青き精霊の衣服を纏ったランスロット(1)
ランスロットと名をもらった。黒色の髪、碧眼の少年は辺りをぼんやりと見渡していた。
(ここは、どこなんだ?自分は一体どうして、ここに居るんだ?)
ランスロットのかすかな記憶に残るのは、紅蓮の炎から漆黒の炎へと変わる瞬間の映像のみだ。
(一体、何があったんだ?)
夜空に浮かぶ青い満月。そして、森の中にひときわ大きな大木の下で角を生やした生き物や小さく飛びわまる人、木の歩く化け物と自分の後ろには2つの牙をもった白銀の大きな4本足の大きな獣が一匹。目の前には、金色の長い髪の銀色の優しい目をした女の人居る。
「あの…。ここは??」
とランスロットが銀色の目の女の人に聞いた。
「あなたは、何者か自分でわかるかしら?」澄んだ声が響いた。
(自分が何者…?わからない…。どうしてここにいるのかも…わからない…。知らない…。)
返答に困っていると、
「ごめんなさいね。いきなり。何か、あなたが覚えていたら良いなと思ったんだけど…。」残念そうな顔をする女の人が言った。
後ろの2つの牙を持つ4本足の大きな白銀の獣が、
「どういう事だ?アウロラ女王?」と尋ねた。
アウロラ女王と言われる女の人は
「この子が何者かが解らないのよ。ごめんなさいね。サー・サーベル・タイガー。精霊女王のアウロラとして千里眼を持ってしても見えない。何か、特別なシールドがかかっているんだわ。」
「シールド?って何?」
「大丈夫よ。あなたはランスロット。人間の子として、私達に出会った。私は、このあやかしの森の精霊女王、アウロラ。そこのサー・サーベル・タイガーがあなたの名付け親で、あなたを養育してくれる者よ。あなたの隣に宙を飛んでいる緑の髪の精霊はセシリア。これから、よろしくね。今は100年に一度のフル・ブルームーンを祝う宴の席にあなたは居るのよ。」アウロラ女王が言った。
「フル・ブルームーン?」
「そうよ。100年に一度の魔力が満ちる月。どんな奇跡が起きても全然おかしくはないわ。あなたは、偶然にもここで私達に出会った。それは、あなたが人間として、とても幸運な事なのよ?」とランスロットに微笑む。
サーベル・タイガーが女王に詰め寄る。
「アウロラ女王、私は確かに名付け親だが養育者は無理…」言葉を被せる女王アウロラ。
「サー・サーベル。あなたが今夜聖なる泉でランスロットと出会った時から決まった事よ。誰もフル・ブルームーンの奇跡からは、逃げられない。例え、意図していなくとも…。それに、あなたにはこのあやかしの森には恩義があると思うんだけど?」試すようにアウロラ女王がサーベル・タイガーを見た。
やれやれ、私がここに来た時には、行く末はもう見えていたのか…。サーベル・タイガーはアウロラ女王には逆らえないと覚悟を決めた。
「セシリア、あなたもこのランスロットの養育者の1人よ。森の警備は他に任せて、サー・サーベルの初めての子育てを見守ってね。」
セシリーは女王の言葉に、顔を赤らめ、
「はい!セシリア!女王様の命を受け、サー・サーベル殿と共にランスロットの子育てに尽力を津くします!」と敬礼。
「うふふ。頼もしい事。この宴の席の者達よ。精霊女王アウロラからの頼みです。サー・サーベル、セシリアを手助けをするように!」
「ははーっ!!女王様!」
一同一斉に声が上がった。
「さて、ランスロット。たくさんの疑問もあるでしょうが、人間の身で、このあやかしの森に住む事を許しましょう。ただし、あなたが16の歳になるまでの9年間だけ。そこからは、あなた自身の目で行く末を選ぶのです。」
ぽかりとアウロラ女王を見上げるランスロット。
「あなたは、生まれたてのまだ小さい子供。皆があなたを守ります。さぁ、この辺りで、宴を楽しみましょう。ランスロット、お腹が空いて居るんじゃなくて?」グーっと腹の虫がなった。
「ささ、ランスロット様こちらへ。私は一角ウサギの長のマリウスです。ベリーパイはいかがですか??よろしければ、ミントティーも。このマリウス、ランスロット様の成長のお手伝いに参加させて頂けるなんて、感無量でございます。ささ、たくさん召し上がって下さい。」
(よく、まだわからないけど。今はお腹も空いてるし、たくさん食べよう。)
マリウスに食事を振る舞われながら、貪り食べるランスロット。
サーベル・タイガーは穏やかにそれを見つめていた。
養育者か、子育ては初めてだか…。セシリーもマリウスも女王の配下も参加してくれるなら、何とかなるか…。
女王はサーベル・タイガーに近付き、小声で話しかけた。
「サー・サーベル。あの子の前世は見えないけど今世では、只者ではないわ。」
「そうなのか?やはり戦士か勇者か?はたしては賢者なる素質が?力があるのか?もしかして、魔法人とか??」前世の仲間の勇者の名を着けたのだから、その可能性を期待するサーベル・タイガー。
ふぅー。っとため息と肩を透かせてアウロラ女王が言う。
「残念…だけどそれは微塵も感じないわ…。ただ、物凄い幸運の持ち主よ。」
「幸運?」
「そう、びっくり過ぎるくらいの幸運。世界一、最強の大幸運のスペックを持つ子よ。子育て頑張っね。」
とイタズラ気に舌を出す、アウロラ女王。
幸運?しかも、世界一?最強の大幸運のスペックの持ち主???
…。いずれ、その幸運で孝行をしてくれるんだろうか??