第2話 祝祭の日の村の朝
暫くして落ち着いてきた私は再び顔を洗う。そこには、黒色の肩まで伸ばした髪と充血した緑色の瞳をした私が写っていた。
「だいぶマシになったかな」
なぜ今日に限って聞き取れなかった最後の言葉が聞こえ、こんなにも切なく悲しい気持ちになってしまったのか。
「何かの前触れかしら」
窓を見上げ、起きたばかりよりも少し高くなってきた太陽を見ながら不安に駆られる。
「まさかね」
いつも通りの村の様子に目を移し、杞憂だと自分に言い聞かせる。そして、まだ着替えを終えていないことに気づく。日の様子からもう普段であれば起きている時間だということがわかった。
「今日は降臨祝祭だから、早めに手伝わなきゃいけないのに・・・あれはやりたくないけど」
そう、今日は女神グラティアの降臨を祝う祭りの日だ。当時の暦に合わせ、現在では3年に一度の祭典となっている。この祝祭は、各国の国家運営にさえ口出しすることができるグラティア教が、国に圧力をかけ辺境の村にさえ、行うことを義務付けている。
「なんで今年からは私になったんだろう」
そう、そこでは女性が降臨の日より伝わる踊りを踊るのだが、参加者の中で最も美しい女性が祝祭の終わりに教会から貸される特別な衣装に身を包み、一人で舞台の上で踊るのだ。しかも歌付きで。
「一番綺麗だって認められるのは良いんだけど、知っている人しかいないとはいえあんな舞台で一人で踊るなんて恥ずかしいよ〜」
なんでこんなことになったんだろう。以前までは、母様が毎年のようにこの役に選ばれていた。私が母様に拾われたのは4年前のことだ。そして、半年前に行商人から広まったであろう噂から訪れた教会上層部に、女神が好みそうな美しい容姿と、祭事の才から長らく空席だったこの国の教会長になるよう強制され、この村を離れてしまったため一度しか見ていない。だけど
「母様と比べて私には才能がないから。準備ならともかく母様と同じ役はやりたくはなかったんだけどな〜」
そう、私には母様ほどの実力はない。どうしても記憶に焼き付く、あの美しい光景を超えられるイメージが湧かない。何よりも、私は母様のように儀式に真剣に向き合うことができない。
「まあ下手なわけではないし、許してくれるよね」
そういって私は
「さて愚痴はこのくらいにしてさっさと食べて支度といきますか」
まず1日の始まりは朝の食事よ。母さまはそういっていた。だから、1人の朝になっても朝の食事は欠かしていない。
「今日の私、精一杯頑張ります。だから母様、見ていてください」
かつて一度だけ訪れた王都の方角を向き、私はそう呟いた。