4:周辺探索とダンジョン造り
アミュラルが周辺探索に出かけた後、城の中に部屋を3つ作った。
俺とヒサとアミュラルの部屋だ。
どうせならと思い、全ての部屋を高級ホテルのようにした。
翔也が旅行に誘ってくれた時に一度泊まったことがあるのでイメージは簡単だった。
試しに自分の部屋に入ってみる。
自分のイメージ通りの部屋が出来ていた。
広い部屋に高級そうなベッド、高級そうな照明、高級そうなインテリア。素晴らしい。それと、トイレと風呂も付いてる。どちらも高級そうな雰囲気を醸し出していた。
部屋の完成度に満足していると、俺のスマホが鳴りだす。
アミュラルからだった。
「アミュラルか。何か見つかったか?」
『ええ……アサヒ様のダンジョンの近くに小さな村がありましたわ。村人の姿を確認した所、獣人族の村みたいね』
「獣人族?もしかして、人間に耳とか尻尾とか生えた見た目の?」
『そうですわ』
へぇー。やっぱり異世界だと別の種族がいるのか。アミュラルも別の種族なのか?いや、魔物だっけ。
『この村にお城を攻め込めるほどの戦力は無いわ……ただ、勇者や冒険者達、騎士団を呼ばれると面倒くさいことになるわね。今から制圧でもしてみる?』
制圧か。確かに、この城の存在がバレて人間達が攻め込んで来たらマズいな。
ダンジョンも全然造ってないし、魔物もアミュラル一人しかいない。
こんな事だったら地下にダンジョンを造るべきだったな。失敗した。
「いや、まだ制圧はしない。アミュラル一人しかいないし、ダンジョンも全然造ってない。城が安定してからにする」
『わかりましたわ。アサヒ様』
アミュラルとの通話を切り、村をどうするか考える。
やっぱり制圧するべきなのだろうか。もし制圧に成功したとして、制圧したらどうすればいい?働かせるのか?何か嫌だな。無理やり働かせるなんて、ウチの会社みたいじゃないか。
そんなのはダメだ。
友好関係でも結ぼうかな。物資を提供する代わりに、ここら辺の冒険者や騎士団の動向を聞くか?
駄目だ。絶対裏切られる。魔王と契約と交わる人間なんていないか。
他の魔王は村を見つけた場合はどうしてるんだ……?
ヒサに聞いてみるか。
「ヒサ。一般的に魔王は村を見つけたらどうしてる?」
「皆殺しか奴隷にする」
「怖すぎだろ!?」
皆殺しと奴隷!?無理無理無理!俺にはそんな事出来ない!
「ま、日本から来たアサヒには厳しいか。村の事はアサヒの好きなようにやれ。先に言っておくが、放置は無しだ。冒険者や騎士団、勇者を呼ばれたら魔王生活は終わりだ」
放置すると冒険者達に通報されるのか。面倒くさい……
まぁ、今すぐ決めることでもないか。
アミュラルの他の報告を待つとしよう。
そうだ。アミュラルに食事を準備しておこう。召喚してすぐに任務を与えてしまったからな。
何にしようかな。個人的に和食が良いな……
~数十分後~
俺の個人部屋にヒサと一緒にくつろいでいると、アミュラルが探索から帰ってきた。
「ただいま戻りましたわ」
「おう。おかえり。それで、獣人族の村以外には何かあった?」
「遥か遠くに大きい街が見えたわ。それ以外には何も」
大きい街か……
遥か遠くにあるならしばらくは心配しなくてもいいか。ゆっくりとダンジョンを造っていこう。
「そうか。ありがとな。アミュラル。疲れてるだろ?ゆっくり食事でもしてくれ」
「……お食事ですの?ありがとうございます。アサヒ様」
アミュラルの為に用意した料理は、ザ・和食。
ご飯に味噌汁。焼き魚とほうれん草のお浸し。
俺は料理出来ないので、もちろん能力で出した物だ。
イメージの元となったのは、親友である翔也の姉の料理だ。
翔也の家に遊びに行った時に作ってくれた物。
あれは本当に美味しかったなぁ……
翔也の姉は物凄く料理を作るのが上手い。それに、美人。
初めて見た時は思わず見惚れてしまった。
だが、翔也に抱き着いて頬にキスをしてるのを見た瞬間に冷めた。
翔也を溺愛しているとわかったからな。
「……おい!アサヒ!聞こえてんのか!?」
「えっ!?」
やべ。昔の事を思い出してたらヒサの話を聞いていなかった。
「……はぁ。何を考えていたか知らんが、我にもあの料理を出せ。腹が減った」
「はぁ?焼き鳥食ったばかりだろ……」
「いいから。もう限界だ」
その小さな体でどんな胃袋してんだ……
言われた通りにヒサの分の食事を出す。
食事をヒサに渡すと、ヒサはアミュラルの隣に座り、食事をし始めた。
2人とも美味しそうに食べるな……って2人とも箸になれるの早いな!
