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7:交渉

 ヒサの活躍で無事に村の中に入らせてもらう事に成功した。


 その村で一番大きい家の中で、俺達は話し合いをする事になった。


 家の中は割と広く、木で出来た机や椅子、棚などがある。


「それでは、皆さん。そちらにおかけ下さい」


「失礼します」


 村人からケネスと呼ばれていた長老の指示に従い、端から順に、俺、ヒサ、アミュラルで座り、対面にケネスさん、ヒサを庇った少女、アドルフと呼ばれていた見張り役の男性の順で座る。


 チラッと家の外を見ると、先程確認できた村人達全員が家の玄関からこちらを見ていた。


 なんか雰囲気が圧迫面接みたいだ。


「……それで、ウチの村に魔物が何の用だ?」


 アドルフさんが、こちらを睨みつけながら話を始める。


「……先程申し上げた通り、食料を分けて頂きたいんです」


「はっ、どうだか?村を襲って奪うつもりだったんじゃないのか?」


「ちょっと、アドルフさん!まずは話を聞かないと何も始まらないでしょ!?」


「……す、すまん……」


 隣にいた少女に怒られると、アドルフさんは大人しくなった。


 もしかして、アドルフさんの娘さんだろうか?


 でも、どこからどう見たって似てないんだよなこの2人。


 アドルフさんは筋骨隆々の体に、肌が少し焼けていて、スキンヘッドの頭に犬の耳が生えていた。獣人という種族か。


 それに対し、この少女はスラリとしたスタイルに腰辺りまで伸びているストレートの金髪。それに耳が尖っていた。エルフという種族だな、多分。


 俺が2人を交互に見ていると、その視線に気付いたのか、エルフの少女がこちらに話しかけてくる。


「自己紹介がまだでしたね。私はフリールと言います。そして、こちらが長のケネスさん。そしてこちらがアドルフさんです」


 やっぱりケネスさんは長だったか。


「こちらも自己紹介をしましょう。自分はアサヒと言います。こっちが妹のヒサ。その隣がサキュバスのアミュラルです」


 こちらも自己紹介を終え、さっそく本題に入る。


「アサヒさん。食料を分けて頂きたいとなると、あなた達は冒険者なのですか?それに、何故サキュバスと一緒にいるのでしょうか……?」


「いえ、冒険者ではありません。サキュバスと一緒にいる理由はですね……」


 一瞬、本当に正体を打ち明けてもいいかどうか迷い、ヒサとアミュラルの方を向くと、2人とも頷いて「話しても大丈夫」という事を伝えてくる。


「……実は、自分、魔王なんですよね」


 正体を打ち明けると、話を聞いていた対面に座る3人はポカンと口を開けて何も反応しなかった。


 数秒後、感情を思い出したかのようにフリールさんは話し出す。


「い、今、ま、まお、ま、魔王って言いました?」


「はい。魔王です」


「じょ、冗談ですよね?」


「本当です」


 その会話からまた沈黙が始まってしまい、3人は固まったままだった。


 うーん。どうしたものか。

 とりあえず、敵意は無い事を言った方が良いか。


「魔王として活動していますが、あなた達に危害を加えるつもりはありません。安心して下さい」


 そう伝えると、また感情を取り戻したかのようにフリールさんは話し始める。


「……えっと、魔王って事は、まさか、この村の近くに突然出来たあの大きなお城って……」


 あー。その城って俺が造ったやつだな。


「はい。自分の拠点です。ご迷惑でしたか?」


「いや、その、迷惑なんてそんな……っていうか……その、え……?」


 フリールさんは完全に混乱してしまったようだ。


 まぁ、それもそうか。突然目の前に魔王が現れたら混乱するよな。


 混乱したフリールさんの代わりにケネスさんが口を開く。


「な、何故魔王様のようなお方が我々の村に食料を……?」


 ケネスさんは若干震えながら話す。


 もしかして、魔王と打ち明けたから怖がっているのか?


「本当は魔力で生み出すつもりが、今日の分の魔力を別の事に消費してしまい、食事を造る事が出来なかったんですよね。食事を取らなくても自分達は我慢できますが、妹がうるさくて……」


「……ごめんなさい……」


 ヒサは素直に謝り、頭を下げる。


 しっかり謝って偉いな、そう思っていたが、頭を上げる瞬間に思いっきり睨まれた。


「……とまあ、そう言う訳なので、食料を分けて頂けませんでしょうか?勿論、お礼はします。まぁ、今は魔力が無いので明日になりますが……」


 そう言うと、ケネスさん達は3人で相談し始めた。


 しばらくすると、アドルフさんから質問が出た。


「一つ確認したいんだが……お前は本当に魔王なのか?」


 ……やっぱり、いきなり魔王です、って言っても信じられないか。


「はい。魔王です。何か証拠を提示したほうがよろしいでしょうか?」


「いや、まあ、信じられないのもあるんだが、とりあえず証拠はいい。だが、もしお前が魔王だとしたら、普通に考えておかしいんだよ」


 ……おかしいって何だ?


