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エピローグB 過ぎ去りし季節 

エピローグB 過ぎ去りし季節



 本日二度目の光の中、リカルドは淀みない足取りでまっすぐ歩き続けていた。地球での出来事はすでに振り返り尽くした。彼の心はすでに、故郷と、自身の最後の時に向けられている。


 同じ真っ白な光の中でも、アストラの世界のような浮遊感は無い。進むべき方向も不思議と感じ取れた。彼の直感の正しさを裏付けるように、足元には見えない道が続いている。


 どこからか吹いてくる、青臭い風が頬を撫でた。出口が近いようだ。


 目の前に黄色い光が見えた。光は一歩進むごとに近づいてくる。リカルドが手を伸ばす。白銀の籠手に包まれた指先が光に触れようとしたその時、足の裏に伝わる感触が変わった。


 がさり、と藪を抜けた彼は、右手を伸ばしたまま目の前に広がる草原に唖然とした。


 空は果てしなく高く広く。足元には若葉色の雑草が一面に広がっている。遠く向こうの方には点々と丘が連なっている。丘や平地の表面を、雲の影がゆったりと流れている。


 テラリアには生息していないような、巨大な赤い鳥がぎゃあぎゃあと鳴きながら楽し気に空を飛ぶ。草原のそこかしこには、角が生えた狼のような生き物が群れを成して移動していたり、耳から翼を生やした兎のような生き物が地面の窪みから顔を覗かせている。


「オオサワギ鳥にホーンヘッドウルフ、それとワンダーラビット……か。俺は、帰ってきたのか……」


 藪から抜けたリカルドが振り返ると、そこには鬱蒼とした森が広がっていた。空に向かって伸びた木々は陽光を遮り、繁茂した藪は地面を覆い隠している。


 仄暗い闇が広がる森をじっと眺めていると、吸い込まれそうな不安感が襲い掛かる。


「夢、だったのか?」


 テラリアでの出来事が、まるで白昼夢のように朧げな記憶になっていた。縦に細長い奇妙な建物。複雑な工程で作られた食べ物の数々。動きやすさと防寒性能を両立した衣類。


 この世界では見たことも無いような物を、確かに見た記憶が彼の頭の中にはある。けれどそれが、現実にあったことなのか、リカルドは自信が持てなかった。


 なんとなく視線を落とし、女神の剣を見つめた。剣の柄の先端に、星型の模様が入った桃色のアクセサリーがぶら下がっている。


「夢なわけない、か」


 リカルドはアクセサリーと共に、剣を軽く撫でた。きらり、とアクセサリーは光を反射させる。


「帰ろうか。俺達の故郷へ」


 彼は踵を返し、獣たちが思うままに生きる平原を歩き始めた。


目指すは丘の稜線。そのまた向こう。足取りは軽い。けれど、心臓は重い。その重さに彼は、生きる喜びを感じている。



 いずれ死ぬからこそ人は懸命に生きようとする。終わりなき人生は生きる目的を奪い取る。目的無き人生に、道はない。




 けれど今の彼は違う。迫りくる死を前に、故郷に帰りたいと強く願っている。




 だから彼の足は前へと進む。力強く。懸命に。






 冬の終わりを告げる爽やかな風が吹く草原で、不死だった勇者は、最後の旅に出た----。



(了)


終わりです

次の作品を投稿するのはいつになるかなぁ

富士見L文庫の一次選考が七月発表なので、それに落ちてたらすぐ投稿できますが……

あと推敲段階の作品が一本と、現在進行形で書いている作品が一本

今書いているのはWEB投稿向けに書いているのでちょっと長いです

とはいっても12万~15万字くらいで一つの構成で、だいたい40万字くらいで完結予定

いまは五万字まで書いてあります

まぁでも文字数の制限がないWEB投稿用なので軽々オーバーする可能性もありますけどねw


今後のラインナップは以下の通りです


【リリス・アポカリプス】

主人公は科学誌の敏腕ルポライター。ある日上司からコンゴで発見された”黄金の果実の木”について現地取材に行くと、原住民のピグミー達の集落が壊滅。彼らはまるで一気に年老いてしまったかのようにミイラ化していた。

時を同じくしてもう一人の主人公である青年が母の葬式に出席していた。彼は実の妹と恋人になって以来、母とは疎遠になっていた。彼が植えた母の宝物の種からコンゴで発見された”黄金の果実の木”が芽吹く。

そして彼は職場である遺伝子研究所でその特異な木について調べると、新しい抗癌剤となる可能性を見出した。抗癌剤、それは妹の病を治す薬。

さっそく友人と共に新薬を開発して妹に投与するが、それは全て大いなる意志のもとに用意された”シナリオ”だった----。

自我が芽生えたプロテオバクテリア

進化したミトコンドリア

それら強大な力を持つ”新人類”に翻弄される主人公たち。

遺伝子学的サイコスリラーにしてSFミステリーの集大成、ここに開幕!


【アイムユアマスター・ユアマイマスター】

互いの命令には絶対服従!

炊事洗濯家事はもちろん、貴様が下僕なら足も舐めろコンチクショー!

死霊術師の少年が古びた洋館で吸血鬼の少女と出会った。

勘違いから敵対してしまった結果、少年は少女に血を吸われて下僕になり、少女は少年に魂を縛られ使役されることになる。

はじめは互いにいがみあう二人。けれど二人には、『孤独』という共通点があった……。

徐々に打ち解ける二人のもとに、死霊の集合体、死竜”アビス”が迫る。

これは多数派に負けない、負けたくない、個人の意思で生きることを決めたボーイ・ミーツ・ガールな物語。


【エンドロールは窓の向こう~え、異世界ってマルチエンディングなんですか?~】

現在執筆中でぇす

よくあるお話でぇす


いつ頃投稿できるかわかりませんぬ

というか上の二つは新人賞に応募してからならなので(応募中なので)投稿まで時間がかかるかもです


よしなに

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