アミュラルなんてヒサに所謂『あーん』をしていた。
元神様と魔物の適応力すご……
2人の適応力に感心していると、お腹が空腹を訴えてくる。
……俺も食べるか。
俺の分の食事を出し、二人の反対側に座る。
「いただきます……」
まずは一口。
うん。美味しい。
やっぱり日本人は和食だよねー。
しっかりと味わい、完食する。美味かった。ごちそうさまでした。
片づけをしながら、なんとなく部屋の時計を見る。
21時か……いつもは会社にいる時間だな。
いや待て。この世界は24時間なのか?
「何見てんだ?あぁ、時間か。安心しろ。この世界も24時間だ」
そうなのか。だとすると、寝るまではかなり時間があるな。
何しようかな……
「おいアサヒ。暇ならダンジョン造りだ。もし明日ギャラガミアを召喚するんだったら、魔力が回復する前にギャラガミアの分の部屋と冒険者用の罠とかを今日中に造れ。魔力を貯めるというのもありだが、まだ魔王生活は始まったばかりだ。貯めてる余裕なんてない」
「あら。暗黒騎士ギャラガミアを召喚するんですの?それは楽しみですわね」
早速お仕事ですか。
自分の部屋を出て、ダンジョンを造りに行く。
まず、ギャラガミア用の部屋か。俺達と一緒のデザインの部屋でいいや。
アミュラルの隣にもう一つ部屋を出す。マジでホテルみたいになってきたな。
後は……冒険者用の罠だな。
出来れば殺したくないんだよなー。血を見たくないし。グロそうだしな。
そうだ。城に入ったすぐの部屋をトリモチ地獄にしよう。あまりのウザさに帰ってくれるかもしれないしな。いや、トリモチに引っかかったら帰れないか。
まぁ、殺さないからいいだろう。
早速、城の入り口付近に部屋を作り、地面を全てトリモチで埋める。
これでいいや。あ、魔法とかで突破されたら嫌だな。せっかくのトリモチが無駄になる。
魔法を無効化するって事は出来ないのか?
そう考えると、俺の目の前に四角い銀色の宝石が現れる。
「何だコレ?」
「《魔封じの領域》ね。魔法使いからしたら、この世で一番最悪な魔道具よ」
俺の疑問に答えてくれたのは、俺の部屋から出てきたアミュラルだった。
それと同時にヒサも部屋から出てくる。
「これはどんな能力を持つんだ?」
「そのままの意味よ。その宝石のある近くでは魔法は一切使えなくなるの。だから、魔法を主力としている魔法使いからしたら最悪の魔道具なの」
え。そんなチートみたいなアイテムが存在していいのか?
魔封じの領域を全ての部屋に置いておけば魔法対策はバッチリじゃないか。
「じゃあ、全ての部屋に魔封じの領域を仕掛けて置いた方がいいか?」
「いや、出来ない。その魔道具は魔王1人につき1個限定だ。そんな事が出来たら、魔法使いという職業は需要が無くなる」
そう言いながら、ヒサが俺の部屋から出てくる。
ですよね。それが出来たら魔王最強か。
「ちなみにだ。その魔道具は1度でも部屋に付けたら、その部屋から取り外せなくなる。だから、ほとんどの魔王は自衛の為に自分の部屋に置く事が多い」
自分の部屋で魔法が使えなければ、もし人間達に追い詰められても魔法による攻撃は受けなくて済むという事か。
「1つ思ったんだが、それだったら、ダンジョンの入り口に魔封じの領域を置いて、魔法を使わないと通れない部屋を設置したほうが良くないか?そうすれば冒険者達はダンジョンに入ってこれないだろ」
「……アサヒはつまらない事考えるな。そんな事やったら、神界中の魔王使いと勇者使いの反感を買うぞ。いや、それだけじゃ済まないな。多分ボコボコにされて殺される」
「絶対にやりません」
魔王らしく、しっかりダンジョンを造れって事ですか。
それじゃ、トリモチゾーンはこれくらいにしておこう。
さて、次はどんな部屋にしようかな。
そうだ。トリモチで苦戦してもらったお詫びにお風呂に入れてあげよう。いや、熱湯風呂に入れてあげよう。
決定。トリモチの次は熱湯ゾーンだ。ネバネバな上にアツアツとか最悪だな。ま、いいか。殺さないだけありがたく思ってほしい。
全面トリモチのエントランスを抜け、次の部屋を造る。
そうだな……絶対に熱湯に入ってほしいから、熱湯のプールにしよう。そうだ。天井を水面ギリギリにして、熱湯の中を潜らないと進めないようにするか。
ここまでしとけば冒険者の事は心配しなくてもいいだろう。
もしトリモチと熱湯を突破して来たとしても、男の冒険者ならサキュバスであるアミュラルの能力で操って、そのまま帰宅させられるから大丈夫だ。
女の人だった場合は……スイーツでも渡して帰ってもらおう。
よし。後は寝るだけだ。
熱湯部屋の壁の一部を一旦破壊し、通り抜けてから修復する。そして、そのまま自分の部屋へ直行。
今頃気付いたが、ヒサとアミュラルは側にいなかった。何処に行ったんだ?
