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第一章 勝気な魔法少女は今日も平和に悪を滅ぼす - 3

 ☆ ☆ ☆


「女性の方に大人気! お肌に嬉しい豆腐サラダは別売りになりまーす! 私もよく食べますが、とっても美味しいですよー! ほら新人君も、もっと声張って張って!」

「はい! ブラックサーカス団印のお弁当はこちらでーす! 一食四百八十円になりまーす!」


 ペチ公像の傍で店を広げている弁当屋の屋台に先ほどまで人質だった人々が列を作って並んでいる。売り子は人質にゴム銃を向けた新人黒タイツと先輩黒タイツ。二人は今、団長の顔を模したロゴが入った黄色いエプロンを着て元気な声で集客している。


 屋台には『女性に大人気の豆腐サラダ! 一食三百円!』というチラシが張られており、チラシの隅に小さく『提供:桃塚豆腐店』と書かれている。


 スターライトは公園の外の歩道の縁石に座りながら、お弁当を売りさばいている黒タイツを遠巻きに眺めて深いため息をつく。


 つまらなそうに頬杖をついて項垂れる彼女の体に、大きな黒い影が被さった。気配に気づいて顔を上げると、そこには先ほどロボットの爆発に巻き込まれた団長が立っている。


 ところどころ焦げ跡が残っている服を着た団長は、頭にかぶっている二股に別れた帽子の先を揺らして両手を腰に当てにっと笑った。


「こんなところにいたのか。探したではないか我がライバルよ」

「あんた、毎度毎度よく平気ね。あんたにだけは手加減してるつもりはないんだけど」

「フハハ! この服は特殊な素材でできているからな! スターライト・バーストが直撃でもせんかぎり吾輩は死なん!」


 団長は丸々とした腹を撫で、真っ赤な付け鼻からふんす、と息を吐いた。白塗りの顔は今もメイクのせいで笑っているように見える。


「じゃあ今度は頭を狙うわね」

「待て。正義の味方が堂々と殺人予告をするんじゃない」

「まぁぶっちゃけマジカルステッキってガバガバな照準エイムだからどこに当たるかなんてわかんないんだけどね。雨の日とかだと屈折してちょっと曲がるし」

「吾輩、今日の仕事が終わったら宝くじを買おうと思う」

「いいんじゃない? どっちも当たるかもよ」

「貴様! 殺意の波動に目覚めすぎだぞ!」


 大声を張り上げた団長の後ろを、彼の顔を模した風船を握った子供たちが楽し気に走り去っていった。スターライトは視線で子供たちを追いかけ、再びうなだれた。 


「はぁ、なんで私の代の悪の組織があんたみたいな奴なのかしらね」

「むむ! 恐れをなしたかスターライト・ピンクよ! まあそれもやむをえまい。なんせ吾輩は偉大なる祖父の血と意志を受け継ぎし新世代の悪! あらゆる面において過去の悪の組織とはここが違うのだよここが! フワーハッハッハ!」


 団長は自分の頭を指でつつきながら豪快に笑った。彼のポジティブさに辟易し始めていたスターライトは眉間に縦皺を刻んで睨み上げる。


「違うわよ馬鹿! なんで無法者の悪党とか獰猛な魔獣じゃなくて、ちゃんと行政に届を出してるサラリーマンなのかってことよ!」


 ブラックサーカス団は役所に認められた正式な企業だ。主な事業はイベントの運営。また弁当の販売やラジオ、インターネットショッピングサイトまで運営している。


 世界征服を目指しているが、人質は公式ホームページのプレミアム会員の中からボランティアを募り、さらにイベント用の労災保険にまで加入している。


 今日の世界征服も、警察に道路使用許可等の届け出を申請しているため、犯罪ではない。


「吾輩たちの理念はユーモアで世界を掌握することだからな。そのためには世間に迷惑をかけるわけにはいかんのだ。それより、ほら」


 団長が黒い紙袋を差し出してきた。スターライトは不思議そうに紙袋を見つめた後、再び団長の顔を睨みつける。


「なによこれ」

「出演料だ。貴様も主催者側として日当が支払われる」

「いつも言ってるけどねぇ! 私はお金の為じゃなくて正義の味方として戦ってるの! こんなの受け取れるわけないじゃない!」

「親御さんの許可は頂いておるぞ? 未成年だからちゃんとご両親に契約書を送って押印してもらったのだ。吾輩自らな!」

「そういう問題じゃないの! いらないったらいらないの!」

「ふん。貴様こそ毎度毎度報酬を受け取らんとは……。給料未払いで労基署の監査にひっかかたどうするつもりなのだまったく」


 スターライトの言葉にぶつぶつと文句を言いつつも、団長は紙袋の中を漁り始めた。袋の中から、白い箱を一つ取り出し、スターライトに差し出した。


「ならせめて、これを受け取れ」

「いつもより袋が大きいなとは思ってたけど、今度はなによ?」

「先日、我々のグループ会社が新商品として開発したプリンの試作品だ。口に合えばよいのだが……」

「プリン!?」


 スターライトは途端に目を輝かせてひったくるように白い箱を受け取った。団長の笑っているような顔がさらに嬉しそうに歪み、メイクを施された口元が耳元まで吊り上がる。


「こっちの金はブラックサーカス団の金庫に保管する。必要になったらいつでも言うがいい」

「そんなの必要ありませんよーだ! べー!」


 可愛らしい舌を伸ばすスターライト。彼女はプリンの入った箱を宝物のように抱きしめる。


「それと、もう一つ言いたいことがある」

「もう帰りたいんだけど」

「いいから聞け、大事なことなのだ。……実はな」


 団長が話し始めたその時。スクランブル交差点に花火が打ちあがり、ブラックサーカス団恒例のパレードが始まった。トランペットやフルート、アコーディオンの騒がしくも愉快な音が辺りを満たす。使用許可をとっている道路の周辺では赤い誘導灯を持った黒タイツたちが車の通行を整理している。


 人々の賑わいも一層大きくなり、テレビ局のヘリコプターまで飛んできた。


「これでは落ち着いて話ができんな。今夜七時に電話する。予定を空けておけ」


 団長は踵を返して人ごみの中へ入ってしまった。


「なんなのよまったく……」


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