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思いやりの気持ち

事件が解決してから、あっという間に二週間が過ぎた。

欣司と千代と佐紀の三人は、良樹の面会に行くことになった。一人ずつ順に面会することになり、一人十分という時間が設けられた。

「元気でやってるか?」

欣司はイスに座ったとたん良樹に聞いた。

「うん、まぁ…」

ぎこちない返事の良樹は、二週間しか建ってないのに、少し顔色は悪いが欣司達が来てくれたことで、表情は明るくなった。

「顔色悪いけど大丈夫か?」

「ただの寝不足だ。あまり眠れなくて…」

「しっかり寝ないと体力が持たね―よ」

「わかってるよ」

久しぶりに会った欣司との会話に慣れてきたせいか、笑顔になる良樹。

「それより生徒会はどうだ?」

「上手くいってるぜ。宇治原と丸山がみんなを引っ張ってるよ」

「そうか…。宇治原にはホントに悪いことをしてしまったな。自分の感情だけで犯人にしてしまって…」

そう言うと、良樹は遠い目をした。

「もう気にすんなよ。アイツはそんなこと気にする程、自分を追い込む人間じゃないって…。大体、一年の時から見ててわかってるはずだろ? アイツの性格を…」

欣司は軽い言い方で良樹を慰める。

「そうだな。宇治原には色々と助けてもらったからな。オレが会長に立候補するって言った時、先生達は全校生徒をまとめられるのかっていう目で見られてたんだ。でも、宇治原だけは違った。オレの味方してくれたんだ」

良樹は一年前に会長に立候補した時のことを思い出していた。

「もうすぐ役員選挙だ。今年は会長一人、副会長男女二人、書記一人、会計二人の計六人だ」

「今年は書記が一人か…。毎年、二人いるみたいだけどな」

良樹は深いため息に、自分が会長をしていた時の色んな経験が良樹の脳裏に浮かんでは消えた。

「小川、嫌なことを思い出させてスマンな」

「あぁ…あのハイビスカスの事件のことか。全然いいぜ」

あの事件のことを思い出していた欣司は、多少辛くなっていたが、良樹の前では何事もなかったように笑顔を向けた。

「小川、あのさ…」

笑顔の欣司に、急に良樹は改まった言い方になった。

こんなに改まった言い方をする良樹を見るのは初めてで、欣司は驚いていた。

「どうしたんだよ?」

「この前、健康診断して結果が戻ってきたんだ。身体には異常なかったんだけど、うつ病って診断されたんだ」

うつむき加減で今の自分の現状を伝えた。

「うつ病…? いつから…?」

今までの良樹からは想像がつかないせいか、さっきよりも驚いてた表情をした欣司。

「前から発病してたみたいなんだ。自分では気付かなかったけどな」

「そっか。まぁ、それだけ頑張ってたってことだと思うぜ。ゆっくり治せよ」

「あぁ…大丈夫だ」

良樹は自分自身に言い聞かせるように頷いた。






翌日の昼休み、欣司は食堂で千代と佐紀、生徒会役員である匠と瞳の五人で昼食をとっていた。

今日で匠と瞳は役員の仕事が終わる。その日の五、六限目に役員選挙があり、当選した役員が活動してくれるのだ。

「えっ? 石原がうつ病?!」

匠はカレーライスを食べる手を止めた。

「うん。前から発病してたらしくて、今回の健康診断でわかったらしい」

「帰りにそんなこと言ってなかったじゃない」

千代は頬を膨らませて言う。

「石原の顔を見たばっかだったし言いたくなかったんだよ」

欣司は顔色が悪い良樹を思い出していた。

「そうよね。石原君の辛い想いに気付いていたらな…」

瞳は良樹の近くにいたのに…という悔しい想いが、この二週間、心のどこかにあったのも事実だ。

「丸山さん、他人の気持ちを汲み取るって難しいことなんだって…ねっ」

「そうだよね」

「それにしても、今日で副会長の仕事も終わりか。オレと丸山は一年間よく頑張ったよな。石原のサポートしてさ。他の奴らもよくやってたけどな。特に行事前は大変だったけど楽しかった」

匠は一年間のことを懐かしむように語る。

「ホント、早いよね。一年前に副会長に当選して、何もわからないまま仕事してたって感じだったもんね」

瞳も一年前に自分が副会長になったことを思い出している。

「二人共、ご苦労さま。大したものじゃないけど使ってよ」

佐紀は二人に写真立てを渡した。

「おっ、サンキュー」

「千代と二人で選んだんだ」

「ありがとう」

瞳は二人に礼を言うと、包み紙を開けた。

「ここに石原君もいてくれたら…。罪を償ってもらって、次の新しい恋もしてもらわないとね」

千代は頬づえをついて言った。

「まぁな。次の恋が見つかるまで野上のこと忘れられないと思うけど、前に進んでいかなきゃいけね―んだよな」

匠は真面目な表情で言った。

「同じ学年の奴が犯人だと推理する時辛い。…かといって、大人が犯人ってのも嫌だけど、何があっても殺人だけは止めないとな」

欣司はどこか遠い所を見つめるような目で、どこか真剣な表情をしている。

そんな欣司を眩しい目で見つめる佐紀。

――欣司君はすごいな。自分のやってることに誇りを持ってる。それに思ってることもまっすぐにしっかりと言ってるもん。

「今日、お疲れ様パーティーやろっか?」

突然、欣司は思いついた。

「いいんじゃない? 五人で駅前のカラオケに行って、ご飯食べるってのはどう?」

千代も欣司の思いつきに賛成する。

「いいねぇ。じゃあ、今日はいっぱい盛り上がっちゃお―ぜ!!」

「気が早いってば!! 宇治原くん!」

瞳は呆れた声を出す。

「ハハハ…。そうだった」

舌をペロリと出す匠に、残りの四人は大笑いする。

「じゃあ、放課後になっ!!」

「オゥ!!」

五人はそれぞれ自分の教室に向かって戻っていく。

――今回は大変だったけど無事に事件解決出来て良かった。ただ残念なのが、石原が犯人でうつ病を発症したこと。二人を殺害した罪を償って、うつ病もゆっくり治して欲しいと願っている。いつまでもお互いを思いやる気持ちを持っていられるように…。


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