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異世界IN

異世界 IN 『南南□□□中中中發發發東東 東』 その3

作者: にゃむ

その3。


 ――どうしてこうなった?


 はっきり言って良くわからないことになっている。

 俺の向かいにはグレーウルフ、右側にはゴブリン、左側にスライムがいる。

 彼らは行儀良く卓に座っている。

 俺はポルタとか言う神さまから変なチートを貰って転生した。

 この力があれば俺は異世界で無双できるらしい。

 そしそのチートの内容は『強制麻雀』とかいう訳わからん能力だ。


 この能力を使うとどっからとも無く召喚した雀卓に相手を強制的につかせることが出来る。

 そして麻雀をしている間全ての攻撃が点棒のやりとりに変わるとか言うふざけた能力だ。

 

 『ツモ! リーチメンタンピンドラドラ 20符5翻 6本場で6600オールです』


 ――グルオオオオオオッ!

 ――グアアアアアアアッ!

 ――ピギィィィィィッ!


 点棒を奪われたことでモンスター共の体に傷が走った。25000点奪われると死ぬこの謎のゲームで6000のダメージは結構でかい。

 初手で連チャンできれば四回この攻撃を当てればほぼ殺せると言っていい。

 はっきり言って異世界の連中は弱い。ルールすら知らないんだから当然だろう。

 更に言えばモンスターには知能が無いため牌を切る動作すらもしない。

 なので、持ち時間の一分を過ぎるとツモった牌を自動的に切るこの動作によってしか順が回らない。ルールを知っているのは俺だけ。だから俺がロンされる心配は無い。ツモ上がりも無い。

 基本ダメージを受けない。

 見よう見まねでロンされてもチョンボが関の山だろう。

 ただ、一言だけ言いたい。異常なまでに戦闘に時間がかかりすぎる。

 俺以外の各人が一局に捨てる牌は二十前後。三人分で約六十分。

 一局打つだけで一時間。流局や安手ばっかりであがると時間が延びることこの上ない。

 俺もプロじゃ無い。元々学生の遊びの延長レベルだ。牌効率はお世辞にもいいとはいえない。

 その結果、朝からこいつらと仲良く卓を囲んで既に六時間ほど経っている。

 点棒は俺が基本的に掻っ攫っている。基本満貫手以上狙い。

 流局を避ける意味でもあまり難しい役は狙わない。

 しかし、六時間も一緒に過ごしていると不思議と親近感が湧いてくる物だ。

 そしてこの麻雀はデスゲーム。誰か一人の点棒を0にして飛ばすまでは決して終わらない。

 そしてこの能力は相手が3人いないと使えないかなり不便な代物でもある。


 俺は異世界に来て仕事を得るために冒険者になった。冒険者の仕事は魔物の討伐。

 初期状態で武器すらも持っていなかった俺はこのチートに頼るしか無かったのだが、このチートの不便さは前述の通りである。一日がかりでモンスター三体仕留めるのが関の山だ。一体を点棒で殺して残り二体は瀕死まで点数を削っておいてから木の棒などを使って物理手段で殺す。

 そしてこの世界の冒険者は一日に十以上はモンスターを狩る。言わなくてもわかると思うが、俺の稼ぎは非常に少ない。宿にすら泊まれずに路地裏生活。

 露天で最低限の食料を得るだけの最悪な生活だ。やはり武器が無いのは辛い。

 武器が買えるのならモンスターを狩る効率もあがって俺もこの生活を脱出できる。

 こんなチートを貰うくらいなら鉄の剣の貰った方がよっぽど良かった。


 『ロン!』


 更に三時間ほど掛けて俺はゴブリンにとどめの一撃を加えた。絶命するゴブリン。

 雀卓が消滅するタイミングを見計らってそのまま木の棒を手に手負いのグレーウルフに襲いかかる。最後にスライムを叩き殺した。 


 狩った魔物の素材を持って冒険者ギルドに。稼ぎは銅貨で三枚。銅貨三枚だと安宿に食事無しの素泊まりしか出来ない。宿に泊まれないから俺はいつものようにスラムへと向かう。路地裏の一角が俺の居場所だ。

 初めてスラムに入った日はごろつきに襲われたが丁度相手が三人組だったので『強制麻雀』の能力で返り討ちにしてやった。点棒を飛ばしたので一人は死んだ。

 残り二人は瀕死のまま放置してやった。

 以来残った二人に俺は危険人物だと思われたのか今の所財産目当てに襲われる事態には到っていない。奪われる財産も無いんだけどね。


 朝一で森に出かけてモンスターと強制麻雀。稼いだ僅かな金で食料を買うその日暮らしの日々。


 そんな生活を半年ほど続けたある日のことだった。

 

