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第四章 魔法少女と不死身の勇者 - 6

 さらに話は三代目。スターライトの母の話へ移った。三代目の魔法少女は、二代目と同じく神が使わした使者であるパタろんから魔法の力を授かり、この世界を滅ぼそうとする悪の組織と戦った。十代の少女だった母は、辛く厳しい戦いに身を投じるも、世界中の警察や軍隊、そして組織を裏切った父のおかげで辛くも世界を救った。


「なあスターライトさん、スピリタスって確か冬獅郎さんが所属していた組織だろ? どうしてこの世界を滅ぼそうとしたんだ?」

「わかんない。その頃のパパはまだ高校生だったらしいし、ただやんちゃなことをしたくて組織に入ったっていってた。でも行動力がすごくて、いつの間にか幹部になったんだって」

「あの人、今は穏やかだが昔は荒れてたんだな……。マサトはなにか知っているか?」


 リカルドの問いに、マサトは難しい顔をした。


「正直よくわからん。魂の解放を願っていた、という記述は世間にも知れ渡っているところだが、彼らの資料を読んでいると、どうもこの世界が小さな箱のような物に押し込められていると認識していたようだ」

「小さな箱? この世界が? そんなのありえない。それに、そんな箱を小さいだなんておかしいわよ」


 世界が入るほどの大きさなら小さな箱という表現はおかしい。いったいなにをどう考えたらそんな結論が出るのか、スターライトにはちっともわからなかった。


「まったくもって理解しがたいことだが、スピリタスたちはその考えを信じ切っていおったようなのだ。魂の解放とは、箱の外へ出ること。外へ出るには箱を壊さなければならない。だから彼らは地球を滅ぼそうとしたのだ」

「もしかしたら、神様の世界へ行こうとしていたのかも。僕が存在する以上、この世界の外側には神様が住む世界があるはずだからね」


 パタろんの意見にマサトは「だとしても馬鹿馬鹿しい話だ」と切り捨てた。人が神と同じ地に立つなど、人智の粋たる科学の信徒である彼にとって受け入れがたい事なのだろう。


「話が脱線したな。兎にも角にもネクロは、スピリタス・アポカリプスが残した兵器。アースイーターを起動しようとしている。吾輩のパソコンに複数回のアクセスがあったことと、パソコンに搭載されたGPSの位置からしてもまず間違いない」


 マサトがデニムのポケットからスマホよりもゴツい縦長の携帯端末を取り出した。画面には、方眼紙のような升目とズーオカ県の地図が表示されている。不死山の山頂付近で赤い点が一つ、点滅していた。


「不死山の山頂にはスピリタスたちの要塞があるよ。いまはもう打ち捨てられてるけど、きっとそこを根城にしてるんだ!」

「どうして明里さんは要塞を壊さなかったんだ?」


 スターライトは理由を知っていたが、初めて聞くリカルドがそう疑問に感じるのも無理はない。彼の質問に、パタろんは言いづらそうに俯いた。


「壊せなかったんだ。三代目の魔法少女は心が優しすぎて、他人を傷つける攻撃魔法が苦手だったから。というより、攻撃する魔法はほとんど使えなかったんだよ。それと、詳しくはしらないけど、各国の警察や軍隊が要塞を放置しているのは、スピリタスの科学力を残しておくためだと思う」

「攻撃魔法の代わりに、ママは護身術を覚えたんだよね。時々私にも合気道とか柔術を教えてくれるの」

「そのわりに貴様はぶん殴ることが多いのではないか?」

「だって楽なんだもん。そのほうが」

「う、うーむ……」

「ま、まぁ、とにかく理由はわかった……うん」


 敵の居場所がわかった一行は、次にどのように攻めるかを考える。


 少なくともネクロがこの世界の技術を学ぶ前に攻め入る必要があることは全員同じ意見だった。彼が科学の力を操るようになれば、世界中に散りばめられたブラックサーカス団の秘密基地から大量の兵器が起動し、大きな混乱を招くことになる。ブラックサーカス団は殺戮を目的とした兵器は作っていないものの、使い方次第では電力や通信回線を妨害する機械を大量に所持しているため、もしも医療機関や経済の中心となる都市圏で使用されれば被害は甚大だと予想できる。もたもたしている暇はない。


 話し合いの結果、実にシンプルな作戦に決まった。マサトのロボットで不死山へ向かった後、スターライトとリカルドがロボットから降りてネクロの元へ向かい、マサトはいまだ要塞に保管されていると思われる無人兵器に対抗するために屋外で待機。


