始まりの青い月(3)
「待たぬか、セリシア。」
サーベル・タイガーは、凄みのある声で静かに言った。
精霊の女王と精霊やあやかしの森に住む者達から慕われている、アウロラ女王。あやかしの森の絶対王者。冷静かつ秩序を重んじる女王。この状況の赤子を、ましてや魔物かも知れない赤子、その女王が判断するのは、いささかこの子の命にも関わるかも知れん。
「サー・サーベル。セシリーって呼んで!100年間、サーベルには言い続けてるのにー。セリシアとか呼ばないで。」
セリシアはぶつぶつと呼び名なんぞにこだわってるが
そんな事は、どうでもいい…。問題はこの赤子だ。
見るからには普通の赤子のようだが…。アウロラ女王に隠そうとしても、女王の耳に入るのは時間の問題だ。
赤子は、楽しそうな声をあげながら草の上に座り、サーベルタイガーにじゃれてくる。さて、どうしたものか?よく見ると、この赤子、何だか懐かしい青い澄んだ瞳だ。この瞳、どこかで見たことがあるような…。
どこか…?もしや、サーベル・タイガーとして生まれ変わる前に、私はこの子に出会っているのか?はたして、親しき者か?それとも、因縁のある者か?
いや、今はただの幼き者だ。これは、どうしたものか?
アウロラ女王には、前世でもそうだが、サーベル・タイガーとして生まれ変わった今世にも世話になっているし、このまま隠せばアウロラ女王への恩義にも反する…。
深く、ため息を吐きながら、
「セシリー。この赤子の件は、遅かれ早かれ、アウロラ女王の耳に入るのも時間の問題。ならば、このサーベルも赤子の付き添いとして一緒に女王に会いに行こう。」
セシリーは満面な笑顔で、
「そう!サー・サーベル、それなら早く女王様の所に行きましょ!」と、この夜の警備の手柄と言わんばかりに、ありったけの精霊の粉を赤子とサーベル・タイガーめがけて派手に巻き散らかした。