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犯人からの手紙

千代達と別れて、足早に相田警部のいるところへと向かった。欣司が向かっている場所は、生徒会室だ。

しんと静まり返る廊下は、欣司の足音だけがむなしく響いている。いつもは近く感じる生徒会室なだけに、今は誰一人と校舎にいないせいか、遠く感じていた。

欣司が生徒会室に着くと、相田警部と三宅刑事の話し声が聞こえてきた。

思いきって生徒会室のドアを開けた欣司に、二人の警官は驚いた表情をした。

「小川君どうしたんだ?」

「オレもそれなりに事件のことを把握しておいたほうがいいかなって思って…」

「生徒会室にいるってよくわかったな」

「なんとなくな」

欣司はヘヘへと笑いながら言う。

「他のみんなは帰ったのか?」

「うん。みんな心配してくれたで」

「そうか。今、三宅と話してたんだけど…」

咳払いをしてから何かを言いかける相田警部は、

「宇治原君のロッカーに入っていたケ―タイのストラップとハンカチタオルは、誰の物かわかるか?」

袋から二つの証拠品を出した。

「オレもわからないんだ」

「そうか。誰の物かわかればな」

相田警部はため息をつく。

「このストラップって他の刑事達も持ってませんでした?」

三宅刑事はケ―タイのストラップをジロジロと見つめて、相田警部に聞く。

「そういえば…。流行っているのか?」

「かなり流行ってるぜ。千代と佐紀も持ってるし…。ハイビスカスだし女子からすると“可愛い―!”ってなってるんだろうな」

苦笑気味の欣司。

「色は青一色だけなのか?」

「他の色もありますよ。青以外では、ピンク、緑、オレンジの四色で、一番人気がピンクだそうですよ」

「そうなのか…」

そう呟くと、相田警部はハイビスカスのストラップをまじまじと見つめている。

「もしかして、自分もそのストラップ欲しいって言い出すんじゃないだろうな?」

欣司のスルドイ質問に、顔を赤くする相田警部。

「図星みたいだな、小川君」

「そうみたいだ」

「う、うるさいっ! さぁ、本題を事件に戻すぞ!」

焦って早口になる相田警部に、欣司と三宅刑事はクスクスと笑いあった。

「それより寺田先生が中田さんに言い寄っていたとは…」

相田警部はなんともいえない表情をした。

「中田さんは大人っぽいでしたからね。大学生だと言っても信じますよ」

三宅刑事は奈津を思い出していた。

「でも、寺田先生って結婚してるんだけど…」

首を傾げた欣司は、結婚している寺田先生がなぜ奈津に言い寄っていたのかはわからなかった。

「え? そうなのか?」

「うん。オレが一年の時だから、二年前の夏休み中に結婚式あけたって…」

このことを夏休み前に佐紀に聞いたことを思い出していた欣司。

「寺田先生は離婚するつもりだったんでしょうか?」

「それはないみたいだぜ。去年の松前に子供が産まれて、夫婦仲は良好らしいしな。寺田先生の机には家族三人で仲良く写ってる写真が置いてあるぜ」

三宅刑事の言ったことを否定する欣司。

前に用があって職員室に行った時、寺田先生の机の側を通ったら写真立てが置いてあったのを見たのだ。

「寺田先生の心理はわからないけど、中田さんに言い寄って何かをしようとしていたのは確かだな」

相田警部は確信したように言った。

「小川君が考えたことを教えて欲しいんだ」

三宅刑事は手帳を背広の内ポケットから取り出しながら言った。

「考えたっていうか、疑問に思ってることなんだけどそれでいい?」

「それでもいいよ」

笑顔で頷く三宅刑事。

「まずはなぜハイビスカスのストラップとハンカチタオルを宇治原のロッカーの中に入れたのか? この二つは誰の物か? なんのために宇治原を犯人にしたのか? 野上と言い争っていたのは誰か? 今のところはそんなところかな」