 およそ作戦とはいえないような内容ながらも、これは差し迫った時間との勝負。一刻の猶予も許されないスターライトたちはこの作戦に頼ることにした。


「結局、力技だな」


 リカルドが唸る。スターライトからすれば、ややこしい作戦をたてるよりこの作戦の方が成功率が高いのではないかと思っていた。頭脳ではネクロに敵わない。なら純粋な能力で圧倒するしかない。行って殴って勝利する。余計なものが一切ない作戦だからこそ、相手を叩きのめすことに全力を出し切れるはずだ。


「そうね。でも他にいい案も浮かばないし。これでいいと思う」

「僕もいいと思うよ。だって緻密な作戦を立てるより、これくらいシンプルなほうが僕ららしいじゃない! 自信もっていこうよ!」


 パタろんの励ましに、魔法少女と不死の勇者は微笑みながら頷いた。


「よし、急いで不死山へ向かうぞ! お前たち、すぐにロボットに乗るのだ!」

「わかったわ!」


 スターライトがロボットの機体に飛び乗った。


 切り取られたボディのの縁に手をかけ、操縦席に体を滑り込ませる。


 機体の隅には血で汚れた衣類と、パンパンに膨れ上がったコンビニ袋が捨て置かれている。おそらくマサトはこの三日間をここで過ごしたのだろう。


 機体内部の中央には黒い革張りの座席が一つと、座席を取り囲むように半円形の操作パネルが設置されており、その周囲から壁までは精々六十センチ程度のスペースがある。やや狭いが、なんとか全員んることができた。


 唯一の座席であり操縦席である場所にマサトが座り、整列したスイッチを下から上に押し上げていく。パチパチパチっと小気味良い音を響かせ、最後に赤いボタンを押し込んだ。


「さあ、出発だ」


 マサトが一言呟くと、ロボットの上部にスモーク処理された硝子が展開し、その後、背面のジェットエンジンが点火。硝子の向こう側の景色が下へと流れていく。


 雲よりもやや低い位置にまで上昇すると、マサトが右のレバーを前に倒し、ロボットは前傾になって西へ向かって進み始めた。


 円形の機体の内部は水平維持機構ジャイロスタビライザーが搭載されているため、機体が傾いてもスターライトたちが乗っている操縦席は地上に対してほとんど水平のままだ。


 硝子の内側からは外の景色がはっきりと見える。硝子の左上には緑色の蛍光線で描かれたロボットの図形と、その下には同じ色のバーがあり脇には”燃料”という文字が並んでいる。どうやらロケットの燃料計のようだ。また現在の高度や緯度経度、時計、各部の油圧状況までもが羅列されている。


 細々とした数字や漢字に混じって「♪」マークが描かれており、スターライトは指さして「あれはなに?」と尋ねた。


「フハハッ、よくぞ気づいたなスターライトよ。丁度今から起動させようとしていたところである! さあ聞くがよい。我がブラックサーカス団の社歌! 【嗚呼、我らがブラックサーカス団】!」


 マサトが操作パネルから飛び出した音符マークのボタンを押し込むと、画面に表示されていたマークの下に「再生」の文字が表示された。すると……


 スピーカーから流れだす軽快なサックスと、跳ねるようなドラムのリズム。

 イントロが終わると、マサトの歌声が操縦席に流れ始めた。


 ブラック!ブラック!ブラアアアック!

 誰が呼んだかその名前。

 いつでもどこでも現れる。

 時代を制する科学の粋を。

 この手に頭に詰め込んで。

 今日も笑顔を振りまくぞ! 我らがサーカスだ~ん。


 生きることは辛くとも。

 哀しいことが多くとも。

 前を向いて一歩進めばそこは未来。

 我らが来たからもう大丈夫。

 過去を振り切り走り続けろ! 我らがサーカスだ~ん。 


 笑顔で満ちれば世界は変わる。

 変わらせるのが我らの役目。

 今日もどこかで誰かが泣けば。

 クラッカーを鳴らしに向かうのさ。

 世界を我が手に! 嗚~呼~、我ら~がブラーック! サーカースだーん!


 三番まで終わった後も延々とリピートを続ける歌に、スターライトは目を白黒させていた。


「これ、あんたが歌ってるの?」

「歌だけではないぞ! 作詞作曲も吾輩だ!」

「そうなんだ……。すごいね……」


 嬉しそうに目を輝かせるマサトに、スターライトは心底興味が無さそうに返事をした。 


「フワーハハハ! そうだろうそうだろう! ハッハッハ! 士気が高まってきたぞー! 全速前進だああああ!」


 ロボットは陽気な音楽を漏らしながら、寒空に白い軌跡を残して飛んでいく。


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