いつの間にか2人の姿が見えない。
もう自室で寝たのかな。まぁいいや。俺も寝よう。
自室の扉の前まで来ると、中から声が聞こえてきた。
この声はヒサとアミュラルだな。俺の部屋で何をやっているんだ?
扉を開けると、真っ白い表紙の魔物が載った本、魔物カタログを見ながら話し合っているヒサとアミュラルの姿があった。
どうやら、アミュラルから色々と意見を聞いているらしい。
「インプはどうかしら?召喚の為に必要な魔力が少なくて良いと思いますわ」
「そいつは強いのか?」
「戦闘力は少ないと思いますが……複数召喚出来る魔物なので……」
俺が部屋に入ってきたことで、2人の視線は俺に向く。
「あら、アサヒ様。おかえりなさい」
「お。アサヒ!どうだ?ダンジョンは出来たか?」
「床がネバネバの部屋と熱湯の部屋だけ作っておいた。とりあえず今日はこれくらいにしておく」
「ナイスだ!後で出来を見せてもらおう。それよりも魔物だ魔物。ダンジョンの警備が少なすぎる」
確かに少ないな。俺含めてこのダンジョンに居るの3人だし。
いや、少ないどころじゃない。圧倒的に足りない。
「頭のおかしい奴は夜にダンジョンに来るからな。寝ている間に死ぬのはご免だ。だからアサヒには、これから警備用の魔物を召喚してもらう」
夜にダンジョンに来る奴がいるのか。なんて迷惑な。
安心して眠ることも出来ないじゃなか。
もっと魔物とダンジョンの罠を増やさなければ。
「我とアミュラルで候補は出しておいた。ダンジョンを造った時の余りの魔力でも召喚出来る程度の奴をな。まずは……ヴァンパイア。セットで眷属の蝙蝠も付いて来るぞ。ただ、夜しか行動できない」
リザードマンと同じで、部下がいるという事か。
ただ、夜しか行動できないのは困るな。
夜間警備員としては優秀なのかもしれないけどさ。
「次に、前にアサヒが候補として挙げたリザードマンだ。配下にポイズンリザードを使役できる。コイツは昼でも活動できるが、戦闘力は低い」
戦闘員というか、指揮官みたいな感じか。
ポイズンリザードは自然に多く生息する。つまり、リザードマン1体がいるだけで多くの魔物が手に入る。戦闘力は低くても、数で押し切ることが出来るという訳か。
「最後に、インプだ。戦闘力は少ないが、一度の召喚で複数出てくることがある。出てくる数はランダムだ。数十体出てくることもあれば、一体しか出てこないこともある。ギャンブル性が高い魔物だな」
説明しながら、ヒサは魔物カタログに載っているインプの写真を見せてくる。
ヒサと同じくらいの年齢で、角と蝙蝠の羽を持った少年少女。
これを複数召喚するとなると……学校みたいになるな……
「まぁ、戦闘力は少ないと言っても、戦えない訳じゃない。インプの良い所は、人間の武器を扱えるという事にある。つまり、銃を持たせることが可能だ」
「……銃……とは何ですの?」
よくわからないと言った表情でアミュラルか聞いて来る。
そりゃそうか。この世界には銃は無いっぽいし。
アミュラルの疑問に答えるように、ヒサがデザートイーグルを取り出す。
「これだ。これは魔力を使わずに、火薬の力で金属の弾をぶっ放す武器だ。見た方が早いな」
そう言うと、ヒサは俺の部屋の壁を弾丸で撃ち抜いた。
「ちょっと!俺の部屋なんだけど!」
「このくらい能力で直せ。それよりも、アミュラル。今のが銃の威力だ」
「素晴らしいですわね……確かに、これならインプも強くなりますわね」
なんか誤魔化された気もするが、別にいいか。
撃ち抜かれた壁を修復しながら、考える。
銃を使う事も出来るのか。
確かに、ヴァンパイアの眷属は蝙蝠だから当然銃は使えない。
リザードマンも部下が蜥蜴だから無理。
だが、インプは人型。銃を扱える。
そうは言っても、見た目は完全に子供だ。俺でも扱えなかった銃を扱えるのかという疑問は残るが、ヒサが可能と言っているから扱えるのだろう。
となると、インプが1番強いのか……?
