精霊女王アウロラ(3)
「そうね…。その前に、少しミントティーを頂こうかしら?今夜は、フル・ブルームーンですもの。宴の後にゆっくりとその子を見ましょう。人間に転生したその子の行く末を。」
女王の声に、眼鏡をかけた蝶ネクタイの一角ウサギが
ようやく口を開く。
「さぁ、女王様にミントティーをお出ししろ!宴の開催だ!急げ!急げ!」辺りの精霊、一角ウサギ・トレントに指示を出した。
「いつも、ありがとう。サー・サーベルも会ったことがあるかしら?一角ウサギの長をしているマリウスよ。マリウス、サー・サーベルにも何かお出ししてね。」
一角ウサギがサーベル・タイガーの前で深々と頭を下げる。「これは、これは。先ほどは宴の準備中とは言え大変なご無礼を…。一角ウサギの長をしてます。マリウスです。サー・サーベル・タイガー様の事は、このマリウスの耳に入るぐらいの聖獣様。今宵は、精一杯なおもてなしをさせて頂きます。」
「サー・サーベル様、ミントティーはいかがですか?それとも、ラズベリージュースは今年は豊作でして。いや、やはり葡萄酒でしょうか?年代物の良品の葡萄酒がございます。さっそく、ご用意してきます!」
世話しなく言うと、一角ウサギのマリウスはどこかへと駆けて行った。
やはり、この赤子も私と同じ転生の者か。アウロラ女王は、今は人間と言っていたが、かつては何者だったのか? 人間に転生したこの子の行く末は、これからどうなるのだ?
サーベル・タイガーが赤子を見つめ、小さくため息をついた。
アウロラ女王が
「そうね、赤子のままだと宴には参加は難しいわね。」と小さく言い。
目を閉じて両手を夜空へと大きく伸ばした。
「あやかしの森に住むいにしえの者達よ。精霊女王の名アウロラのもとにその力を示されよ。この赤子を成長へと導きを示せ。」
女王アウロラから放った光が赤子へと降り注ぐ。
光に包まれ、赤子は一周宙を舞い、そして降り立った。
年頃にして、7、8歳だろうか?人間の男の子の姿に。
「女王様の御前で裸とは!!精霊達よ!ブルーベリージャムを盗み食いしておる場合ではない!!早くこの子に何か衣服を!」
ふてくされながら、セシリーと同じような精霊達が5
人現れ、トレントの魔力を借りて衣服を作る。
精霊の衣服を纏っ男の子。
しばらく黙っていたサーベル・タイガー横に飛んでいたセシリーが言った。
「サー・サーベル、私初めて人間の男の子を見たよ。」
アウロラ女王は呼吸を整えながら、
「久しぶりに力を使いました。あら、嫌だ。少し私フケたかも…。マリウス!!ありったけの葡萄酒持って来てー!もう、嫌だわー。力を使うと少し歳をとるのね。」マリウスは女王に葡萄酒瓶を片手に駆け寄り
「お待たせしました。女王様。」葡萄酒の瓶を女王に差し出す。女王は葡萄酒の瓶を受けとると一気に飲み干し、「ぷはー。生き返った。あら、私ったらサー・サーベルの前ではしたないわね。さぁ、サー・サーベルあなた達も宴を楽しんでね。」
「赤子も無事に男の子に成長した事だし。男の子…。名前…。名前がまだないわね…。サー・サーベルあなたが見つけた子よ。あなたが名付け親になるべきね。」
アウロラ女王はほろ酔いながらサーベル・タイガーに言った。
名付け親??私がか?見つけたのは、セシリーも一緒なんだが…。名前がないのも不便だ。少し間をおいた、サーベル・タイガーは女王アウロラに
「この子の名前はランスロットとしよう。」
と言った。
その名はかつて一緒に聖なる戦いへと歩んだ仲間の1人の勇者の名前だった。