第三話 降る御柱 前編
本日もめでたく待機だ。
やはり戦闘の方が僕は嬉しい。優依が僕だけを見て僕の事を考えてくれてヘッドセット越しではあるものの僕のために言葉を紡いでくれるから。
とはいっても、願わくばもう二度と来ないのが理想だ。それならば戦う必要もなく側にいられる。
何事もない平穏か、それとも休むことない戦闘か、僕が望むはそのどちらかだ。
現在の戦況は芳しいとは言えないかもしれないものの絶望的ではない。少なくともこの基地は。
水、食料、弾薬といった各種物資を補給することができ、民間人の救助は有能な自衛隊の方々が行ってくれるので休息もとれる。
「出動要請。正体不明の物体の落下を確認。現地の自衛隊から受けた報告では、対象は細い棒状で塔のような形状をしており現時点では静止している模様。繰り返す。出動要請。正体不明の物体の落下を確認。現地の自衛隊から受けた報告では、対象は細い棒状で塔のような形状をしており現時点では静止している模様」
スピーカーから淡々とした声で指令が下ると、新しい奴が来たと少しばかりざわついていたが、隊員たちは流石という速さで支度を済ませ、現地へ向かう。
「観測班からの連絡では敵に動きは見られず、ドローンと同様に人間の接近に反応し起動するタイプの兵器と思われる。自衛隊と共に狙撃部隊を展開し、AFVと狙撃部隊による先制攻撃で目標を撃破する。我々の任務は主に不測の事態における狙撃部隊の護衛だ」
狭い車内に了解と声が響く。
作戦を聞いていると、今回は優依の声が聞けないかもしれないようにも思え、それが嫌だった。
楽な任務ではあるが、優依の声が聞きたいそれだけのために、少しくらいは不測の事態とやらが起きるのを願う。
しかし考えてみれば、終始雑談できるということだろうから悪くないどころか、寧ろそちらの方が平和的で、楽しそうでいい。
目標地点まで移動していると、大きなエンジン音が聞こえてきたので戦車部隊も到着したようだ。
樹木や建物の影でずっと見えなかったものが、建物の隙間から先端部だけ僅かに見えた。それは透明な黄緑色で、ガラスかプラスチック、或いは水晶のようだった。
「クリケット1より本部へ、全車目標地点へ到達。攻撃可能」
「了解、合図を待て」
無線を聞きながら片側一車線の道路を通り、団地の側にある公園に僕たちの分隊は展開する。
それから間もなく部隊の展開が完了し、攻撃の用意が整ったと無線から聞こえてきた。
「了解。目標への攻撃を開始せよ」
「クリケット1、了解。全車、攻撃を開始する」
「歩兵部隊、俺たちに任せておけ。敵は一機だ。すぐに終わらせてやるよ」
「これだけ揃っているんだ、木端微塵に吹き飛ばしてやるよ。無防備に一機だけ送り込んできたこと、後悔させてやる」
実に威勢のいい言葉が聞こえてくる。
歩兵との火力差を考えれば、当然と言えば当然か。
「全車、砲撃開始」
それを合図に、前方からは砲音と爆発音、上からは銃声が聞こえてくる。
「こちらクリケット1、目標への命中、損傷を確認。攻撃を続行する」
「おい、なんだよあれ」
無線から叫ぶような声が流れてきた。
「目標付近に、敵性生命体と異なる正体不明の生命体が出現」
どうやら、不測の事態、が発生したようだ。
「狙撃部隊より本部へ、怪物はライフルで対処可能、ライフルで対処可能」
「どうした、どうなっている、状況を報告しろ」
「スカウトより本部へ。目標付近、空中より多数の生命体が出現。生命体は四足歩行でとかげのような形状。現在は狙撃班が抑えているものの数が多く、戦線維持は困難」
「了解。……、仕方ない。作戦中止だ。直ちに増援を送る。タンク、後退しろ。歩兵もタンクを援護しつつ――」
その時だ。空が橙色に染まるとともに、爆発音が重く響く。
「クリケット1より本部へ、目標の破壊に成功、目標の破壊に成功」
「よくやった。スカウト、生命体はどうなっている」
「こちらスカウト、依然数は多いですが新たな出現は確認できません」
「了解。歩兵部隊、任務変更だ。タンクと協力し、生命体を殲滅しろ」
薄々気付いていたが、やはり戦闘することになるらしい。
「聞いた通りだ。任務変更、とかげを狩りに行くぞ」
分隊長に続いて戦車のいる戦線へと前進する。
道の向こうから、さそりのような尻尾を掲げるとかげのよ?