犯人への確証
犯人からの手紙が送られてきてから、四日が経った。
まどかと奈津を殺害した犯人も、欣司が疑問に思ってることもわからないままだけ日々が過ぎていった。
校内は「アイツが怪しい」とか、推理までする生徒が出てきたのだ。校長や学年主任、担任は毎日のように注意をしているが、一向に収まる気配はないのだ。
そして、マスコミまでもが反岡高校に押しかけてくる始末で、これには欣司は参ってしまい、頭を抱えこんでしまった。
この日の昼休みに欣司は校長室に呼ばれ、校長と教頭に早く自分を解決するように、と散々言われた。
そう言われた欣司は、改めて二人のモデルの人気度が高く、二人を殺害した犯人が誰だか注目していると感じた。
「小川、事件のほうはどうなんだよ?」
匠が意味ありげに聞いてくる。
放課後、六人は中庭で話すことになった。
「何もわかってね―よ。ホントのところ、お手上げだ」
欣司は手掛かりがないため、事件をどう解決へと導いていけばいいかわからずにいた。
「お手上げだなんて、欣司らしくもない」
千代は紙パックのジュースを一口飲んでから、欣司の見る。
「事件はすぐに解決する、なんて思ってたけど、今回は事件が解決するのかって…」
すっかり弱気な欣司。
「大丈夫よ! 欣司君がそんな弱気だと野上さんと中田さんのファンが悲しんでしまうし、欣司君が事件解決しることによって、犯人の逮捕に繋がってるんだから…」
弱気な欣司を見るに見かねて、佐紀は一つ一つ言葉を選びながら言う。
「そうだな。弱気になってる場合じゃないな。オレがこんなんだとみんなが“小川欣司って事件も解決出来ない弱い男だ”、なんて言われかねないからな」
佐紀に勇気づけられた欣司は、ヤル気を出した。
「そうこなくちゃ!」
「それより昼休みに校長室に呼ばれたんだろ?」
「うん。早く事件を解決してくれって言われたんだ」
欣司は昼休みに校長に言われたことを思い出していた。
「マスコミまで押しかけてくるなんてたまったもんじゃない」
良樹は頭をかきながら呟く。
「そうだよな。小川もインタビュー受けたんだろ?」
「昨日の朝、登校した時に正門で呼び止められて、二つ三つ質問されただけだよ」
まさか、自分がインタビューを受けるとは思っていなかった欣司。
「朝、機嫌悪い欣司にとっては、ウザくて仕方なかったんじゃない?」
千代は肘で欣司をつつきながら言う。
「しつこいしウザいんだよな」
「よくキレなかったことだわ」
「キレるつもりだったけど、記事にされたら困るしやめた」
苦笑いの欣司。
「でも、何がなんでも証拠を見つけて二人を殺害した犯人を突き止める」
「小川君の中で事件解決するのってどれくらいの予定なの?」
「う―ん…あと四、五日ってところかな?」
「少ない情報ですぐに解決するの?」
欣司の強気な性格を知っているために、事件のことでまだ何もわかっていないのに、そんなに簡単に事件解決すると言った欣司に心配になってしまう千代。
この心配は千代だけじゃなく、佐紀にも同じことがいえる。幼なじみだからこそ、他の誰よりも人一倍、心配してしまう千代と佐紀。
そんな幼なじみの二人の想いをわかっているのかいないのか、欣司は誇らしげな表情を全員に向けて、
「大丈夫だ。解けてない問題もあるけどなんとしてでも事件を解決してみせるから!」
「そんな顔しちゃって―。誇らしい表情するのは、犯人がわかった時だけだよ!」
佐紀は欣司のことを心の中で心配しつつ、笑顔で言った。
「あ、そうか。早すぎたか」
「ちょっとね」
「まぁ、あと四、五日待ってて」
そう言うと、欣司はいつもと変わらない笑顔になった。
千代達と別れ、一人生徒会室へと向かった欣司。
そう残りの問題を解くためである。
生徒会室に入り、色々と手掛かりになるような物を探しているが、全くといっていい程わからなくて、途方に暮れる欣司。