「それだけじゃない。インプと個別に話すこともできるな。そうすると、通信機を持たせることも出来る。他の2体の場合、蝙蝠はヴァンパイアとしか、ポイズンリザードはリザードマンしか話せないし、蝙蝠と蜥蜴は通信機を使えない。となると、インプが1番良いかもな」
なるほど。通信機、もといスマホを持たせれば非常時の連絡がすぐできるのか。
なら、もう決まりだな。
だけど、一つ疑問が残る。
「わかった。インプにしよう。だけど、一ついいか?」
「何だ?言ってみろ」
「本当に残った魔力で召喚出来るのか?今日はアミュラルを召喚したし、ダンジョンも作ったし、この魔封じの領域とかいう宝石も出したんだぞ?それに、インプ用の部屋も用意してない。魔力は足りるのか?」
「大丈夫だ。普通の魔王ならもう魔力が尽きていると思うが、アサヒには、我が強大な魔力を与えてやったんだぞ?大丈夫だ。安心しろ。だいたい、魔王になって1日目で召喚魔力が多いサキュバス召喚してる時点でおかしいから。なぁ?アミュラル」
「確かに、そうですわね。魔王になられてから1日目でサキュバスを召喚するのは一般的には魔力不足で召喚不可能だと思いますわ」
そうだったのか。本来ならゾンビとかスケルトンとかから頑張る予定が、いきなり強キャラを召喚してたのか。
……待てよ。神界では魔王召喚が流行っているんだよな?という事は、他にも神様の恩恵を受けている魔王は多いはず。
なのに、何故俺だけ他より多く魔力を持っているのだろうか。
「なぁ、ヒサ。他にも魔王召喚をしている神様がいるんだよな?何故俺だけ魔力が多い?」
「我が少し上位の神だった事もあるが、理由は別にある。それは、我は神界を追い出される覚悟で召喚したという事だ。他の神々は上の神々にサボって遊んでいるのをバレて神界を追放されるのが怖くて本気で召喚を行っていない。だが、我は追放されてもいいぐらいにお前を強化した。それが他の魔王より魔力が多い理由だ」
ヒサの神界追放と引き換えに、俺の魔力が多いって訳か。
なんか罪悪感が……
「申し訳ない……」
「いいんだよ。神界なんて居てもクソつまらないからな。そんな事より、さっさとインプを召喚しろ。部屋の事は気にするな。インプは我の部屋にでも泊めさせる」
「お、おう」
なんとなくヒサの事がわかったような気がする。
ヒサは自分が楽しむためならば自分の犠牲も躊躇しない感じなのかな。
……自分で言ってて意味わかんないけど。
まぁいい。ヒサに急かされていることだし、インプを召喚しますか。
「我が名の下に召喚する!来い!インプ!」
その言葉に反応するかのように、光の粒子が人の形を作っていく。
よく見たら、2つの形を作っていた。
という事は、2人だけか?
「あらら。召喚されたのは2人でしたわね」
「1人よりはマシだけど、得した感じは無いな」
言いたい放題だな……まぁ、俺も少しガッカリしてるけどさ……
徐々に輝きが消えていき、中からヒサと同じくらいの年齢の1人の少年と1人の少女が出てくる。
少年の方は、少女よりも背が少し高く、紫色の髪に角と背中に生えた蝙蝠の羽を持っていた。そして、美少年だった。
少女の方は、少年と同じく紫色の髪に角、背中に生えた蝙蝠の羽を持っていた。そして美少女。
見たところ、兄妹か?
若干似ているような似てないような……
そう思っていると、2人は俺の方を向き、跪いた。
「初めまして。魔王様。自分はヴァンスと言います。よろしくお願いします」
「は、初めまして!イヴェットです!よろしくお願いしまきゅ!」
……今噛んだぞ。