未知との遭遇
プロローグ挿入します
4月10日。前日に高校の入学式を迎え、入学直後のテストが終わり、半ドンで帰宅した金曜日のおやつ時の出来事。
居間でせんべいをかじっていた私の元に、突如庭のあたりから轟音と衝撃が届けられた。思わずせんべいを取り落としてしまったが、ただ事ではない事態の前には些事だった。
「何事!」
急いで庭に向かえば、そこには。
「...ステッキ?」
先端に黄金色の星のオブジェクトが付いた、青と白をベースにした、「女児向けのおもちゃ」としか言い様のないステッキが。
半径2mほどのクレーターの中央に突き刺さっていた。
「ホントに何事なのさ...」
想像して欲しい。突然庭に、日曜朝の女の子向けアニメのキャラが持つステッキがクレーターの中心に突き刺さっていたらどうする?
この時の私の答えは
「寝るか」
現実逃避だった。
だって考えて欲しい。こんな状況を想像できる人間がこの世に何人いる?多分いないだろう。いたら精神病院をオススメしたい。
さて、そんなわけでこのできごとは白昼夢としてとりあえず無かったことにしてしまうのが最良かと思われた。
気持ちを切り替えて、クレーターに背を向けて歩き出した、その時だった。
「お待ち下さい」
背後から声をかけられた。聞いたことの無い、しかし良く通る声だった。はて誰だろうかと思って振り返ると。
ステッキが浮いていた。
思考が完全に停止した。
「......は?」
かろうじて絞り出せた言葉はそれだけだった。ウチの庭はそこそこ広い上に遮蔽物もほぼ無い。故にステッキに細工をして浮いているように見せかけるなんて芸当は不可能だろう。それこそ「本当にステッキが浮いている」ということさえなければ。
「...ははっ」
思わず乾いた笑みが漏れた。あまりのことに私のキャパシティは一瞬でオーバーした。どうしようもないのでとりあえずじっくりと目の前の不審物を観察する。
先端には星と翼を象ったオブジェクト、持ち手のグリップは青と白のストライプ、長さは50~60センチくらいだろうか。近所のみーちゃん(3歳、女の子)に与えたらとても喜びそうな形だった。
そんなふうにまじまじと眺めていると、
「ヤダもぉ...そんなに見つめられては...私、照れてしまいます」
「...は?」
先ほど聞いた声が、杖から聞こえてきた。最初は聞き間違いかと思った。次に体調不良の可能性に至った。最後に精神疾患を疑った。だけど、そんな私の考えを嘲笑うかのように。
「んん...もぉ、ご主人様ったら、私を視姦して楽しいですかぁ?」
凛とした声が、えらくアホみたいな言葉を紡いだ。生まれて初めて本気の殺意が湧いたが、それよりも、聞き捨てならない言葉があった。
「ご主人様って、何」
「え?ああ、それは今から説明いたします」
ステッキさん(仮称)はコホン、と咳払いを一つして、語りだした
「はじめまして、山田夜空様。私は『星杖ミーティアステッキ』でございます。とりあえずは杖子とお呼びください」
アホみたいな名前だった。星杖ミーティアステッキとかいう本名にも驚いたが杖子て。こいつは絶対犬にポチって付けるタイプの性格だろう。
「いや杖子て...」
「む、杖子はお気に召しませんでしたか?では杖美なり杖世なりこの豚野郎!なりなんなり好きなようにお呼びくださいませ」
このステッキの頭(?)のネジはだいぶぶっ飛んでいるようだ。
掴んでへし折りたい衝動に駆られるが、辛うじて踏みとどまった。
そんな私の葛藤をよそに、杖子は続ける。
「まあ名前は後に置いておくとしましょう。さて、夜空様。突然ですが右手の手の甲を上にしてお出しくださいませんでしょうか」
特に躊躇うことなく右手を手の甲を上にして前に出す。スーっと杖子が近づいてきて右手に触れた。
すると、突然、手の甲が金色に輝きだした。驚いて手を戻そうとしたが、がっちりと空間に固定されて動かなかった。
「ちょ、何これ!」
絶叫しながら杖子に問う。いかにも怪しげな現象を自分の身体で引き起こされてはたまらない。しかし、杖子は黙したまま。
結局それから3秒ほどして光は収まったが、手の甲に五芒星の紋様があった。何をしてくれたんだろうかこの杖は。
「ねぇ、何してくれてんの」
答えの内容によってはへし折ってから川に流そうと思って発した問い。
しかしその問いの答えを多分私は忘れることは無いだろう。
この日を境に私の人生が大きく変わったのだから。
「はい―――貴女は今から魔法少女です」
時間が、止まった。




