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少年と少女と侵略者と  作者: プレイヤー1
知性との遭遇
8/8

第七話 FAlls FROm The SKIS 前編

 休暇が終わり、いつも通りの日常が戻ってきた。

 今日はまだ出撃命令は出ていないけどどうせ出るだろう。


「むーらーたくん、聞いたか? あの噂」

「噂? なんの話ですか?」


 椅子に座ってただ出撃を待っていると平田さんが陽気に話しかけてきた。


「なんでも、近々パワードスーツ部隊ってのが新設されるらしいぞ。ほんとかどうかは知らねえけどよ、なんかさこう、あれだ。浪漫があっていいよな」


 平田さんは手に持った缶コーヒーを開ける。

 優依からは何も聞いてない。

 極秘だから言えないのか、本当にただの噂なのか、それとも優依も知らないのか。


「そのパワードスーツ部隊でとかげ共もエイリアンもぶちのめしてくれれば――、そうだ、いっそ俺たちがなっちまうか」


 冗談だといわんばかりにけらけら笑う。


「平田さん、その話の信憑性ってどれくらいですか?」

「さあなぁ、所詮噂だから。でもないわけじゃないだろうよ。火のない所に煙は立たぬって言うだろ。それにそういう話はお前のかのっ……、かのっ……、彼女の方が詳しいだろうよっ! うらやましいぞっ、ちくしょうがっ!」