欣司は三宅刑事のためにゆっくりとした口調で言った。

「順手にした理由はわかっているのに、他の謎が解けないな」

「オレもわからないことだらけだ。それよりキ―ワ―ドが何かってわかってるだろうな? 警部」

「キ―ワ―ド…?」

欣司の言っていることがわからないという相田警部。

「この事件のキ―ワ―ドは、“モデル”だ」

「そうか! 二人のモデルが殺害されてるもんな!」

三宅刑事は手を叩きながら言う。

「そういうこと。うちの学研にはモデルが二人しかいないから、殺人は起こらないとは思うけど…」

そう言いながら、欣司はハイビスカスのストラップを見つめ、あの日のことを思い出していた。

そう、七ヶ月前の事件を…。

――あの事件からもう七ヶ月も経つのか…。今年の春休みにサッカー部の合宿で起こった事件は…。あの事件もハイビスカスが絡んでいたな。

七ヶ月前の事件を思い出し、不意に泣き出しそうになる欣司。

「…小川君?」

欣司の顔を覗き込む相田警部。

「どうしたんだ?」

「ううん、なんでもない」

「小川君の疑問を一つ一つ解いていかなくてはいけませんね」

三宅刑事は手帳を見ながら言った。

「そうだな。小川君も何かわかったら言ってくれ」

「うん。警部、犯人の目星はついてんのか?」

欣司は窓の外を見つめて聞いた。

「いいや、全然。そういう小川君は?」

「オレも犯人の目星ついてない」

「小川君、なんか変だけど…?」

三宅刑事は欣司の様子が変なことを気にしている。

「ハイビスカスのストラップ見て思い出したことがあってな」

「あぁ…サッカー部の合宿の事件のことか?」

「そう、それ」

「そんな事件もありましたね」

「今はこの事件のことを考えよう。三宅、小川君を家まで送ってやってくれ。気を付けて帰ってくれよ」

欣司は頷くと三宅刑事と共に生徒会室を出て行った。

そして、相田警部は壁にもたれると、欣司同様、あの事件を思い出していた。





翌日の放課後、欣司達六人と教師の二人は、相田警部に呼ばれて署に向かった。

なぜ呼ばれたかは、欣司にはわからない上、見当がつかない。

「あの…相田警部に呼ばれて来たんですけど…」

山川先生が受付にいた刑事に言った。

「どんなご用件で…?」

「相田警部が来たら話すと言っていたので、用件はわかりません」

山川先生がそう言うと、刑事は怪訝な表情をした。

「あなた方は?」

「私達は反岡高校の教師で、この子達は生徒です」

次に答えたのは寺田先生だ。

刑事は怪訝な表情を、欣司達にも向け、欣司と目が会った。その瞬間、怪訝な表情からはっとした表情へと変わった。

「もしかしたら、反岡高校で起こった事件のことだと思うので、少々お待ち下さい」

そう言うと、近くにあった電話に手を伸ばした。

しばらくすると、相田警部と三宅刑事がかけおりてきた、

「すいません。わざわざご足労をかけまして…。では、こちらへ」

相田警部はすまなそうに言うと、前に欣司達が来た会議室へと通された。

「警部、オレを署に呼び出して何かあったのか?」

真っ先に聞いたのは欣司だ。

「そうなんだ。これを見て欲しいんだ」

相田警部は一通の封筒をみんなの前に出した。

「手紙? 誰から?」

「差出人は不明なんだ」

「手紙の内容は…?」

相田警部は封筒から一枚の便箋を広げた。

「“これ以上いらない詮索はするな”だって」

良樹が新聞紙で貼られた文字を読んだ。

「ワ―プロじゃなくて新聞紙なんだね。手が込んだやり方だ」

千代は感心した声で言う。

――この新聞紙の切り方、どこかで見たような気がする。どこで見たんだろ…?

欣司は思い出せずにいた。

「いつ送られてきたんですか?」

寺田先生が聞く。

「今日の昼頃です」

「消印がこの地域なので、疑いたくはないですが、あなた方の誰かだと思われます」

「そんな…。じゃあ、野上と中田を殺害した犯人もオレらの誰かだというんですか?!」

相田警部の言ったことに、匠が起こったように言う。

「反岡高校の中でも疑うべき人はいると思うんですが、二人の友達以外で小川君達や生徒会のみなさんが親しかったようなので…」

相田警部は欣司達の顔をゆっくりと見る。

「警部の言うとおりだ。野上と中田の友達以外でオレらが親しかったのは事実なんだし、疑われるのが筋だ。まぁ、オレらが犯人だとも言えね―けどな」

相田警部の肩を持つわけじゃないが、欣司も同じことを思っていた。

「“これ以上いらない詮索はするな”って、よっぽど自分が犯人だと知られたくないんだね」

佐紀は手紙を見ながら言った。

「そうだ。当然、自分が犯人だと知られたくないのもあるし、自分が殺人を犯した理由を知って欲しくなかったんだと思うぜ」

「殺人を犯した理由…?」

「それが何かってのはまだわからない。それに、普通はオレじゃなくて警察にこのような文面を送ったのかっていう理由も知りたいしな」

「それがわかれば犯人がわかるの?」

「大体はな」

欣司は答えるとため息をついた。

「今日はこのことをご報告させてもらったんで…」

「また来てもらうかもしれませんが、その時はよろしくお願いしますね」

二人の警官は優しく言った。




署から出ると、取り調べを受けたわけではないのに、みんな解放されたという表情になった。

「小川、早く事件を解決してくれよな」

良樹は欣司の肩をポンッと軽く叩いた。

「あぁ…」

「もう警察なんてコリゴリだしな」

警察に事情聴取を受けた時のことを思い出した匠は、苦笑いをしながら欣司を見た。

表情で匠の気持ちを読み取った欣司は、

「そうだよな。早いとこなんとかしないといけね―よな。二人も被害者を出してるんだし、これ以上嫌な思いをする人がでないためにも…」

ズボンのポケットに手を突っ込み、前を向いて言った。

「小川の言うとおりだ。野上と中田の友達を始め、ファンも悲しんでいるからな」

山川先生は欣司達のほうを見てから言った。

みんななんともいえない表情になる。

「山川先生と僕は学校に戻るけど、みんなここから自分の家に帰れるか?」

寺田先生は妙に欣司達を心配している。

「帰れますよ。寺田先生ってば小学生扱いしちゃって―。私達、高校生ですよ!!」

瞳が笑いながら言う。

「そりゃあ、そうだよな」

「では、先生さよなら!」

「あぁ、気を付けてな!」

二人の教師に別れを告げると、欣司達は自分達の家路へと向かった。


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