 俺の暮らしている街で初の『麻雀大会』なるものが開かれることとなった。

 考案者は教会の神父で神のお告げによってこのゲームを知ったらしい。

 元々娯楽が少なかったこの世界。

 麻雀は瞬く間に貴族の間へと浸透していく。

 

 ――俺は嫌な予感しかしなかった。

 俺の優位性が失われることがこの瞬間に確定したからだ。

 今までルールを俺しか知らないから俺は勝てたのだ。

 恐らくポルタとか言う神の差し金だ。

 俺がルールを知らない相手に勝ち続けるのが面白くなかったのだろう。


 そして間が悪いことに騎士によるスラム狩りがあった。大会前で人が集まるため安全性を保証する目的らしい。俺以外のスラムの連中による盗みや殺人が近頃街で問題になっていたからだ。

 しかし、スラムの連中に施しを与えて救うことはこの世界ではしない。

 殺すことで治安上昇を計る方が手っ取り早いからだ。

 そして、騎士の多くは貴族出身者で多くが占められている。

 そう、貴族だ。麻雀を知っている。


 俺は必死に騎士達から逃げた。相手は全身鎧を着込んでいる。丸腰では勝てない。

 騎士達が問答無用とばかりに剣を抜いたのを見て俺は咄嗟に『強制麻雀』を発動させた。


 雀卓には大柄で筋骨隆々な騎士と、女性騎士、イケメン騎士の三人が座った。

 騎士達は剣を抜こうとしたが『強制麻雀』の卓に座ったら武装は許されない。

 こうなった以上、攻撃手段は相手の点棒を奪い取るのみだ。


 「……ほう、これは麻雀卓か? お前のスキルか? 説明して貰おうか?」


 

 大柄な男が俺に言った。やはり麻雀を知っているか。

 男の目が鋭く気圧されそうになる。

 だが、屈するわけにはいかない。俺の優位性は出来るだけ確保したいのだ。


 俺が座る雀卓は自動卓だ。だんまりを貫く間に山が作られ賽が振られる。

 いきなり俺の親番から対局がスタートした。


 俺の手はカス手だった。しかし、九種九牌は出来ない。地道に揃えていくしか無いだろう。

 と、思って牌を切った矢先。


 「……あの、僕、もう揃っちゃってます」


 と、イケメン騎士が言った。牌を倒すと『地和』のみだったがちゃんと役が成立していた。


 「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」


 初めて襲ってくる痛み。16000のダメージは相当だった。

 残りの点棒は9000であっと言う間に親番も流されてしまった。


 「ぐ、うううううううっ!」

 「くはあああっ!」


 残った二人も相応のダメージを受けたらしい。

 だが8000ですんだ分、俺よりも大分ダメージはマシだろう。


 「……なるほど。そういうルールか。つまり、お前の点棒を飛ばせばいいわけだ。面白ぇ」


 大柄騎士が俺を見てにやりと笑った。

 ……まさか、コイツ麻雀が得意なのか?


 「おう、ケビン。俺の『雀スキル』を知ってるだろ。どうせお前は打ち止めなんだからあとは適度に現物を差しこめ」

 大柄騎士はイケメン騎士に言った。イケメン騎士はケビンという名前らしい。

 「パンザックさん。『ピンズ』でいいんですよね」

 「ちっ。敵の前でべらべらと」

 

 『雀スキル』ってなんだ? 俺は知らない。

 ……なんだか凄く嫌な予感がするぞ。

 とりあえずケビンって奴はもう打ち止めらしい。


 自動卓が再び山をセットする。次の親番はケビンへと流れた。


 『ポン』


 ケビンという奴が捨てた3ピンを大柄騎士が鳴いた。

 俺の手はまたもやクソ配牌。ヤオチュー牌を捨てながら堅実に手を進めることにした。

 俺が捨てたのは1ピン。


 『ポン』


 大柄な騎士はそれを更に鳴く。

 俺は川の流れをひたすらに見る。嫌な予感がしたのでピンズを切らないで9ソウを切った。

 次の順でケビンが2ピンを捨てた。


 『カン』


 「はぁっ!?」

 

 俺の口から素っ頓狂な声が出た。どんだけこのおっさんピンズ抱えてるんだよ。 


 「じゃ、ついでに私もカン」


 女性騎士もカンを行った。

 ドラ牌が次々めくられる。

 それから二巡。大柄騎士がケビンの捨てた9ピンを『ポン』しやがった。

 間違いなく張っている。狙いはピンズだろう。

 全く手が完成しそうに無い俺は全力で下りることにした。

 俺はマンズを切る。


 「カン」


 女性騎士が更にそれを鳴いた。こんな「カン」とか「ポン」って簡単に出るものだったか?