「これじゃあ、四、五日どころか、十日も二週間もそれ以上かかってしまう」
ため息まじりの独り言を呟く欣司。
これからどうすればいいか考えていたところに、生徒会室に佐紀が入ってきた。
「あ、佐紀、どうしたんだよ? 先に帰ったんじゃなかったのか?」
「私も何か役に立てることないかな―って思って引き返してきたんだ」
そう言うと、佐紀はゆっくりとした足取りで、欣司に近付いてきた。
「なんか煮詰まってるみたいだね」
「まぁな」
頭をかく欣司。
「欣司君なら事件解決を出来るって、私は思ってるよ。でも、無理だけはしたらダメだよ。もし、欣司君に何かあったら私も千代もいっぱい心配してしまうんだから…。私と千代だけじゃなくて、欣司君に関わってる人みんなが心配してしまうんだから…」
佐紀は欣司の瞳をまっすぐ見て言った。
そんな佐紀に目を丸くしてしまう欣司。二人の間には、なんともいえない空気が流れた。
「…佐紀、どうしてこんなにオレのこと心配するんだよ?」
「心配されるの、迷惑?」
逆に訪ねる佐紀。
「いいや、全然。心配されるほうが無茶した甲斐があるからな」
欣司は無邪気な笑顔で答えた。
「じゃあ、いつまでも心配してあげる」
顔を赤くして言う佐紀。
心配すると言った佐紀に、ありがとうと礼を言った欣司は、すぐに事件の顔つきに変わった。
「役員ってロッカー以外に、机も一人一人あるんだな」
机にも名前のステッカーが貼ってあるのを見ながら言う欣司。
「引き出しには個人の私物が入ってるんだね。そういえば、丸山さんがロッカーにも何入れてもいいって言ってたもんね」
佐紀は瞳が言っていたことを思い出して、ロッカーのほうを見た。
「誰のどこでもいいから、犯人が何か残していってくれてね―かなぁ…?」
そう呟きながら、ロッカーの扉を開け始めた欣司。
すると、ロッカーの中から一枚の写真が入っているのに気付いた。
――あれ? 前に丸山がロッカー開けた時にはあったっけ? オレが気付かなかっただけか?
欣司は思い出してみるが、なかなか思い出せない。そして、この写真の意味を考えていた。
――そういえば、この人達って…。
欣司の脳裏には、今回の事件のことが全て蘇っていた。
欣司は佐紀と別れて、急いで学校から警察に向かった。
「えっ? 犯人がわかった?」
相田警部は大きな声で叫ぶように言った。
「うん。明日の放課後、学校に来て欲しいんだ」
「わかった。何時頃に行けばいい?」
「う―ん…四時半に生徒会室の隣にある教室に来てくれ。あと、ストラップとハンカチタオルを持ってきて」
全てを伝えた欣司は、いつもより元気がない。
「小川君、元気がないけど…」
三宅刑事は心配してくれる。
「あ、いや、なんでもないんだ」
「あの中に犯人がいるのか?」
「まぁ…そんなとこ」
遠回しに答える欣司。
――佐紀、犯人がわかった今では、さっきみたいな誇らしげな表情は出来ない。だから、今回だけは誇らしげな表情出来ないことを許して欲しいんだ。
欣司は心の中で誇らしげな表情が出来ないことを、佐紀に謝っていた。
「いつもの顔してないな」
突然、相田警部は思い出したように言った。
「え…?」
「事件の犯人がわかった時にやるあの誇らしげな顔だよ」
「あ、うん…」
少しうつむき加減で返事した欣司は、
「今回だけはしたくないんだ。あの沖縄の事件と今回の事件のがダブってしまうから…」
ため息まじりで言った。
「そうか…」
「小川君にもそういう時もありますって。高校生で事件解決をしていて、辛い事件ばからなんですから…」
三宅刑事は高校生の欣司に、事件解決させていることに心苦しく思っていた。
「そうだな。今日のところはこの辺で帰るな。じゃあ、明日よろしくなっ!!」
無理して笑顔を作った欣司に、二人の警官は驚いた表情を見せた。
「あまり無理するんじゃないぞ。僕らはいつでも小川君の見方なんだから、辛くなれば言ってくれよ」




