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少年と少女と侵略者と  作者: プレイヤー1
プロローグ
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プロローグ

 装備の重さをずしりと全身で感じ、緊張で口の中が渇く。

 つい先刻まで聞こえていた銃声もなにも聞こえなくなり、はぐれてしまった仲間の何人かが殺されたことは嫌でもよく分かった。


 それでも僕は生き残らなければならない。

 ヘッドセットの向こうから語りかけてくれている彼女の為に。

 現在の情報を仕入れることに躍起になっている司令部よりは、彼女の声の方が僕にとっては大切だ。この通信が切れるまで僕は死ねないし、切れた時が僕の死ぬ時だ。


 今、側にいる仲間の一人はどうせ死ぬなら敵の一人や二人くらい道連れにしてやると憤り、一人は撤退の指揮すらできないのかと司令部の文句を言い、一人は生きて帰れますようにと祈っている。

 増援部隊は敵性生命体と交戦し到着するかも怪しく、いつ目の前に敵性生命体が現れ殺されるかもわからない状況なのだから、きっと彼らの方が正しいのだろう。


 建物の中に隠れているが、向こうが建物を爆破してこないとも限らない。

 こちらから見えないだけで常に見張られている可能性もあり、下手に動くことは却って死を早めるだけだろう。


 僕たちが動かずに様子を伺っていると、再び銃声が聞こえてきた。音から察するに先制攻撃を仕掛けたのだろう。

 それはすぐに鳴りやみ、一体撃破と冷静な声で通信が入る。

 これを契機に別の場所でも銃声がなり、離れたところからは爆発音まで聞こえてきた。


 敵性生命体の数がどれ程なのかは分からないが、時に冷静に、時に喜々として撃破報告が上がる。

 側にいる仲間も道連れを望んでいた彼は興奮し、文句を言っていた彼は闘志を燃やして出て行った。

 すぐに殺されると思っていたものだから、彼らの口から撃破報告をあげられたときは驚いた。


 あちこちで鳴り渡っていた銃声が徐々に小さくなっていっているという事はどういうことか、説明なんか不要なほどわかりやすいものだったが、思いの外仲間は善戦しているようだった。


 特に、最初に動いた彼の声はもう四度目になる。

 二度も聞くことがないことを鑑みれば、まさにこの戦場の英雄だった。

 そんな彼もほかの仲間と同じで、弾薬切れという問題に直面し再び身を潜めることになった。


 撃破報告は全部で十二、元々向こうは我々程の数はいないことを踏まえると、残った仲間で集まり、二部隊、三部隊程度に分けれて各自撤退すればどこかの部隊は生き残る可能性があるか。或いは、仲間を見捨てて離脱するか。


