人の邪魔をする…ボロボロのヤンキー…冒険者
かな?
「今いい所なんだ、邪魔しないでくれ」
きーす!きーす!…じゃなかった、魔法のかけ直しだった
首元触られるだけです、はい
「そのおんな…を、いや、やっぱいいわ、俺の好みじゃねぇ」
何故かたじろぐボロボロ冒険者
隣からの圧がすごい、嫌悪感が魔力に乗って出てくるようだ
たじろぐのもわからんでは無い
「あぁ?俺のネビュラが気に入らねえのか?」
ボロボロ冒険者にプラズマボールを投げる
「ほがぁ!?てめなに…ぁ、が!?」
男の前で放電したボールは男の膝をつかせた
「可愛いだろ?ほら、可愛いって言えよ」
「いでぇいでぇ!んだでめー、くるっでんのが!?」
「もう、チェリーそれくらいでいいよ」
腕を取られて路地裏のさらに奥へと進んでいく、角を曲がり
押されて
肩を押さえつけられて
首元を軽く握られる
わぁ、怒涛の展開
「なに勝手に動いてんの?」
ネビュラの目が怪しく光る
触れられている首元に魔力を感じる
首にナイフを当てられているようなものだ
「ネビュラがバカにされた気がしたからな」
「へぇ、ありがとう、で?なんで勝手に動けるの?」
今まで振る舞い方などは命令されたが
具体的に動いて欲しい時はそうやって命令されていた
「…」動けちゃったんだから仕方ない
「黙るのね、理由を言え、これは命令」
「動けちゃったんだから仕方ない」
ギリ…
首元に力を入れられる
…苦しい
「実は自由に動けるんじゃないの?」
「それは、ない…自分の意思は結構自由だが」
「騙してたの?」
「…言ってないだけで言えと言われなかった、それが騙すことになるのなら」
さらに力がはいる、いよいよ死ぬかもしれない
「それは騙しているの」
そうか、…まぁそうかもなあ
「そろそろ恋人ごっこも潮時か」
「えっ?」
ネビュラの腕を払い除ける
ネビュラの魔法は結局最後までどんなのかわからなかった
しかし支配系だとして、俺にはしっかり効いた、効きすぎるくらいには効いた
無自覚で行う息をすることすら命令されないとできないくらいには効いていた
だからこそ、維持する魔力がネビュラには足らずに、俺は維持魔力を使えばいつでも命令できる、という状態になっていた
甘やかされた時は命令されたがすぐ途切れ
ヘラとラッセルの時は空間の影響もあってか完全に支配されていた
そして途切れた時に、この子を救えないか考えてしまった
いま背中にしていた壁にネビュラと立ち位置を入れ替えて逆転する
バンッ
…まさか、壁ドンするとか現実か?
「ヒュ…」
ネビュラは怯えた目になる
これでは頼み事は聞いてくれないだろう
まずは敵意はないことを…
「お前が欲しい」
あ、ミスった
俺の基盤はヘラの学園生活だ
敵意がないことを伝えて
ネビュラがトップに立ちたい理由、友達が欲しいという願いを叶えて、ヘラの学園生活も豊かにする
『ヘラと友達になればいい』
その言葉を伝えようと思っていた
がコレだ、なぜだ、頭お花畑だったからか!?
どう軌道修正したものか考えるがどうにもアタマが回らない
目の前にこんな美少女がいて吐息もかかるような位置だ
やばいな壁ドン
ネビュラの怯えた目は驚愕、困惑
理解できないというような目をしたあと
顔が真っ赤になっていく
まるで湯気が出るように真っ赤になったあと
「わ、私も好き」
告白が成功してしまった
……???
告白が成功してしまった
◇
ネビュラは孤独だった
俺に流れてきたのはネビュラにとって印象強い過去
路地裏で宛もなく転がって死ぬのを待っていた時に白衣の女性に拾われたこと
その女性に衣食住を与えてもらい
元気になるクスリを飲んだこと
女性の知り合いのエルフの男から二つの魔法武器を貰ったこと
学園に入れてもらったが振る舞い方が分からず孤立してしまったこと
元ネビュラに授業で勝った時に周りからチヤホヤされて、強ければ友達が出来ると思ってしまったこと
正式にネビュラを倒したが…
その魔法、支配の魔法に恐れてさらに孤立してしまったこと
トップに経てば変わると思い、ラッセルに敗北したこと
ラッセルが気にかけてくれたことが嬉しくて執着していたこと
そしてラッセルは俺に敗れ、盗られたと思い
行動を起こした
流れてきた思いを振り返ればネビュラはただただ、友達が欲しかっただけだった
それさえあればよかった、それだけでよかった
ラッセルには唯一小さな関係がありながら、そのうえで警戒されていた
彼女は心の底から飢えていた
「帰ろうか…アルス」
「…う、うん」
サブタイトルが繋がってるやつがやりたいがために漢字を使いました
個人的にこの言葉、表現?すきなのです