 騒ぎながらばんばん背中を叩いてきた。

 それはいいけど、飲み終えてないコーヒーを零さないように注意だけはしていただきたい。


「うるさいぞ。平田」

「まーしまっちゃーん」

「招集ですか? 真島さん」

「いいや。まだ何も」


 首を横に振りながらいつもの落ち着いた声で言った。


「ならいいじゃんかよ、ましまっちゃん」

「はあ……。しょうがない奴だな。お前は」


 呆れた風を装っているけど笑っているようにも見えるので、多分、一言言いたかっただけだと思う。


「そうだそうだ、ましまっちゃんにまだ言ってないかもしれねえな」

「ん?」

「噂噂、パワードスーツ部隊の噂だよ。あれ? 言ったっけ?」

「いや、聞いてない」

「だめだこの分隊。ぽんこつばっかりじゃねえか」


 出所不明の噂を知らないだけでぽんこつ認定されてしまった。


「おいお前ら、なんか一言でも言い返せよっ」


 言い返されたかったのか? この人。

 真島さんに目を向けると見事に目が合ってしまう。


「自分は新人のため、意見具申は慎むべきと愚考しました」


 突然真島さんが噴き出した。


「言われたな、平田」

「うるせー」


 平田さんは拗ねたような顔をする。

 その時だ。


『敵生命体の群れが市街地へ向かって移動中。直ちに出撃し、これを殲滅してください。敵生命体が市街地へ侵攻中。直ちに出撃し、殲滅してください』


 スピーカーから優依の声が流れる。

 アナウンスで優依の声が流れるのは初めてで、なんとなくこわばっているようにも聞こえた。

 少しずつ仕事を任されている、といったところだろう。


「彼女さんの声に反応してるやつがいますよっと」


 間違いなく僕の事だろうけど相手はしない。


「それで、例の噂とやらは正確なのか?」

「知らねえよ。あくまで噂なんだからよ。ってか、似たようなこと、そこの村田君にも聞かれたよ。似た者同士かってんだ」


 移動しながら二人はそんな話をしていた。



 現地へ移動する車内で更に連絡があった。

 どうやら飛行物体も接近しているらしい。

 空は重そうな灰色の雲に覆われている。太陽なんか全く見えない。

 展開した場所は、市街地から距離があるわけでもなく、すぐそこに民家もある。そんな場所だ。


『いいか、二つだ。一つは死ぬな、仲間を殺させるな。もう一つは容赦するな。弱っていても弾丸をぶち込んでやれ』

『分隊長の仇だ。とかげ共、ぶっ殺してやる』

『このチームでスコア一番低かった奴が飯奢りな』


 ご高説の他、恨みのこもったものや能天気なものと、本日も無線はいろんなものが飛び交っている。


『合図と同時に攻撃開始だ』


 迫ってくるとかげ共は田んぼもなにもお構いなしのようだ。

 これで少しは遅れてくれれば僕たちにとっては都合がいいけど、農家の人からすればたまったものじゃないんだろう。

 土壌や生き物のことを考えればお金で解決はきっとできない。


『撃て』


 そのたった一言で僕や真島さん、その他の隊員達も皆が引き金を引き銃弾を浴びせる。

 前回の作戦よりも明らかに向こうの数は少なく、僕らの方は頭数を揃えてあるというのもあってか、あっけなく終わりそうだ。


『けいくん、気を付けて。飛行物体一機が急速接近中』


 正面の敵はじきに片付くけど、仮に片付く前に接敵したときはどう対処すればいい? そもそも飛んでいる相手をどうやって潰す?

 対空ミサイルがあれば話は変わるかもしれないけど、とかげ退治にそんなもの持ってきている奴が果たしているのか?