 彼女はどうすれば喜んでくれるだろう。

 可能なだけ多くの敵性生命体を葬り、可能なだけ多くの仲間が生還すれば喜んでくれるだろうか。

 通信で問いかければすぐに解決するが、言葉を飲み込む。


 やってやろう。目を瞑り、戦場へ駆る決意をする。

 小型の双眼鏡を覗き周囲を確認すると二百メートル程離れたところにある交差点に、赤いラインの入った白い装甲を纏う体長十七メートル程の人影が三体確認できた。


 全員が暗い青色をした細長いライフルを携えている。

 それが彼らのアサルトライフルに相当する武器だ。

 今装備しているプロテクターなら彼らの弾であれば二発程度は耐えられる。頭に当たればはじけ飛んで即死だが。


 仮に僕が左手を失い帰還した時、彼女はどんな反応を示すだろう。考えただけで動悸が激しくなり、不自然な笑みが零れる。

 未だに祈り続ける彼に出ると伝えると付いていくと言われた。


 敵性生命体の装甲が頑強だといえど破壊できないわけではない。外さずに効率よく頭部を狙い続ければ残っている弾全てを打ち尽くした時には十体近くは片付けられるだろう。

 視界に入らないようにビルの影に隠れながら接近する。


 まず潰すのはこちらに正面を向けている奴だ。撃ってくるまでのラグが小さい相手から相手をしていく。

 頭部に狙いを定め引き金を引く。


 宇宙服としての機能もも兼ねている装甲、そのヘルメット部分に命中するが破壊までは至らなかったのか、三体全員が距離を取りビルを盾に隠れてしまう。

 一度後退し、細い路地を通って追跡する。


 どこへ向かい進んでいるのかは分からなかったが、銃を構え潜む二体目を捕捉し、相方へ合図を送って二人で頭部へ銃撃し撃破する。

 もしかすると、彼の方が命中精度が高いのかもしれない。


 残りの二体がこちらに向かってくることは目に見えているので、奴らの通れない細い路地を通って場所を移す。

 彼女が心配そうな声で僕の名前を繰り返し口にする。

 申し訳ないが、もう少しだけ、後一体を仕留めるまでは相手をせずに呼び続けてもらう。


 置かれていたごみ箱を横にして蹴りを入れる。

 蓋はすぐに外れて倒れ、ごみ箱もビルに当たってすぐに止まる。

 相方にはすぐに隠れるよう指示し、僕自身もすぐに身を潜めると三体目が様子見にやってきて、一体目はその後ろを通って行った。


 挟み撃ちにでもするつもりなのだろう。

 牽制のつもりだろうか数発撃ちこんできて、置かれていた荷物の中身どと思われる雑誌の切れ端や漫画の一ページが目の前の宙をを舞う。


 相方に後ろを警戒するようにサインを送ると、相方が振り向いた瞬間にそいつが現れ、彼は驚き声を上げる。

 無駄弾が出たがまたも仕留めきれず、その上弾倉の交換を余儀なくされる。


 しかし何を思ったか僕が手を伸ばしたのはそれではなくハンドガンだった。

 それを構えて撃った時、ビルの影から顔を出した一体目に命中し、壊れかけたヘルメットを穿ち、隙間から赤紫色の液体が零れ出る。


 奴は呻き声のようなものをあげながら手でそこを覆い、その場にしゃがみ込んだ。

 何か嫌な予感がして僕は場所を移しリロードするが、相方は今が好機と倒れた奴へ発砲する。そこへ、僕たちのではない発砲音と共に弾が撃ち込まれる。


 確認するまでもない。彼は死んだ。


 リロードを終えると、再び狭い路地を通って場所を移す。

 戦闘音を聞いた他の敵性生命体がこちらへ向かってきているかもしれない。

 二体、いや三体までは捌けるかもしれないが、それ以上になれば流石に一人では無理だ。


 こちらにも仲間が残っている。そう信じて戦うほかない。

 敵の位置を確認し、ビル陰から飛び出して姿を晒す。

 敵の位置を今見たばかりの記憶に頼り、ろくに照準も合わせず乱射する。


 頭部に、腕部に、胸部に当たって赤紫の液体が滴るが殺すことは出来ず、構えられる前に身を隠す。

 命中精度は高くなく撃った弾も少なくないが、負傷させることくらいは出来た。

 敵性生命体の言語は理解できないが、文句でも言っているのだろう。その声がだんだん近づく。

 隠れながら後ろをとれればいい。


 僕が先にいたところに着いたのだろう、叫び声のようなものが聞こえた。出て来いよとでも叫んでいるのだろう。