 確かに、魔王としての格好にジャージはどうかと思うけど。


「まず、何で村を襲わない?魔王だったらそれぐらい出来るはずだ。それに、交渉するにしても、何故武力を示さない?圧倒的な力を見せつければ、不平等な交渉だって出来るだろう」


「あー……」


 確かにそうだろうな。


 だが、俺はそうしたくない。


 立場の弱い人間の気持ちはよく理解しているからな。会社で。


「過去に色々と苦労がありまして…………その経験から、あまり乱暴なことはしたくないんです」


「……そ、そうなのか……」


 納得する答えでは無かったのか少し声色に疑問が残っていたが、再び聞いてくる事は無かった。


「……それで、食料を分けてもらう事は可能でしょうか?無理なら直ぐにでも撤収しますので……」


 また何か質問をされると困るのでさっさと本題に戻る。


 しばらく3人は相談すると、ケネスさんが話し出す。


「あの……他の者と話し合いをさせて頂く事は可能でしょうか?」


 3人だけでは判断できないと思ったのか、ケネスさんはそう提案してくる。


「勿論です」


「ありがとうございます。それでは、魔王様方はここで休んでいてください。我々は外で話し合いをしますので……」


 そう言うとケネスさん達はこの家を出ていき、村人達と話し合いを始めた。


 少し離れた場所で話し合いをしている為こちらに声は聞こえない。


 つまり、こちら側が話をしても村人達には聞こえない。


 その状況が出来た所で、ヒサがドスの聞いた声で睨んでくる。


「……おい。『無理なら撤収』って、無理って言われたら我の食事はどうなるんだ?あぁ?」


 怖い!顔が鬼みたいになってるって!


