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第四章 魔法少女と不死身の勇者 - 5

 マサト・ゴールデングローブは、十歳までニューヨークのマンハッタンで育った。父はやり手の実業家で、母はファッションデザイナー。二人とも世界を股に掛ける有名人だ。


 仕事で忙しい二人に変わって、マサトの祖父が親代わりとなることが多かった。


 母が日本人とのハーフだったものの、祖父の血を色濃く受け継いだマサトは容姿端麗な美少年として幼少期を過ごす。ところが、両親の仕事の都合で日本に移住した際に、彼は周りとあまりに違う容姿をからかわれることが多くなった。


 それらは妬みや嫉妬の類だと、第三者目線で聞く分には理解できるが、当の本人はいたって大真面目に悩んだ。その結果、部屋に引きこもりがちになり、自分の姿を隠すようになったのである。彼はブラックサーカス団の団長となってからも、祖父の姿に似せた防爆スーツに身を包み、本来の姿を隠し続けたのだ。


「あ、あなた団長のことすごい知ってるのね……」


 スターライトはあまりにも饒舌に語る新人黒タイツに若干引いた。


「ブラックサーカス団に入社する人は、だいたいマサトさんの自伝本を熟読しているからね」

「ぺらぺらと個人情報を話しおって……。お前が新人でなければ降格ものだぞ」

「すいません。でも、これから一緒に戦うなら少しでも信頼を勝ち取るべきだと思ったんです」

「私もそう思います……どうか彼を許してあげてください! 団長!」


 新人黒タイツと彼に寄り添っている先輩黒タイツは、そろって頭を下げた。


「ふん……、まぁいい。ともかく吾輩はこの姿が嫌いなのだ。爺ちゃ……爺様の格好をしていたおかげで、傷もこの程度ですんだ。はやくあのスーツの中に戻りたい」


 マサトは膝を抱えてうずくまる。本来の体形と大きくかけ離れたスーツのおかげで、ネクロの刃はマサトの脇腹を少し切るだけで済んだ。


 とはいえ丸二日以上放置された傷がかなりのダメージとなっていることは、マサトの顔色を見れば一目瞭然だった。


「あの」

「なんだ。吾輩に文句でもあるのか」

「ううん、文句じゃなくって、その、えっと……。あーもー、なんていうか」

「なんだはっきりせんか。いつもの威勢はどうした」


 言い淀むスターライトに、マサトは舌打ちをした。スターライトは一瞬むっとした表情になるも、もじもじと手をこすり合わせ、耳まで顔を真っ赤に染めながら、上目づかいでマサトを見つめた。


「団長の素顔、かっこいいな、って、思い、ます……だから、自信もっていいと思う、っていうか……」


 しばしの沈黙。マサトは「ふん」と言ってフードを外した。


「団長がフードを外した!」

「見て! 顔が赤いわ! 照れてるのよ!」

「まさか団長は、ロリコ……」

「違うわ馬鹿者が! だいたい俺……じゃなくて、吾輩はまだ二十歳だ! この娘と二つしか違わんっつーの! う、ぐううう……」


 黒タイツたちの指摘に反論するも、痛みで倒れそうになるマサトをスターライトが抱きとめる。

 不意に顔の距離が近くなり、二人の視線が重なった。一瞬、時が止まったように見つめあい、気まずさからか、どちらとも言わずぷいっと目を逸らす。


「傷……見せてください……。治しますから」

「う、うむ」


 スターライトの言葉に素直に耳を傾けるマサト。二人はぎこちないながらも、傷の治療を始めた。その後ろでは、リカルドが腕を組んで頷き。彼の頭の上にパタろんがよじ乗った。


「初々しいな二人とも。これが青春、ってやつか」

「そうだね。今だけはスターライト・ピンクって名前が卑猥に聞えるよ。なんかホテルとかお店の名前みたい」

「「黙れ」」 


 スターライトとマサトが声を揃えて、パタろんのデリカシー皆無な発言に苦言を申し立てた。スターライトがマジカルステッキを振りかざし、マサトの傷を癒すと、彼は興味深そうに自分の脇腹を撫でた。


「どうしたの? まだ痛む?」

「多少つっぱる感じはするが、痛みはない。それより一瞬で傷が治ることに驚いているのだ。魔法少女の力は物理法則を完全に無視しておる。一科学者として、信じたくない光景だ」

「この二人は特にイカレた能力を持っているからね。リカルド君なんてちっちゃなブラックホールを作るんだよ!」


 パタろんの言葉に腹を立てたスターライトは、彼の耳のような翼のような部分を掴みながら「イカシてる、の間違いだよね?」と囁いた。


「ブラックホールだと? 笑わせてくれる。大きかろうが小さかろうがそんなものが出現したら、地球は今頃ピンポン玉くらいになっているぞ」

「いや、それが本当なのよ」

「馬鹿な。理屈で説明しろ。理屈で」

「理屈、か。木っ端微塵剣を使うとブラックホールが出てくる」

「それは理屈ではない! 強いて言うなら屁理屈だ馬鹿者!」


 リカルドは悲しそうに眉根を下げ口ごもった。彼からすれば三百五歳も年下の若造に馬鹿者呼ばわりされたのだから、拗ねるのも致し方ないと言えるだろう。


「なんでも、光速以上の速度で剣を振るとブラックホールが出来ていろんなものを消滅させるらしいよ。でも、被害が大きくなる前に剣の中の女神さまが世界から隠してくれるんだってさ……ねぇスターライト。そろそろ離してよ」


