第3話 聖なる夜に蠢くもの
いつも通りの豆のスープと硬いパンを食べ終え、その後に着替えた。いつもとは順序が逆だがこの方がいいと私が思ったから行動した。
「気の赴くままに行動するのは気楽でいい」
この言葉も母様が言っていたこと。惰性の日常に、少しばかりの変化が付く。この気楽さが、母様と同じく私にも合っている。ついでに言うと、いくら美味しくても毎朝パンを焼く気力が二人そろってなかったために硬いパンを食べている。
「さて、やることはかなりあるしそろそろ行動しよう」
――その頃――
「ここでの稼ぎは上々だな。テメーらずらかるぞ!」
「「「オウ!」」」
村が蹂躙されていた。様々な建物が燃える中、盗賊と思わしき集団が大荷物を持って移動しようとしている。村を覆う囲いが燃やされ、脱出が困難であろう中、盗賊たちに稼ぎを得た喜びはあれど焦りはなかった。その理由は
「やはりこの魔剣は素晴らしいな」
リーダーと思しき男の手には、禍々しい炎の意匠をもつ剣が握られていた。その刀身からは、炎が時折吹き出し輝いている。村の家々の燃え方は、燃え広がったとしては不自然であり、この剣の仕業であることは明白だ。
「火を放出するだけでなく、火を吸収できるというのは実に便利だ」
そう、盗賊たちに焦りがないのはこの能力があるからだ。しかも、魔力がそう多くないリーダー格の男が、これだけの規模の村をたいした時間もなく破壊し尽くせたことから、この剣は魔剣と言われる品の中でもかなりの業物だろう。
「これほどの剣の封印がかなり解除しやすいものだったからな、あの箱の中身を知ることができないのは残念だ」
そう言い、視線を荷馬車に積まれた二つの箱のうちの一つ、白い箱の方に向けた。もう一つの箱は、剣と同じ禍々しくもシンプルな炎の意匠をした、すでに中身の無い黒い半開きの箱。そして、視線を向けられた白い箱は淡白く発光していた。その発言を聞いた盗賊達は
「まぁ気にしてもじゃあないんじゃないですか?それこそ、根気強く叩いて開いた黒い箱と違って、白い箱はその魔剣で切ろうとしても傷一つ付かなかったですし」
「そうですよ。そのうち折を見て売っぱらっちまいましょう。どう見ても魔法の道具なのは明らかですし。高く売れますよ」
「……そうだな。その通りだ。よし、じゃあお前ら!次の村へ行くぞ!」
「「「オウ!」」」
そして、盗賊たちは進む。聖夜の準備に勤しむ村へと。