「し、仕方ないだろ!友好的な関係を築く為にはそうするしか無いだろ!」


「……それもそうだが……よし、わかった」


 ヒサが何か閃いたかのような顔をする。


「もし食料を分けてもらえなかったら、アサヒは我の言う事を何でも1つ聞け」


「はぁ!?そんなのむ……」


 俺が反論しようとすると、ヒサは俺の顔に急接近し、耳元で囁く。


「……無理じゃねぇだろ?大体、お前が生きてるのは誰のお蔭だと思ってるんだ?あぁ?」


 そう。俺がこの世界で生きているのはヒサのお蔭。


 ヒサが俺をこの世界に召喚しなければ俺はとっくにあの世で暮らしている。


「……そうだったな。分かったよ。何でも言う事を聞く……」


「当然の答えだ」


 ヒサは俺から離れると、元の位置に戻る。


 そのタイミングでケネスさん達が戻ってきた。


 ケネスさん達は元の席に座ると、こちらをジッと見る。


「それで、どうでしょうか?食料の方は……?」


 俺が食い気味に聞くと、ケネスさんでは無く、フリールさんが口を開いた。


「どんな方であろうと、困っている人を放ってはおけません!ぜひ、食料を持って行ってください!」


 まさかのOK。これは意外な結果だ。


「本当ですか!?ありがとうございます!」


「お姉ちゃんありがとう!」


 俺とヒサは精一杯の感謝をした。


 その後、村人達から様々な野菜を貰った。


 その時若干名睨んでくる者もいたが、スルーだ。


 俺達は手に沢山の野菜を抱え、村の出口に立つ。


「本当にありがとうございました!それでは、明日にはお礼を絶対持ってまた来ますので、よろしくお願いします!」


「はいっ!楽しみにしてますね!」


 フリールさんは満面の笑みを向けてくる。


「お姉ちゃん!また明日ね!」


「うんっ!また明日!」


 ヒサとフリールさんはお互いに手を振り合い、遂に俺達はダンジョンである城へと帰る。


 村人達の姿が見えなくなると同時に、ヒサは可愛らしい無邪気な笑顔からヤンキーみたいな怖い顔に変貌する。


「……子供を演じるのは疲れるな。特に顔が疲れる。何で面白くも無いのに笑わなければならんのだ?」


「そう言うなって。野菜を貰えたから良かったじゃんか」


「……それもそうか。それじゃ、アミュラル、我の分の食料を持て。アサヒ、我をおぶれ」


「また始まったよ……」


 ヒサは持っていた野菜を全てアミュラルに託した。


 そして、俺にかがむように指示をする。


 だが、俺はそれを受け入れられなかった。


「待て。俺は野菜を持ってるんだぞ。どうやっておぶるんだよ?」


 俺の両手は野菜で塞がっている。


 この状態でヒサをおぶるとなるとヒサが危ない。


「アミュラルに野菜を預ければいいだろう」


 そこまでして俺におぶって欲しいのかこの元神は。


「という事だから、持ってもらって良いか?アミュラル」


「かしこまりましたわ」


 俺はアミュラルに野菜を渡そうとすると、アミュラルは俺の持っている野菜に手を翳して何か言った。


「『フロート』」


 アミュラルがそう言うと、俺の手の中にあった野菜は空中に浮いた。


「え、えぇ!?」


 ビックリしすぎて俺は間抜けな声を出してしまう。


 そんな俺の事など無視してヒサは俺の背中に飛び乗る。


「ただの魔法だ。いちいち驚くな」


「そう言われてもな……」


「いいから。さっさと行け」


 ヒサに促されたので、空中に浮かぶ野菜を眺めることも出来ずに帰り道を進む。


 しばらく歩き続けると、城の入り口の前に来た。


「……改めて見ても凄いな……」


 禍々しい雰囲気を醸し出す巨大な城。


 その入り口である巨大な扉を開けると、蝙蝠の羽をもった少年少女と漆黒の鎧を装備したイケメンが出迎えてくれた。


「「「お帰りなさいませアサヒ様。ヒサ様」」」


「お、おう。ただいま」


 未だになれないな。「上の立場」ってのは。今まで下っ端だったからなぁ。


「よし。早速飯だ。お、丁度良いところに座る場所が」


 ヒサは俺の背中から降りると、以前焼き鳥を食べる為に召喚した机とソファーに直行した。


 そのままソファーにダイブすると、ソファーに凭れ掛かる。


「アミュラル。早く食料をくれ!」


「かしこまりましたわ」


 アミュラルは浮遊した野菜をヒサの目の前の机に置くと、ヒサは生のままの野菜を齧った。


「お、おい!そのまま食うのか!?」


「は?そのままじゃ駄目なのか?」


 ヒサは野菜を齧りながら応答する。


「せめて洗わないとダメだろ!」


「へー。そうなのか。でも良いよ、面倒だから」


「いや、体壊すからやめとけって!これだけでも洗ってくるから……」


 俺は机に置いてある野菜の一部を持つと、自分の部屋の洗面台へと向かう。


「あ、お手伝いします!」


 後ろからヴァンスの声がしたので振り返ると、ヴァンスも野菜を持って来た。


 しかもヴァンスだけではなく、イヴェットとアミュラル、ギャラガミアまでもが来ていた。


「お、お前ら……」


「自分達も手伝います。いや、野菜を洗う作業は自分達に任せて、アサヒ様は休んでください」


「……本当にありがとな。でも、本当に良いのか?」


「勿論です。アサヒ様は外出でお疲れでしょう。なので、休んでいた方が絶対に良いです」


「わかった。それじゃあ任せようかな」


「かしこまりました」


 俺は自分の部屋をヴァンス達に預け、ヴァンス達は俺の部屋の洗面台で野菜を洗ってもらう事にした。


 俺はヒサの元まで戻ると、披露した足を休ませるべく、洗っていない野菜を齧るヒサの隣に座る。


「つ、疲れた……」


「我をおぶったくらいで弱音を吐くな。そんな事で疲れていたら、この先魔王としてやっていけないぞ」


 ヒサは野菜を齧りながら喋る。


「それにしても、アサヒが召喚した魔物達は良い奴等だな」


 確かに、それは同感だ。


 俺に忠実すぎて泣けてくるレベル。


「言っておくが、普通ならお前みたいなグダグダした魔王の下に召喚された魔物は、とっくにお前を殺して魔王の力を奪ってるぞ」


「え!?」


 マジ?俺普通だったら殺されてんの?


「当たり前だろう。上司がゴミみたいな奴だったらお前は仕えたいと思うか?尊敬できるか?」


「…………出来ないな」


 実際、日本にいた頃がそうだったな。


 確かに、部長には物凄くムカついたし、何度も殺してやりたかった。


 そう考えると、俺も部長と同じって事か……


「いいか?お前は普通の人間じゃない。神に選ばれた魔王だ。魔王とは、魔物の頂点に君臨し、圧倒的な力とカリスマ性を持つ者だ。そのことを忘れるなよ」


 圧倒的な力とカリスマ性か……


「……俺なんかに魔王が務まるのか……?」


「『務まるのか?』じゃなくてやるんだよ。我に選ばれたからには、世界一の魔王になってもらうからな。わかったか?」


「……わかった。精一杯頑張ってみる」


 魔王として召喚された以上、俺を生き返らせてくれたヒサに恩返しをしなければな。


「その意気だ!それじゃあまずは、格好からだな」


「え?」


「え?じゃねーよ。魔王がジャージ姿なんて有り得ないだろ。もっとこう……魔王っぽい、禍々しい服があるだろ?」


 確かに、ジャージ姿の魔王なんてダサすぎるな。


「見た目から入ってみるのもアリか」


「そうだ。そうと決まれば、魔力が戻る明日には、魔王らしい服装をする事!いいな!?」


「りょーかい」


 俺の返事を聞いたヒサは、齧っていた野菜の一切れを口の中に放り込んだ。

次からはもっと早く更新できるように心がけます……

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