『作戦エリアに飛行物体接近、警戒せよ』

『了解。総員、聞いた通りだ。飛行物体が来る前に終わらせるぞ』


 だが、遅かった。いや、向こうが早かったとも言える。

 灰色の雲を突き抜けて純白の機体が姿を現した。

 円盤のようにも、飛行機のようにも見えるそれは高度を落とすと僕らの方へと、街へと向かってくる。


『撃ち落とせないのか! 誰かっ! このままでは市街地戦になってしまう!』

『無理です、対空兵装どころかロケットランチャーすらありません!』


 飛行物体は飛行速度を落とすと、下部のハッチを開いた。


『何をするつもりだ?』

『やばいやばい、増援だっ! とかげの増援だっ!』


 開いたハッチから次々ととかげを投下しながらこちらへと迫ってくる。

 減らしたはずなのに、このままでは。


「優依……、優依」


 焦ってマガジンを換えようとしたせいで一度、引っかかってしまう。


『待機してた部隊が応援に向かったから……、その……、えっと……、頑張って。生きて帰ってきて』


 もう目の前だというのに飛行物体は投下をやめない。


『踏み潰されるぞっ、下がれ、下がれっ、道を開けろっ』


 牽制にはなるかと、ハンドガンを取り出して二回だけ放ち、すぐにルートから離れる。

 もともと飛行ルートからずれていたのが幸運だった。

 人員輸送車はぐしゃりと潰され、タイヤの一つが外れる。


『う、うわっ、あああああ――』


 逃げ遅れた隊員が踏み潰され、血溜まりへとその姿を変えた。


『助け――』


 言葉が途切れ、隊員の一人の上半身が食いちぎられる。

 このままでは応援が来る前に全滅必至だ。何とか打開しなければならない。

 飛行物体は未だにとかげを降らせ続けている。


『現場はどうなっている? 状況を報告しろ』

『飛行物体が敵性物を投下中、既に我々では対処不能。撤退の許可を』

『撤退は許可できない。すぐ後ろは市街地だ。民間人を巻き込むわけにはいかない。だが応援は送った。悪いが持ちこたえてくれ』

『……っ。……了解しました』


 予想通りの返答だった。

 撤退ではなく後退と言ったほうがきっと要求は通りやすかっただろう。

 あくまで撤退よりかは、だけど。


「真島さん、弾が切れそうです」

「奇遇だな。俺もだ」


 それは僕や真島さんに限ったことじゃないはずだ。

 死んで戦えなくなった人以外は皆、中には使い切った人もいるかもしれない。

 そうなれば死ぬのを待つだけだ。


『ハッチが閉まるぞっ』

『飛行物体、作戦エリアから離れるようです』


 飛行物体が去っていくらしいが、見ている余裕なんか無い。


「優依、飛行物体は?」


 疑っているわけじゃないけど、一応確認する。


『えっと、飛行物体は移動を開始、作戦エリアを離脱します』

「真島さん、飛行物体が離脱するみたいです」

「らしいな」


 ライフルの弾が切れたのか、温存しているのか、真島さんはハンドガンに切り替えていた。


『ライフルの弾が切れた、カバー頼む』

『くっそ、応援はまだ来ないのかっ!』


 全くその通りだ。いつになったら援軍が来る。


「優依」


 不安に駆られ、優依の名前を呟いたその一瞬の間に、鋭利な牙の並んだ大口を開けたとかげが真横にいた。

 認識の遅れが致命的だ。銃を向けても間に合わない。

 優依の側にいたい。だから死にたくない。

 その想いが通じたのか、とかげは頭から緑色をした血液を噴き出し地に伏した。


「弾切れの救世主、平田さんだぜ」

「弾切れでどうやって戦うんだ」

「まだ残ってるよましまっちゃん。でなけりゃ今頃村田君死んでるよ」


 僕としたことが迂闊だった。

 でも、死ぬかもしれないと思ったら怖かったんだ。仕方ないだろう。


『生きてるか? 応援に来てやったぞ』

『化け物ある所に味方ありってか?』

『冗談言ってる場合じゃない。味方は壊滅寸前だ。悪いな、遅れて』


 応援が到着したみたいだけど、僕らにはもう、まともに戦えるほど弾は残されていない。


「真島さん」

「言いたいことはわかる」

「まじか、お前ら。俺だってあんま残ってねえよ」


 本当に弾がなくなった時、どうすればいい。代わりに何かないか。

 グレネードの一個や二個、あればいいのにと本気で思う。

 これからの迎撃任務は指向性地雷でも持ってくるべきじゃないか?


『けいくん……。よくないお知らせ』

「なに?」

『飛行物体が作戦エリアに接近。到着まで時間はあるけど』


 どうやら悪運は尽きたらしい。

 ライフルの弾は使い切った。ハンドガンも残り三発だ。

 真島さんも同じくらいだろうし、平田さんもそろそろ切れるころだろう。


 敵に向けて撃てる弾は二発しかない。

 優依、本当にごめん。


 残りの一発は、自分を殺すためだ。

 これは覚悟じゃない。怖いから逃げたい。それだけだ。


 頭を狙って銃を構える。あとは引き金を引くだけなのに、その引き金が重い。

 やらなければと、引いた一発目は躱された、というより外してしまった。


 僕の不安や恐怖は真島さんや平田さんに伝わっているのだろうか。伝わっていない方がいい。

 もう一度引き金を引く。

 今度は命中したけど、仕留めることは出来なかった。


 震える手を引っ込めて、手に持った銃を見下ろす。


『けいくん。生きて、帰ってきて? お願い』


 再び手を伸ばして引き金を引いた。

 放たれた弾丸は、とかげの額を穿ち葬る。

 これで本当に弾がなくなってしまった。


『作戦参加中の部隊へ、作戦エリアへ飛行物体が接近中。注意せよ』

『もう無理だ。消耗が激しすぎる。撤退の許可を』

『遺憾ながら許可できない。増援と補給部隊が急行中だ』


 死体を探せ。

 死体は弾を持っているはずだ。


「戦闘中の味方を確認、援護する。そちらの状況は?」


 死んだとかげの影から味方が現れる。

 彼らから弾を奪えば、いや、彼らはまだ生きている。そんなことする必要はない。


「自分と彼は弾を使い切った。戦闘可能なのは彼だけだ」

「ましまっちゃん、俺もこのマガジンが最後だ」

『こっちも味方を見つけた。援護する』

「了解。味方を探しつつ合流するぞ」


 しばらくは味方に任せることになりそうだ。

 楽でいいけど、いざという時弾がなければ食い殺されるしかない。


 迫りくるとかげの他、死体がないか、いや、マガジンポーチが落ちていないかと、地面にも気を向ける。

 見つけたとしても下敷きになってれば回収なんかできないけど。


『味方を確認』

「了解、援護しろ」


 弾は補充できなかったけど今はどうにかなりそうだ。

 今を生き残り、補給部隊さえ到着すれば弾薬はいくらでも補充できる。

 この後どうなるかわからないけど、ひとまず今は優勢のはずだ。

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