 捉えられた野兎のような体勢ながらパタろんは冷静に説明してくれた。彼の言葉に、マサトは顎に手を当てて思案する。


「女神が隠すだと? まさか、《宇宙検問官説》が正しかったとでも言うのか?」

「なにそれ?」


 パタろんをリカルドの頭の上に戻したスターライトは、不思議そうに小首をかしげた。


「この宇宙に出現した裸の特異点は、神によってその存在を隠蔽されると言う理論だ。まさか現実に神などという存在がいるとはな。いや、存在そのものは、そこの兎がいる時点で証明されているのか……。仮に神がこの世界に影響を及ぼすというのなら、他にも様々な仮説が成り立つことになる。科学の常識が覆るぞ」


 スターライトはマサトの博識ぶりに感心するも、彼が驚いていることに一切共感できないでいた。


 その後、新人黒タイツと先輩黒タイツが子供たちをつれて森に隠してあった車を目指し、スターライトたちは今後の方針を相談し始めた。マサトが搭乗してきたロボットはブラックサーカス団のネットワークと繋がっている。スターライトたちが閉じ込められた時も、動力室の監視カメラからやり取りを見ており、扉の電子ロックを遠隔操作して解錠したのだ。


「動力室のカメラ以外映らなくなったときはヒヤリとしたが、まさかビルが崩壊しているとはな。何はともあれ解錠が間に合ってよかった」


 彼の話によると、遠隔操作で電子ロックを解錠出来たということは、このロボットやビルのネットワークは遮断されていなかったということになるらしい。もしもスターライトたちを閉じ込めて追い詰めることが目的なら、電子ロックの解錠をさせないためにインターネットを遮断するはずである。つまりネクロはまだ、この世界の科学技術に疎いということだ。つけ入るならばそこだとマサトは提案した。


 パタろんも、ネクロが動力室のプロジェクターを起動するのに手間取っていたことを思い出し、マサトに同意した。裏付けが取れたことで大まかな方針が定まり、いよいよ具体的な作戦について議論が交わされる。


 まず重要なのはネクロが現在どこにいるのか、ということだ。スターライトたちはこのブラックサーカス団本部にいると踏んでいた手前、まったく見当がつかない。ところがマサトが、「奴は不死山ふじさんにいる」と言った。

「どうしてわかるの?」


 スターライトが尋ねると、彼はロボットの座席によじ登り、中から一冊の古びたノートを取り出してきた。


 ノートの中にはなにかの機械の設計図が挟まれている。設計図の隅には髑髏マークと、【アースイーター】という名前が記されている。スターライトはこの髑髏マークに見覚えがあった。父の手の甲に残った痣。かつて魂の解放を願って世界を滅ぼそうとした悪の組織、スピリタス・アポカリプスのマークだ。


 この資料は過去の魔法少女の記録。マサトが自の組織になるとき、参考になればと考え集めたものだ。ノートには三代目であるスターライトの母が戦ったスピリタス・アポカリプスの他にも、二代目魔法少女が戦った次元の狭間から産まれた秩序を喰らう魔物【アンギュレイター】。初代が戦った、具現化した人々の心の闇である【エビル】についても書かれていた。


 スターライトは、初代と二代目が戦った敵に強く興味を惹かれた。なぜならこの二人の魔法少女の記録はほとんど残されていないからだ。


 なぜこの二人だけが科学の力を使った悪の組織ではなく、オカルトじみた怪物が相手だったのかも気になる。


「そもそもこの世界の魔法少女は、出現した経緯からして変なのだ」

「変って、なにが?」

「魔法少女などという存在がどのようなものなのか明確な定義はない。ただ言えることは超常の力を持ち、人々を悪しき者の手から救う存在だとされている」


 スターライトは頷いた。魔法少女は人々を守る正義の使者。そのことに関して疑問はない。


「ところが、だ。どう過去の記録を紐解いてみても、初代魔法少女は人々を殺している。それも十や二十ではない。もっと多くの、それこそ大陸を滅ぼすような規模でだ」

「ええ⁉ ちょっとまってよ、どういうことなのそれ⁉」

「それはわからん。しかもそれほどの規模で人が死んだと言うのに、まだ百年と少ししかたっていないにも関わらず、その事実をほとんどの人が知らない。少ないながらも地層から発見された骨などの痕跡が確かに残っておるのに、誰もが口にしない。いや、意図的に意識から外されているような感じさえする」

「パタろんはなにか知ってる?」


 スターライトが尋ねると、地面の上で毛づくろいをしていたパタろんが顔を上げた。


「なにも。僕が産まれたのは二代目の魔法少女の時だから……力になれなくてごめんよ」


 初代魔法少女の存在について、謎は深まるばかりだった。少なくとも当面の目的とは関係ないと判断し、次にマサトは、二代目の魔法少女について話し始めた。


 二代目の魔法少女は今から四十年前にこの世界にいたそうだ。パタろんから力を授かった彼女は、地上に出現した次元の狭間から現れる魔物と戦っていた。最後には不死山の頂上に出現した、魔物を産み出す魔物と戦い勝利。けれどその魔物が現れた際にできた次元の穴をふさぐために、自らを犠牲にしたそうだ。


 その時を境に、地球には魔物が現れなくなった。この事件についてはスターライトも学校の授業で習っているので、朧気ながらも知っている。とはいえ二代目は群れるのが嫌いな一匹オオカミ気質だったらしく、彼女のことを知っている人はほとんどいないため客観的事実しか知らない。


 ほとんど唯一彼女を間近で見ていたといっても過言ではないパタろんによると、二代目は情熱的な性格で曲がったことが大嫌いだったそうだ。徐々に当時の事を思い出したのか、しみじみと「なかなか乱暴な戦い方をする魔法少女でね。僕、二、三回囮に使われて死ぬかと思ったよ」と言った。


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