 「わりぃな、ツモだわ。 トイトイ、チンイツ………ちっあんだけめくってドラはアタマ2つしか乗らねぇのか。4000-8000だ。命拾いしたな」


 俺の残り点棒は4000。ダメージのせいで意識も朦朧とし始めた。大柄な騎士の傷は点棒が増えたからか回復した。


 「……へ、こんな変な能力を持っているからどんだけ麻雀が強いかと思えばとんだザコじゃねぇか」

 大柄な騎士は言う。


 「……怪我が治るのなら次は私にあがらせて頂戴」

 「おうよ」

 次の一局は大柄な騎士が女性騎士に差しこむ形で終わった。

 俺だけ4000でまわりは25000以上の点棒を確保している状況。俺だけボロボロで騎士達は無傷。俺は一気に窮地に立たされた。

 点棒が減れば仲間内で差し込みを行って回復してくるのはあんまりだろう。

 その次の回も絶望だった。

 ケビンが場風だけの安手で俺からロンであがったが、女騎士が仲間が上がれそうならばカンでドラを増やそうとしてくる。異常なカン率だ。

 おかげでドラが一個乗ってしまった。2600の直撃。

 残りは1400。


 「……嫌だ。嫌だよぅ。死にたくないよぅ」


 「ほぉん、なるほど。その口ぶりだとどうやらこの空間は点数が0になったら死ぬ空間らしいな。……しかしてめぇ、こんな空間を作り出せるくせにまさか『雀スキル』を持っていないのか?」


 「『雀スキル?』」


 「その反応だとやはりか。なら冥土の土産に教えてやる。雀スキルは麻雀に関するスキルだ。ポルタって神さまが麻雀の普及と同時に人々に与えた恩恵さ。俺の場合は『地獄車』っつースキルだ。発動している間ピンズしか引かなくなる。初手に半分ピンズがくる効果もあるな」

 

 ……ふざけんな! そんなの反則じゃねぇか。


 「ついでに、私のスキルも教えてあげるわ。私のは『複写』のスキル。発動している間は手配にある牌と同じ牌しか引かなくなるスキルよ」


 だからカンを作りやすかったって言うのか?

 俺の配牌がやたら悪かったのってこいつらのつじつま合わせなんじゃねぇのか?


 「じゃ、流れて気に僕も。僕のスキルは『天地鳴動』です。最初の一回だけ確定で天和か地和が出ます。長丁場は苦手ですけど東風戦だけなら僕はかなり強いです」


 ……畜生。畜生。こんなの勝てるわけないだろう。


 「さぁ、絶望して貰ったところでとどめと行くか」


 結果からいって俺が蹂躙されることは見えている。少しでも生き延びたい。

 俺は牌をついに自らきれなくなった。次に俺以外があがったら俺は死んでしまう。


 ……だが、一分後。


 無情にも俺のツモ牌が自動で切られてしまった。

 

 「嫌だああああああっ。死にたくなああああい」


 俺のツモ牌が死へのカウントダウン。

 生きたい。生きたい。生きたい。生きたい。

 俺は必死に川をぎょろぎょろと見る。何を捨てればいい。何を捨てれば生き延びられる?

 命がかかった途端に決断が鈍る。もし、これを捨てたらロンされてしまうんじゃ無いか?

 この疑心が俺の手を動かさない。結果……一分後に自動的にツモ牌が切られる。


 「うあ、待って、待って」


 「カン!」


 「うああああああっ! 嫌だ。嫌だ。嫌だよぉ!」


 俺がひたすら牌を切るのを渋るのに対して騎士達はリズミカルに牌を切る。

 死に近づいていく。それは誰にも止められない。

 この麻雀はデスゲーム。死ぬまで終わらない地獄の遊戯。


 そして、十四巡目。


 「ロン!」

 

 ――俺は打ち抜かれた。

 

 


 気がつくと真っ白い空間にいた。

 俺を異世界に呼んだポルタとか言う神がそこにいる。

 

 「ふざけんな。何が無双だ! 何が最強だ! ゴミスキルじゃねぇか!」


 「……馬鹿なこといっちゃいけないよ、ちゃんと無双させてあげたでしょ。僕が飽きるまでは。もうキミは用済みだから消えていいよ」


 「畜生、畜生、畜生! ふざけやがってええええええっ!」


 「そう! それだよ。君が絶望して怒り狂って死ぬ様をね」


 ……とんだ悪神じゃねぇか。

 怨嗟の中、俺の存在は消えていった。

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