 ビルに八つ当たりでもしているのか、銃を連射する音も聞こえる。


 残り少なくなった弾倉を交換し、漫画に出てくる火星人のように顔が赤くなっているであろう敵性生命体の頭へ銃弾を浴びせる。

 相方のもとへと戻ると、頭と右腕、それから左足が欠損した死体が転がっていた。

 ポーチが破損していないことを確認し、弾倉を一本抜き取って謝辞を述べる。


 ここまで来てようやく僕は損害と撃破数の報告を行った。

 ちゃんと返事をして、そんな言葉を噛み殺したような間が空いた後、安堵の声が聞こえる。

 わずかな間だったが共闘してくれた相方に別れの言葉を残して次へ向かう。


 どこへ向かえばいいのかいまいち分からなかったが、途中で銃声が鳴り始め、戦闘が始まったことを悟る。

 図体の違いもあるだろうが、先に発見したのは味方ではなく敵性生命体の方だった。

 ハンドガンを構え、ビルの影から味方に攻撃を加えている対象を狙う。


 命中しても当然大したダメージは与えられず、他の敵から今度は僕が狙われる。

 撃たれたくなんかないので身を翻して後退し、近くにあった建物の裏口の鍵を破壊して中に隠れる。

 今戦闘中の敵性生命体が何体いるか知らないが、たった一人の僕に人員を割くくらいには集結しているのかもしれない。


 それを真正面から相手取らなければならない味方はさぞや地獄だろう。

 先刻は相手が三体こちらは二人で包囲されることがなかったからよかったが、今は別だ。状況が悪い。

 救援を求める通信が入るが、どれくらいの仲間が生きているかも定かではない。


 まだ張り付かれているのか試すために、ドアノブを回し、掃除用具と書かれたロッカーから取り出した箒でゆっくりと開ける。

 閉じこもった単独の相手など脅威とみなされなかったのかドアが吹き飛ぶことはなかった。


 目標を探す必要なんてない。すぐ近くにいくらでもいる。

 味方に夢中になっている奴の頭に銃弾を叩き込み、建物の後ろに隠れる。


 すると、がりがりとコンクリートが擦れる音が聞こえたので音のする方を見ると、一体の敵性生命体がぎりぎり通れるとふんだのか、こちらに迫ってきていた。

 僕は動かずにハンドガンを構えて待つ。

 がりがりという音が近づき、やがて敵のライフルが目の前に現れる。


 ハンドガンに残っていた全ての弾を使い切ってそれを破壊する。

 持っている武器に弾丸を撃ち込まれる衝撃はやはり大きいのか、声が聞こえた。

 反撃はおろか、戻ることも進むことも出来なくなったとしても容赦はしない。当然だ。生かしておく意味などないのだから。


 かろうじて動く右手で必死に防ごうとしていたが、今ではだらりと垂れ下がっている。

 腕が邪魔だったとはいえ、今のように一体に一個マガジンを消費していれば、後二体しか倒せない。

 ライフルを構え、敵の死骸を盾に引き金を引く。

 仲間の死骸があっても平気で銃撃してくる奴もいたが、そういう奴は味方が処理してくれた。


 アサルトライフルの弾が切れ、ハンドガンのみとなる。

 敵性生命体の数は減っているがこちらもそれは同じで、それだけではなく疲労や弾切れといった問題も起き始めているはずだ。


 しかし味方の火力は安定しているように感じる。

 援軍到着の通信も入っておらず、ここからでは向こうの状況も確認できないのでどういうことかと問いかけると、英雄たちだ、と。


 先程弾切れで後退したと言っていたが、死んでいった仲間の残した弾を回収でもしていたのだろう。

 戦闘を見てみると、建物や死骸を利用して英雄たちは接近して撃破していく。

 僕は彼らが相手している目標以外を狙い、注意を引き付ける。


 接近すれば確かに威力は上がるのかもしれないが、保身の為にすぐ身を隠してしまう僕にはまねなんか出来ないししたいとは思わなかった。

 彼らはそのまま敵戦力を撃滅し、ここでの戦闘は終わりを迎える。


 結局、大した戦果は挙げられなかったが、可能な限りの生存者と可能な限りの敵性生命体の撃滅は果たされたわけだ。

 あまり、誇れるものではないかもしれないが。

 僕は帰途で彼女の顔を思い浮かべていた。戻ったときどんな顔をしているのだろう、と。

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