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第六章 激闘の裏側で - 6

 座席と共に上へと跳ね上がったリカルド。シートベルトをしていなかった彼は、空中に放り出された。やがて射出の勢いが重力に相殺され、自由落下を始めると、彼の隣に浮かんでいた椅子の背もたれからボン!と音が鳴り、髑髏マークが描かれた黒いパラシュートが開いた。ところがリカルドはパラシュートを置き去りにして落下していく。彼は体を大の字に開いて全身で風を受けとめた。


 赤茶けた大地がぐんぐん迫ってくる中、魔法陣から青白い光線が発射された。光線は眩い光を放ちながらアースイーターに向かっていく。当然、その一直線上にいるリカルドにも向かってくる。


 彼は死を覚悟し、光線を正面から迎え撃つように体制を変え、両腕で顔を庇った。轟音を響かせる光線は、あっという間にリカルドを飲み込んだ----。








 ところが来るはずの衝撃はいつまでたってもこない。直前まで鼓膜を破りそうな程鳴っていた轟音も、今はもう聞えない。リカルドは恐る恐る目を開けた。



 視界は真っ白だ。けれど白い何かに飲まれているわけではない。自分の手の平や体はくっきりと見て取れた。体は浮いている。浮いているだけで、落ちているという感覚はしない。





 なにもない真っ白な空間に、彼はいた。





――――ここは……どこだ?




 リカルドの声は、音にならなかった。ここには音を伝える物が存在しなかった。




――――ここは道理を超越した空間。いかなる無理もまかり通る虚無の箱庭。





 どこからか少女の声が聞えた。彼は辺りを見回して、その声が自分の頭の中に直接響いているのだと気づいた。





――――俺は死んだのか?



――――死んでません。私が、守ったから。



――――どうやって?



――――あなたを剣の中に招き入れました。でもここは、剣の中であって剣の中ではありません。この世界とも、アストラルとも、狭間の空間とも違う、虚無の空間。世界の理が違うから、外であり内でもあるテラリアが存在できるのです。



――――あんた、もしかして……。





 リカルドが言葉を続けようとしたその時、目の前の白い空間に黄色い光の渦が現れた。





――――さあ行ってください。でも寂しがらないでください。悲しまないでください。私はいつだってここにいます。私はいつでも、お兄様・・・と共にある。あなたが剣を振るい続ける限り、いつまでも。いつまでも。



――――待ってくれ! まだ話したいことがたくさんあるんだ。君の両親のことも聞きたいし、俺達のことも話したい!



――――残念ですが時間がありません。剣の中とはいえ、私がテラリアに留まると、再び心の闇が具現化してしまいます。だから、はやく。はやくアストラルへ帰ってください。私たちの……故郷ホームへ。





 リカルドの体が光の渦へと吸い込まれていく。彼は渦に入る直前に後ろを振り向いた。



 白で塗りつぶされた空間に、桃色のドレスを着た少女が一人。先端に星が取り付けられたステッキを片手に佇んでいる。


 一瞬、スターライトかと思ったリカルドだったが、彼女の緑色の瞳を見て、それは違うと理解した。


 彼女は呪われた双子の妹。恩師の愛娘。重い宿命を背負いし幼き魔法の天才にして、亡国の姫君……アストラ・ローバンヘルズ・オルスロット。




――――さようなら、私のお兄様。あなたの余生に、幸有らんことを。




 アストラは優し気に微笑みながら手を振っている。慈愛に満ちたその瞳は、在りし日の師匠とそっくりだった。





――――待ってくれ! 頼むから、もう少しだけ話を! 俺は君になにもしてやれなかった! 騎士として守ることも! 家族としての温もりを分かち合うことも! でもいまなら、今ならきっと!





 リカルドは妹に手を伸ばす。その手は届かないとわかっていながらも、それでも触れたいと思った。やがて彼の体も、伸ばした手も、光の渦に飲み込まれてしまった。






――――どうかまた、お伽噺を聞かせてください。それだけが、私の望みです。





 その言葉を最後に、リカルドの意識はぷっつりと途切れた――――。


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